ゲームをつくる、説明書をつくる(その1)




 昨年のBoard Game Design Advent Calendarで大新さんが、説明書の作り方についての記事を書かれていました。自分の制作手順と異なる点も多く、参考になるテクニックもありとても面白く読みました。せっかくですので今回はそれに触発されて、自作ゲームをどうやって考え、説明書をどうやって書くかをテーマに、サンプルゲームを題材にしてさわりを述べてみたいと思います。

 なおサンプルゲームの内容は今から考えます。筆者は万事出たこと勝負な人なので早めに慣れてください。実際に作りながら考えるので、今回の「その1」では説明書の書き方自体はまだ登場しません。

大まかな流れ

 制作全体の手順をまずお話ししますと、

 1.ゲームシステムとフレーバーを構想する
 2.説明書を書いて、それをゲームの最初のバージョンとする
 3.デベロップ(テストプレイ⇔ルールと説明書の修正、の往復)
 4.グラフィックを作りながら、手順3を並列で行う

 となります。制作はほぼ毎回この流れに沿っています。
 今回は1~2が主題ですので1をさらにブレークダウンすると、

 1a.アイデア~ゲーム概要を考える
 1b.メインシステムを決める
 1c.フレーバーを決めて、メインシステムをブラッシュアップする
 1d.サブシステム含めたゲーム全体を構想する

 みたいな感じです。

 特徴としては、説明書の執筆が制作の初期フェーズとして存在しています。システムを大体決めたら、それをゲームの形にするために説明書のテキストを早めに作ってしまい、デベロップを通してテキスト内容を徐々にブラッシュアップさせるようにしています。大新さんの記事ではテスト等をほぼ済ませてから説明書作成を始めていたので、一番の違いはその点かなと思います。
 これには理由があって、たいていのゲーム制作者の方は箇条書きやメモ等の形でゲームのプロトタイプを管理されているかと思うのですが、私は記憶力が弱いので(ついでに頭の回転も速くないので)箇条書きからルールを正確に再現できません。全部の要素を一度きっちりとテキストに落としておかないと、細かいことをぽろぽろと忘れてしまいます。遊ぶときもちょっと複雑なゲームだとルールや特殊効果が次々抜け落ちたり、自分のボードを把握してなかったりするので……。
 テキストファイルとして形のある中間成果物になっている、というのは何よりも自分の自信につながるのですよね。メモだと紛失も怖いです(発達障害持ちなので、細かいものの管理が杜撰でしょっちゅう失くします)。一発書きでいい文章はなかなか書けませんが、デベロップしつつ時間をかけて推敲することで文章の質も安定してきます。その気になれば前バージョンとのルール差分もとれますし、開発途中で凍結して再度使いたくなったときにも内容を正確に再現できます。差分や再現は実際にやったことはまだありませんが、やろうと思えばできるという安心感を保証したい、ということです。
 あとは私が、文章を書くのをそんなに苦にしないというのもあるかもしれません。説明書は過去作や既存のゲームから流用が効きますので、覚えてしまえば書きやすいです。

 前置きはそんなところです。では実際にサンプルゲームを題材にしてみましょう。

1a.アイデア~ゲーム概要を考える

 はい。何か適当に作ってみます。
 形にする予定はないので、経費度外視で好きな規模のゲームを考えられるのがいいですね!

 まずは制作テーマです。テーマはシステムでもいいし、フレーバーでもかまいません。
 システムだと圧倒的に作りやすいのはマジョリティです。マジョリティってカタカナ語だと難しいですが、比例代表式の選挙というか、株の配当というか、そんな感じのアレです。ゲームでいうとエルグランデです。商業/同人問わずマジョリティをメカニクスにした作品は多いですが、有り体に言ってあれはパクりやすいのですよね。1位何点、2位何点、みたいな点数配分を決めて、それをエリアに配分してしまえばもうゲームらしくなる。構造が見やすいので借用も容易です。
 パクりやすいといえば、ワーカープレイスメントもそうですね。アクションの選択肢をボード上にずらっと並べて、プレイヤーがいくつかのコマを順番に置いてアクションを早い者勝ちで取っていくやつ。ゲーム目標はそれこそ何でもよくて、5種類のリソースを適当に取って交易するとか、何か共通の建物を建築するとか、どんなテーマに対してもゲームエンジンとして組み込むことができます。最初期の形では選択肢は1つにつき1コマですが、後乗りができたり、何人でも入れたりするようなシステムもあって、アレンジもしやすいです。骨格が単純で、要素の差し替えがしやすい。だから模倣しやすい。

 このどちらかなら考えやすく外しにくいわけです。ではせっかくですから両方一度にやってみるのはどうでしょう? ボード上にアクションマスがあって、そこに自分のコマを置く(ワーカープレイスメント)。それを何周かすると1ラウンドが終了して、その都度各マスに置いた自分のコマ数に応じて得点できる(エリアマジョリティ)。既にそういう作品はあるかもしれませんが、説明用のサンプルですから被りは考慮しません。よし、決まり!

1b.メインシステムを決める

 今回のサンプルではアイデア=メインシステムになりましたので、この項目で決めることはありません。

1c.フレーバーを決めて、メインシステムをブラッシュアップする

 で、この段階で私はもうフレーバーを決めます。そのほうが細かいシステムの決めを行いやすいからです。詳しくは以前の記事『テーマドリブンでつくる』にて理由や利点を考察しましたので、興味のある方はそちらもぜひご一読ください。
 といっても、これも何でもいいんです。作曲家のロッシーニが「洗濯物のリストを見せてくれ、それに曲をつけてやるぞ」と豪語したという逸話がありますが、向き不向きこそあれ、システムで体裁を整えてやれば大抵のことはボードゲームのテーマになります(そして、システムの強力な縛りによってそれができるのがドイツ/ユーロの強みであり発展してきた理由だと私は思っています)。ですから、自分が興味をもって制作できるテーマを選んでやればいいのです。
 で、上のシステムを書きながらふと、昨年国立新美術館でやっていたウィーン・モダン展を思い出しました。クリムトやシーレの作品をメインに18C~20C初頭のウィーン美術界の作品を展示してて、それがすごく面白かったんですよね。クリムトなんかはもちろん美術史で習うので知ってましたけど、たとえばクリムトらの《ウィーン分離派》に影響を与えたウィーン美術界の権威ハンス・マカルトの作品など、今まで知りませんでしたがとても絢爛で美しいものでした。マカルトの邸宅は当地の社交サロンになっていたそうです。
 これなんかフレーバーにどうですかね? プレイヤーがウィーンの貴族、画商、画家、あたりになって、サロンを出入りしつつ名声を高めてゆくゲーム。勝利点は名声で、アクションとエリアはサロン、教会、宮殿、美術館、大学、楽友協会、いくらでも挙げられそうです。細かい決めは後でかまいません、Wikipediaなり紙の事典なりでざっと調べて「テーマとして使えそう」という当たりがつけばそれでいいのです。

 メインシステムのブラッシュアップはしなくてもよさそうですが、一応アクションの大枠は押さえておきましょう。
 ワーカープレイスメント的にいえば、リソースを増やす、得点を増やす、リソースを別のリソースや得点に変換する、役割はこのいずれかです。すると多分ここでプレイヤーの役割を明確にしておいたほうがよくて、画家がいちばんイメージしやすくシステムに落としやすいのではないでしょうか。得点は名誉で、その名誉を得るには作品が評価を得たり、上流階級の社交場に出入りすることで覚えをめでたくしたり、等々する必要がある。作品は皇帝や貴族から受注するから、貴族に名前を売る必要もある。で、そのための社交や制作にはお金がかかる。あ、できますね。いけます。
 エリアマジョリティ的にいえば、アクションの強いところには弱い得点源を、アクションの弱いところには強い得点源を割り当てるのが定石でしょう。あるいはゲームの進行に応じて価値を可変にしてもかまいません。さっきの話の続きで行くと、貴族の邸宅や楽友協会なんかはお金をかけてコマを置くとラウンド終了時に高めの得点を貰えるとか、アカデミーにコマを置くと技術を上げられる一方で得点は大したことないとか、そういう感じで割り振っていけばそれっぽいんじゃないかなと思います。
 多分普通にゲームになると思います。ここまで書いてちょっと懸念してるのは、コマ置きという単一アクションがマジョリティとワープレの両方を行っているので、一旦誰かが拡大再生産で走ると止められないのではないか、ということですが、その検証はプロトタイプを作って1人回しで試してからの話です。つまり、その考慮は本記事の対象外です。

つづく

 ということで、説明書ライティングの前段としてゲームアイデア作成の流れを述べてみました。今回はここまでにして、次回は「1d.サブシステム含めたゲーム全体を構想する」として細かい決めをやっていくところから続けます。



<2020/02/18>


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