2人用トリックテイキングの作り方




 ※この記事は「Trick-taking games Advent Calendar 2019」の12日目の記事です。

 4日目の記事で黒宮さんがモーツァルトをテーマに書かれていて、これは大変素晴らしく私のようなクラシック愛好家にはビシビシきます。どれ、そしたら俺も向こうを張って調べてみるか、なになにチャイコやヴェルディもトランプ好きだったしR.シュトラウスはスカートが好きだった、おおーこれは燃えるじゃないか、ぐらいはGoogle検索で分かったのですが、それ以上は専門研究の領域になってしまいそうで今の自分には無理でした。一度黒宮さんにモーツァルトの話など色々とうかがってみたい。

 仕方がないので今日は全然違う話をしますし、したがって上記の前書きも特に意味はありませんでした。本日のBGMはバッハのイタリア組曲(グールド)です。

本日のテーマ

 2人用トリックテイキングの作り方、これをご説明します。

 あくまで私の作り方なのでこれが全部というわけではありませんが、実作やメカニクス考察の参考に何かしらなればと思います。そしていきなりオリジナルを考案するわけではなく、「既存作を2人用にリメイクする」という視点から、どのような改変を入れたら2人用バリアントが作れるのかを考えてみましょう。
 ちなみにこの題材、はっきり言って制作テクニックを、手の内をばらしています。なので他人にパクられるので私は今後非常にやりにくくなるわけですが、ノウハウは共有したほうがいいじゃない? じゃない?

 アレンジの題材として、草場純さんの『スリートリックス』をとりあげてみたいと思います。ちなみに書いている時点で完成形はまったく考えておらず、成功するのか失敗するのかまるで分かりません。とにかくやってみます。
 ルールは、4人専用でトランプ52枚を13枚ずつ配りきる。マストフォロー、ノートランプ。3トリックまではトリック数の自乗が点数、4点以上はトリック数×-1点。0トリックは-5点。これだけですが、初心者への導入に適したたいへん優れたゲームです。3トリックを目指すからスリートリックスなんですね。13トリックあるので全員3トリックにはならず、誰かが必ず沈むところもよくできています。

 アレンジのポイントは大きく3つあります。枚数調整、不確定性、ビディング/ブラフ、です。

1.枚数調整

 あえて極端な例から始めてみます。この作品は4人用ですが、これを《そのまま》2人用に落としてみます。すると手札は26枚になります。その中で3トリックまでしか取れず、4トリック以上はマイナスになる。
 ダメですね。これがゲームの体をなしていないのは誰の目にも明らかですね。

 そこで1つ目のポイント――枚数を調整する。とりあえず26枚なんて配るのが悪いので、人間が持てる手札は15枚前後がせいぜいです。2人戦だとトリックのプレイが長すぎては冗長を免れないので、10トリック以内に抑えるくらいが私は良いと思っています。山札枚数を減らす。どうってことないのですが、大切です。
 4スートにしたままで、例えば20枚にするなら各スートのA, K, Q, J, 10を使えばできます。それで山札は20枚、手札は各10枚の10トリック。あるいはダイヤ抜きの3スートにして各スートのA, K, Q, J, 10, 9, 8を7枚ずつ使い、1枚の配り残しは裏向きにして除外する、みたいなこともできます。切札があってそれをビッドで決められるゲームの場合は3スート構成も面白いですが、無難にいくなら4スートです。トランプが歴史に耐えて残っているのは伊達じゃなくて、4スート構成というのは丁度良いのです。

 ちなみにこのとき、トリック数による点数配分も変えないといけません。4トリック目からマイナスになると、両者マイナスができてしまいます。根本的にはプラスを狙わせたいゲームなので、全トリック数の境界近くにプラス/マイナスの反転ポイントを置きたいわけです。10トリックならば4トリック目までプラス、5トリック目以降がマイナスでしょう。5トリック目までプラスにすると両者プラスのケースが出ますから。
 あれ、でも4トリックで16点って大きくない? と思ったあなた――正解!! プラマイの境界を変えたら変えたで、今度は得点バランスが悪くなります。そこで私だったらですが、1ディールを7トリックにするか、点数を自乗じゃなくて三角数(ボードゲーマー的にいうとシャハト算)にします。前者だと14枚しか使われないわけでこの際のケアについては後で述べますが、後者だと1点、3点、6点、10点、になってバランスも元に近づいていそうです。両方アリだと思いますが、ここでは試しに後者にしてみましょう。ほかにも点数スケールは色々考えられまして、例えばフィボナッチ数なんかでもいいかもしれません。

 このように、枚数ひとつとっても考えるべきことは案外出てくるものです。ゲーム規模を調整するスタート地点として、とても大切な作業です。

2.不確定性

 さて、山札を4スートのA, K, Q, J, 10の20枚にしました。これを10枚ずつ配りきります。点数は4トリック目までは1, 3, 6, 10点と増えて、5トリック目からは-5, -6, -7, ...と逆に減ってゆく。0トリックの場合は-4点ではどうでしょう? これでうまくいきそうじゃないですか?

 実際やってみると、遊べないことはないけど非常にキツいです。理由はお分かりですよね? 配りきってるから自分が持ってないカードは全部相手が持ってるわけで、完全情報の詰将棋になっちゃってるからです。もちろんそれはそれでエチュードとしては良いんですが(クラシックっぽく言ってみる)、不利な手札を配られたら負けが確定します。それではゲームとしては、やっぱり面白くない。
 つまり、不確定な情報が、ゲームには絶対必要なんです。自分の手札が目の前に伏せられててもよいし(将校スカート)、山札を作ってもよいし、とにかく揺らぎを用意して勝つ可能性を残してあげないとゲームは面白くなりません。3人以上の場合はカードのブレイク(分かれ方)が複数あること自体が揺らぎになるので配りきりが成り立つんですが、これができないのが2人用ゲームの特殊性です。

 山札の使い方は、大きく2パターンあるかと思います。
 1つは、単純にトリック数=手札枚数を超える山札を用意して、そこから所定枚数だけを配って勝負させる手法。ビッドがあるゲームの場合はこれが結構有効で、オーヘルで切札のQあたりを持ってるときにK, Aが山札に沈んでいれば勝てるわけなので、踏み込むかどうかをプレイヤーに聞かせるように機能してくれます。というか4人戦でも普通にそういうゲーム沢山ありますよね。クラバヤスでは山札を何枚か残すだけでなく、手札9枚を配る《途中で》ビッドをさせて、不確定な状態でプレイヤーに決断することを要求します。
 もう1つは、山札を用意して、手札をそこから補充や交換する手法。2人用ゲームではこれが非常に多く、ブリスコラやシュナプセンではトリックが終わるごとに山札から1枚ずつ引きますし、エカルテやピケット、きゅうり(twenty-two)ではプレイの前に交換フェーズがあります。私が好んで使うのもこちらです。プレイヤーが自分の決断で交換を行うので、配り運の不公平感を(見せかけとして)減らせるからです。
 自作『シンカー』では最初から交換を入れておいたおかげで2人用ルールは枚数と点数調整だけで作れましたし、図らずもその出来がとてもよくなりました。先日のゲームマーケットでリリースした新作『ソムニア』はミットレール・ヤスのアレンジなのですが、2人用ルールだけはオリジナルで作成しました。プレイ中の手札補充を導入することでハンドマネジメントに揺らぎを演出し、6枚に手札を絞ることで若干切札をできやすくしています。

 今回のスリートリックスの場合はどうか? ビッドがないので、実はちょっと難しいです。プレイ途中で山札から引いていっても、ノートランプであるため手なりのプレイを免れない。
 私だったら、このゲームには《交換》を導入します。山札をいくらか余分に導入しておいて、配った後に手札と交換して、そこからプレイで勝ち数を調整させる。ランクの幅も若干広めにとっておくほうが意外性を演出できる。逆に言うとぎりぎりのランク数だと途中で勝敗が見えてしまうので、プレイヤーにすこし迷わせたい。
 であれば、10トリックにこだわる必然性はありません。9トリックにします。10トリックにしたのは最後に配りきりとすることが前提であって、手札合計を4の倍数にしたかっただけのことで、配り残しを用意するなら手札は何枚でもかまいません。前節で手札を7枚ずつの14枚にする解決法を提案しましたが、そういうときは必ず余り札を作ったり交換したりのアクションとセットにするのが鉄則です。
 手札18枚に対してだったら、山札は32枚ぐらいが適当でしょうか。配らないカードを残すときの枚数目安は、全体が手札合計の1.5~2倍、というところです。20枚だとほぼ完全情報だし交換の余地がない、といって36枚以上は多すぎる。28枚でもいいと思いますが、32枚ってちょうどスカートデッキの構成で私は結構好きなのです。

 実はここまででも、スリートリックスの2人用バリアントは完成しています。
 デッキはA, K, Q, J, 10, 9, 8, 7の4スート計32枚。各プレイヤーに9枚ずつ配る。山札の残り14枚は裏向きに置き、ノンディーラーから順に一度ずつ好きな枚数を手札から捨て、同数を山札から引ける。残り山札以上の交換はできない。ノンディーラーが最初のリードを行い、マストフォロー・ノートランプでプレイする。点数は4トリックまでは三角数、5トリック以降は-5, -6, -7, -8, -9点。0トリックは-10点でもいいかもしれませんね、どうせ滅多に起こりませんので。すこし意地悪を追加したければ、ディーラーはノンディーラーより多くは交換できない、といったルールも考えられます。書きながら考えているので分かりませんが、そこそこ遊べると思います。
 実際私は2人で何かトリックテイキングでも遊ぼうってなったときは、既存のゲームに対して上記のようなことをざっと3分ぐらいで考えて、1ディール回して調整して、再戦して良さそうなら何ディールか即興的に遊んでしまいます。そのままルールテキストを書いて発表することもあります。こういうのはちょっとした技術ですし、こういった技術を覚えておくと遊びの幅はぐっと広がります。

3.ビディング/ブラフ

 もうひとつ、2人ゲームのバリアントに有効な技術があります。ビディングあるいはブラフです。ブラフはランドルフのゲームなんかでお馴染みですよね。
 トリックテイキングでいうとプットなんかがブラフの良い例で、自分が札を出す前に相手に降伏(そのディールの負け)を促します。手札の強さと相談しながらカード以外の部分で駆け引きをやっていくわけで、似た作品にトゥルックというのもあり、こちらはダブリングキューブを使って同様のことを行います。
 エカルテの交換システムなんかも、ちょっと違うんですがやってることはブラフやビッドに一脈通ずるものがあって、手札と相談して交換あり/なしどちらで行くか、それで勝負を張れるか、をプレイ前に宣言します。相手の宣言に対してどう出るかを聞かれるという点では似ています。
 自分だけが知っている情報をもとに、強く出たり弱く出たりさせる。それで点数が変わったりプレイングに影響を与えたりする。ビッドもそういう点では同じで、これを入れるだけで全然プレイの様相は変わります。ビッドできるのは一方でも両者でも良いですが、両者プラス点にならないような調整は必要でしょう。

 もしスリートリックスにさらなるバリアントとして足すなら、ダブリングキューブを置いて、両者のゲーム点をそのディールでは倍にできるようにするのがいいですかね。これも割と簡単に足せて機能するので、覚えておいて損はありません。ディール前にノンディーラーがダブルを持ち掛けて、ディーラーがアクセプト/パスする、だけでも悪くないです。

さらなる広がりへ

 そんな感じで、枚数調整、不確定性、ビディング/ブラフ、という3点を用いてトリックテイキングのアレンジを説明してきました。この話、実は2つの方向に広がりがあります。

 ひとつは、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ほぼ同じ技術がトリックテイキング以外のトランプゲームにも適用できます。2人で遊べるゲームってあまり数がないのですが、こうした技術を使って即興的にアレンジして遊ぶのも楽しいものです。
 実際に私も、いくつかのポピュラーなトランプゲームの2人戦ルールをこうやって作りました。リンクを貼りますのでよかったら試してみてください、結構ゲームになっていて楽しく遊べます。実作では上記のほかにも細かいテクニックをいくつか入れていますが、アレンジの基本はご紹介した3つのポイントに則っています。作例として参考になれば幸いです。

 ◆2人用大富豪 ルール
 ご存じの方も多い大富豪を、2人で簡単に遊べるようにしています。別府さんが素敵なルール説明まんがを描いてくださったおかげで、私の代表作のひとつになりました。また、ゴクラクテンさんが以下の記事で紹介してくださったのもたいへん嬉しかったです。
 [トランプ] 大富豪 2人用ルール - ゴクラキズム

 ◆2人用ダウト ルール
 これも有名なダウトの2人用チューンナップ……ですが、実はベリシ・ネ・ベリシに近いアレンジです。割と駆け引きが強めのゲームに変えました、ぜひお試しあれ。

 ◆トリックテイキング『シンカー』2人用ルール
 TTPゲーム賞2017の準大賞作を、2人用にアレンジしました。個人的にとても愛着のあるアレンジです。ビッドの入門にどうぞ。

 ◆トランプゲーム『ミッチ』2人用ルール
 有名なボードゲーム『ロストシティ』の本歌です。本家は3~4人がベストですが、少し枚数調整を入れて2人戦でも冗長にならないように工夫しました。


 もうひとつは、これはトリックテイキングを創作するときもまったく同じように機能する、ということです。なぜかというと、トリックテイキング自体が確立されたメカニクスであり、すべての作品は過去作のバリエーションだからです。このジャンルに《完全なるオリジナル》というものは存在しない。ですからトリックテイキングの創作にあたっては、既存作品を深く、あるいは広く知っておくことが、他のボードゲームジャンルよりもはるかに強いアドバンテージとなります。
 実際私が上の説明でいろいろ作例をあげましたが、ほぼすべて伝統トランプゲームです。この技術自体も伝統トランプゲームの経験から私が自分で抽出したものです。オリジナルで考えたのではなく、研究というと大げさですが、伝統ゲームに沢山触れて遊んできたからこそできることです。知らないことが強み、知らないからこそ斬新なアイデアが生まれる、というのは錯覚です。もちろんモダンのトリックテイキングにも私が好きな作品は沢山ありますが、伝統ゲームにだって、面白いメカニクスが数限りなくあるのです。
 伝統的なメカニクスに対して変化をつけてみる、発想を転換してみる、ある部分と別の部分を組み合わせてみる、そうした試みからこそ新しいゲームが生まれます。そのヒントとして、このトリックテイキングの2人戦ルールの作り方が少しでも役に立てばいいな、と思っています。


 で、実際のところこの『スリートリックス』2人用アレンジは面白いのか。4トリックが境界になるからこの場合はフォートリックスですかね(くぼたやさんが3人用を同タイトルで考えられてましたね、あれもアレンジの要領は同じです)。それだけが心配です。



<2019/12/12>


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