TTP賞2020応募作のデザイナーズノート、あるいは2人用作品の悩み




 この記事は、Trick-taking games Advent Calendar 2021の10日目の記事です。1日遅れて失礼しました。

 Trick Taking Party ゲーム賞2020に応募した2作品がめでたく一次審査を通過して最終審査に進みましたので、結果が出る前の調子に乗れてるうちにデザイナーズノートを記しておきたいと思います。
 通過した作品はいずれも2人用です。2人用ってトリックテイキングとしては傍流というか変格というか、昨年の黒宮さんの記事から引用すると『2人用トリテというのは特殊なもの、言い換えると正統派のトリテだとは言えないもの』です。遊んでみると変な感じするから、感覚的にもよく諒解されるところではないでしょうか。
 それをわざわざやってみたのはゲームデザイン上の挑戦……ではなく、これらを作った時期は『ソムニア』の2人用を考えたりとか、どうがんばっても2人用ゲームしか思いつかなかったんですね。ミュージシャンやバンドのアルバムを買ってみたら7割方同じ曲調、同じ調性だったりすることあるじゃないですか。あれです。創作やってると特定の方向性に思考が特化しちゃうことはよくあります。たとえばヴァンヘ……、とかリンキンパ……、いややっぱこの話はいいです。
 その代わり、他の応募作との差別化がよくも悪くもできたのではないかと思っていて、各作品の話を簡単にしながら「2人用トリックテイキングって実際どうなの?」というテーマをぼんやり考えてみます。

 ルールはいずれも tartegames.com/free2play/ に載せていますので、そちらをご覧ください。
 遊んでみてね!

ゴールドマイン

 「現代風に親しみやすくしたブリスコラ」です。これだけで説明は足ります。
 2人で遊ぶスタンダードなブリスコラの、あのだらだらした運要素強めな感じが私は大好きで、トリックテイキングかどうか微妙な遊び心地ではあるけど面白いんですよね。カウンティングで腕は多少出るみたいですけど、私は発達障害でワーキングメモリがみかん1個分しかない人ですから雰囲気でハーイハーイってカード出してます。
 よく言われることですが、ブリスコラはイタリアンパックですからKQJが最初覚えづらい。あと3が強くて点数高いのも馴染みがない。プレイが単純な割にはデッキも厚く、そのあたりをよりスモールサイズドな形に収めたら遊びやすいだろうと思って作りました。

 最初に考えたのは、中央に点数カードの列を並べてお互いにそれを取りあうアイデアです。モダンゲームではよくあるメカニクスですが、そういえばトリックテイキングではあまり見ない。だったら使っちゃえ、と。ここで直ちに問題となるのはトリック数と点数幅で、点数幅が大きすぎても小さすぎてもダメです。最小値も多少は勝敗に関与している手応えがほしい。2~7という配列は割とすぐに決まりました。
 メインメカニクスはブリスコラで、点数カードは2~7の6トリックで、ここまで考えたらあとはルールの隙間を合理的に整えるだけです。点数カードは1スートを使えばトランプだけで遊べるからちょうどいいし、6トリックなら3スートくらいがむしろ良い。点数カードを全部表向きにしたら詰碁だから裏向きにする。だったらそれを見るアクションが要る。6枚見るだけでは選択肢が少なくてジレンマもないから、山札作って手札交換するアクションも作れば多少は悩める。山札から1枚引いて1枚捨てると最後はすべてのカードを使い切ることになるので、なんとなく印象が綺麗ですよね。山引きする時点でマストフォローは難しいからなくしました。
 カードをどのトリックの手前にも置けるようなモダンな作り方もありますけど、それはトリックテイキングじゃないし、トリックの順番を縛ることには意味があると思うので、山札から遠いほうから近いほうに進むと視覚的な整理もつく。
 それだけです。たいしたことはなにもしてません。本体のゲーム性はブリスコラにほぼすべてを依拠していて、深い戦略などとは程遠いゲームです。でも、こういう軽いゲームだってあっていいと思うんですね。少なくとも他の応募作にこの方向性の作品は絶対ないという確信だけはあったので、作品一覧の多様性を増やすにはいいのではないか。6~7月頃に考えて寝かせておいたものを、そのまま応募しました。

 本作の論点は1つで、こういうブラフ要素が入ったものをトリックテイキングと呼んで良いのか? ということです。先に紹介した黒宮さんの記事から再び引用します。

このとき大事なことはですね、絶対にブラフの要素を取り入れないことです。ブラフの要素を取り入れたら「トリックテイキングの皮を被ったブラフゲーム」になってしまってトリックテイキングにはなりません。例えばトリュックというトランプゲームがあります。トリュックではスートは無関係なのでフォローもヘチマもなく、おかげで「これはトリテなのか?」と議論になったりしますけど、私に言わせればトリュックはブラフゲームなのであってトリテかどうか議論すること自体が無意味だと感じます。

 これはもう、本当その通りなんですよね。形式的に言えばトリュックはトリテ(の祖先)と言っていいと思うんですが、質的に言えばトリテっぽくありません。『ゴールドマイン』でやってることも内容はいくらか似てて、中央の点数カード見たうえでブラフかけられるものをトリックテイキングと呼ぶのか、という問題はあるわけです。
 実際に作ってみて思うのは、(本作によらず)あるゲームを質・内容といった観点で線引きすることは難しいです。本作にはフォローも切札もあるから、トリュックに比べたらだいぶトリックテイキングに近づいている。そのうえでゲーム内容を「トリテに近いか、ブラフに近いか」という観点で切るのは専らプレイヤーの感覚によるもので、形式的には「トリテでもあるしブラフでもある」としか言いようがない。私はこういう場合は内容よりもメカニクスの形式という観点から適否を判断するほうなので、「一巡順出しランク勝負」という形式を満たしていてそこそこ面白ければ、実作としてはまあ構わないのではないか、という立場です。自分ではトリックテイキングの範疇から出ていないつもりですが、その判断は遊ばれた方に委ねます。
 これは、作者はジャンル批評を放棄してよい、という意味ではありません。制作者がジャンル意識を、批評観を持って制作するのは大切です。その過程で自分なりの批評を実作に反映させています、ということです。

黒か白か(Schwarz oder Weiss)

 タイトル通り、シュヴァルツを言いたくて作ったゲームです。スカートでシュヴァルツ言いたいけど言えないから、手札を絞ってそれをできないか、という発想がベースにあります。
 手札枚数固定で先に言ったもん勝ちではゲームとして単調に過ぎるので、手札を配りながらビッドをリアルタイムでかけていく要素を取り入れました。必然的にノンディーラーのほうが常に1枚だけ情報が多くなりますが、ディーラーにとってはノンディーラーがビッドをかけないことも情報になるので、まあまあ成立しないことはないだろうと思ってこのルールにしました。
 2人だけでは手札運のゲームになるので、ダミーを使うことでいくらかコントロールが効くようにしてあります。それだけです。『ゴールドマイン』よりも一層単純です。苦労したのは人数幅くらいで、4人ではテストした結果ゲームになりませんでした。3人プレイはギリギリ可能ですが、実質的には2人ゲームです。

 着想即ゲームの見本みたいな作品なので、書くほどのことも実はありません。じゃあなんで一次審査通ったのかって? トランプゲームを散々遊んだ経験が反映されてるからだと思います。強いて言えばリアルタイムビッドというのがやや特殊で、これはトリックテイキングに限らず他のゲームでも流用できそうな雰囲気があります。
 2人ゲームって、駆け引きというか押し引きというか、人数が少ないぶん勝負の軸を複数用意して、盤面を広く取って、みたいな工夫がないと成立が難しいと思うんですね。そのことと、トリックテイキングという単純な数比べのメカニクスとは、本来とても相性が悪い。だいたいカード2枚ではどうにもトリックに見えません。ですから何かを妥協したり、何かを捻ったり、トリックテイキングの「らしさ」から外れたことをしないとゲームとして成立しづらい、という実感は作っていてあります。

 最初の問いに戻ると、「2人用トリックテイキングって実際どうなの」かというと、やっぱり変なジャンルです。ダミー作ったり、山札作ったり、カード隠したり、本流とは言えないことをしないといけない。ただそれはそれで比較的未踏の分野ではありますので、2人ゲームを作るのが好きな私なんかは、折に触れて挑戦してみたいと思っています。



<2021/12/10、じゃなくて本当は12/11>


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