メイフォローの意味
話の目的
メイフォローは、トリックテイキングゲームの規則のひとつです。
一般的なトリックテイキングゲームの多くでは、リードが打ち出したカードのスートを後番全員が《フォロー》する、すなわち同じスートを出すことが義務づけられています。これを「you
must follow the suit led」などといった英語の説明に由来して、日本では
《マストフォロー》と呼ぶことが多いです。
これに対して、フォローしなくてもよいことを、日本では
《メイフォロー》と呼びます。といっても英語では、たとえば
pagat.comのブリスコラのページを見ると「there is no requirement to follow suit」などと説明されており、日本独自の表現であることがわかります(以降、本文ではこれらの用語を使います)。
歴史上、たとえばトランプゲームでは大半のゲームはマストフォローですが、たまにメイフォローのゲームも見られますし、両方のルールを折衷したものもあります。また現代のカードゲームにもメイフォローで面白いものがいくつかみられます。この記事ではそうしたゲームから数作をとりあげ、
「スートフォローしないことにどのような意味があるか」「スートフォロー規則なしでトリックテイキングとしての面白さをどう出すか」を概観してみたいと思います。
私自身もアマチュア同人でゲームを作っているので、メカニクスを考察することに興味があります。実際にメイフォローのゲームも作ったことがありますので、僭越ながら最後に「自作でどうメイフォローに挑戦したか」も少しだけお話しさせてください。
ブリスコラ
イタリアのゲームです。2人戦を想定して説明しますが、3人以上で遊んでも概ね変わりません。4人ならペア戦、6人ならトリオ戦です。
8、9、10を抜いた40枚で遊びます。強さはA>3>K>Q>J>7>6>5>4>2。手札を3枚ずつ配りノンディーラーからプレイします。フォローの義務はありませんがフォローしないとトリックに勝てません。またディール時に山札の一番上のカードをめくって切札にし、これは山札の一番下のカードになります。勝った人から山札の上1枚を引き、手札をまた3枚にします。一部のカードには点数がついており(A:11点、3:10点、K:4点、Q:3点、J:2点)これをより多く集めたほうの勝ちです。
ルールはこれだけですが、手札が3枚しかないことからわかるように、マストフォローでは選択肢がなさすぎてゲームになりません。逆にいえば、メイフォローなら手札3枚でも十分ゲームとして成立させられるということですね。あまり手札が多いと、たとえば52枚デッキ4人配りきりの13枚で普通にメイフォローをプレイすると、選択肢が広すぎてゲームとしてはとりとめがないでしょう。言い換えると、手札が多い場合はフォローを促すような他のルールなど、何らかの縛りが必要であるように思います。
ブリスコラの場合は点数を取るのが目的ですから、たとえばランクの低いカードはいつでも捨て札にできますし、逆に手札が絵札しかなくなったらどう出していくか、などが考えどころです。またメイフォローでいつでも切れるので点数の高いハイカードのリードが極めて危険を伴うという、いわば通常のトリックテイキングとは逆の状況も生まれる一方で、フォローする側はポイントカードをいかに仕留めるかを楽しめます。このように、メイフォローとポイントテイキングは一般に相性がいいように思います。
シュナプセン
オーストリアの2人用ゲームです。ブリスコラと似た点も多く、慣れたらこちらも遊んでみると面白いでしょう。
カードがなんとA>10>K>Q>Jの20枚しかありません。手札は5枚です。ブリスコラと同じポイントテイキングで、カード点も10が10点になる以外は同じです。ゲーム進行も同様で、ただし、山札がなくなったら突然マストフォロー・マストウィン(フォローして勝てるときは勝つ)・マストラフ(フォローできなくて切札があれば切る)に変わります。ですから山札がなくなったら、切札でないハイカードにも意味が出てくるわけですね。
山札が全部で20枚で手札5枚なので、ブリスコラと比べて手札はそこそこ多いです。メイフォローの前半は手札を整えて、マストフォローの後半に勝負をかけるという二段構えになっているのがわかります。しかも20枚しかないので、山札が切れたときの相手の手札も覚えやすいわけです。メイフォローを導入する場合、こういう二層式の仕組みも面白いのではないでしょうか。
さらに2つポイントがあります。ひとつは
《マリッジ》で、トリックに勝った後に限り、手札に同じスートのQとKがあればそれを相手に見せて20点、切札のマリッジなら40点がもらえます。点数が高いので狙いたいところですが、山札がなくなると宣言できないため、お相手をいつまで待つかのジレンマがあります(最後まで来ないかもしれない!)。さらにそれを待つ間、つまりメイフォロー中に手札調整でハイカードを出さざるをえず、それを相手に切札でカットされる可能性もある。ここにも待つか諦めるかの悩みどころが発生します。こういう、弱いカードを手札に残す意味を与えるルールは、メイフォローで弱いカードが無駄な捨て札になりやすい点の解消として優れたところです。
もうひとつが
《クローズ》で、自分がリードするとき、もしこの勝負に勝っている/勝てると思えば切札表示を山札の上に置き、山札をなくなったものとすることができます。手札内容を見てマストフォローに入るタイミングを決められるわけですね。ただし、クローズしたプレイヤーはカード点を66点以上取っていないと負けてしまいます。カードカウントや一歩先んじた踏み込みを要求するこのルールが、シュナプセンを極めて戦略的なゲームにしていると個人的には思います。こういうルールは、勝ち負けをコントロールしやすいメイフォローでこそ活きるものではないでしょうか。
他にもいくつか細かいルールがありますので、詳細なルールは
ゲームファームを参照ください。
シュティッヒルン
現代のカードゲームも紹介しておきましょう。有名な作品なので遊んだことのある方も多いかと思います。
3〜6人で遊びます。5スート(6人時は6スート)で、ランク幅は手札が15枚になるよう人数に応じて変えます。面白い点としてはこのゲーム、ランク0のカードがあり必ず負けることができます。それが何の役に立つのか? というのがポイントで……。
ルール上の要点は2つで、ひとつは手札から1枚を自分の「失点スート」として選ばなければならず、トリックでそれを取るとランク数だけ失点すること。他のスートはすべて1枚1点ですから、得点に比べて1枚の失点が鋭く効きます。もうひとつはトリックのプレイでリードスート以外がすべて切札になること。この2点が合わさることで「フォローの必要はないのだけど、フォローを外れたくない」という強い動機を生むことになります。コントロールしたいけれど切札ルールによってコントロールが効かない、その中で少しだけコントロールできる。メイフォローであっても得点システムによって心理的な強い制限をつけることで「強制された選択」の感覚を生むことができる好例です。
ちなみに同じ作者の『知略悪略』というゲームも、同様に得点計算ルールからフォローを強制するメイフォローのゲームです。トリックでの一番強いプレイヤーと一番弱いプレイヤーとが半分ずつカードを分け合うので、勝ちたい場面と負けたい場面、中間に入りたい場面が出てきてコントロールがさらに独特です。
マストフォローのゲームを遊ぶとき、特に慣れていないと難しいのがリボーク(リードスートを持っているのに別のスートを出すこと)です。トランプを含む多くのゲームではカードの裏面からスートが分からないので、リボークをその場で判定する手段がなく、誤りが判明するとディールが壊れます。メイフォローは自分で管理しないといけないプレイ義務がなく、間違えたとしても失点が増えるだけなので、このジャンルに慣れていないプレイヤーにはむしろ心理的障壁が下がって遊びやすいかもしれません。ですから、ルールによる義務でない縛りでフォローを強制するというシュティッヒルンの方法は、ひとつの参考になると思います。
ブリスコラの項で「あまり手札が多いと […] 選択肢が広すぎてゲームとしてはとりとめがないでしょう」と書きましたが、それをクリアしている例でもあります。
自作の話
名作の後に並べるのはたいへん恐縮なのですが、自作の話も少しだけさせてください。
2017年に『あつトリっ!!』、2018年に『ゴーンぎつね』という(テーマは置いといて)両方ともメイフォローのトリックテイキングを2作発表しました。
『あつトリっ!!』は割とスタンダードな3スートのポイントテイキングで、切札はなく基本的にリードスートが勝ちます(詳しいルールは
こちら)。独自性としては、自分が既に出したスートとペアになるスートがプレイされると、(ランクに関わらず)それを宣言して自分のカードと交換ができます。交換するとトリックからは抜けますが、トリックの負けが確定していてもポイントカードを獲得できるため、弱い手札でも差が開きすぎず複数ディールを戦えるよう工夫しました。メイフォローを採用しているのは、このペアを積極的に作ってもらうためです。
またその副次的な効果として、リードスートが抜けてしまって次のカードにリードスートが移ることがあり、弱めのカードが意外にもトリックを取れたりします。それでも手札によっては得点を取れないことがあり、調整し残したところはないではないのですが、メイフォローがポイントテイキングと相性が良いことを確認したのはこの作品でした。個人的にはこの変なシステムにとても愛着があります。
もう1つの『ゴーンぎつね』は、ゲームマーケットのまさにその週の月曜にニュースを耳にしてしまい、2日で苦し紛れにトリックテイキングに仕上げました(詳しいルールは
こちら)。4人のペア戦です。カードは1〜12が各2枚、スートは「カードの裏表」で表します。
リードは必ず裏で出します。このときにランクを宣言するのですが、実際のランクの半分を言ってもかまいません。この宣言が本当なら裏が切札に、嘘なら表が切札になります(ですから嘘をつくとリードは原則負けます)。以降のプレイヤーは好きな向きを選択できます。また特殊ランクの「X」は裏なら最強で表なら最弱です。嘘をつくにも制限がある、10以上の宣言はできない、Xは必ず嘘をつく、など宣言にいくつか縛りを入れることで、出された数字の残り枚数をカウントすること、カードの情報交換をすることにゲームの焦点を合わせました(それを補助するため、ペア同士でのカード交換も導入しています)。
お気づきのとおり、このゲームはメイフォローというよりはノンフォローです。リードスートは固定だし、スートフォローもまったく勝敗に関与しない。あるいは、「リードの切札宣言を信用するかしないか」をフォローしていると考えれば、《マイトフォロー》=フォローしているかもしれない、と言えるかもしれません。これをメイフォローと呼ぶかどうかは微妙で、英語でどう呼ぶかはわかりませんが、日本語でメイフォローと言うときは「フォローする義務はないが、それでもなおフォローの有無は勝敗に関与する」というニュアンスを含めてフォローの語を使っていると思われるからです。実際、
草場さんの2015年の記事では、以下のように述べられています。
私の思うトリックテーキングの本質は、広い意味のマストフォローである。ここで「広い意味」というのは、例えばメイフォローも(広い意味の)マストフォローの一種である、といった用法の「広い意味」だ。で、ここでいうメイフォローは、単にフォローしてもしなくてもいい、という意味だけのメイではない。もちろんメイフォローだからフォローしてもしなくてもいいのだが、肝心なのは(それでも)フォローしなければ勝てないという一点にある。すなわち勝つためにはフォローという選択をしなければならないという点が、重要なのだ。
私にもメイフォローを遊ぶとき、たとえばシュティッヒルンでさえこの感覚は強くあります。定義の話とは別に、フォローがトリックテイキングというジャンルの中核をなすという考え方にはまったく異存ありません。その意味で、私は
黒宮さんの12/9の記事にも全面的に賛同します。これはつまり定義が異なるというよりは定義の目的が異なるということで、私の定義(
昨年の記事参照)は感覚的な部分もありますが、制作にあたってなるべく境界を広くとって作品を分析したいという個人的な要請の反映である、という面もあるかもしれません。
ですから定義の面から『ゴーンぎつね』がトリックテイキングかどうかはちょっと悩ましいところで、私自身は立派なトリックテイキングだと思っているのですが、そう感じない方もいらっしゃるでしょう。急場で作ったものでしたが図らずもトリックテイキングの境界線にいるような作品になったわけで、これはメイフォローを使ったことによる帰結であると個人的には考えています。だから別に自作の宣伝をしたかったわけでは……いや、まあ5%くらいはあるかな……、しかしそれよりも、
メイフォローにはまだまだ創作の大きな可能性があることを作りながら感じましたし、すぐれて現代的な仕組みになりうると考えています。
最後に
トリックテイキングって、枠組みが極めて強固ですから作るだけならすごく簡単です。面白いものを作れるかどうかは当然別ですが、少なくとも私はそう思います。ただ、普通に作ることはできても、革新的なものを作ることは決して簡単ではない。
昨日の黒宮さんの記事にあるような、現代的な=非オンブルスキームで手札を問わず戦えるトリックテイキングを目指す場合は特にそうです。
その中で新しいトリックテイキングの創作を提案するにあたって、メイフォローはひとつの選択肢として有力だと私は考えており、この記事ではその実例の一部を提示してみました。制作を通してフォローというメカニクスの意味を考えることにもつながり、興味深い領域です。ぜひこのメカニクスによる創作が増えたらいいと思っています。
<2018/12/17>
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