ランクとスートの話、あるいは『ラミーファイブ』制作ノート




 今度のゲームマーケットで出す新作『ラミーファイブ』のアイデアを構想しながら、カードゲームの「ランク」と「スート」のことをつらつらと考えてたので書いてみます。
 新作の宣伝という内容ではないですが、《ランクとスートとは何か》に関するちょっとした覚え書きです。結論は特にありませんので、アイデアの断片として気楽に読んでいただければ幸いです。

定義

 「ランク」と「スート」は、どちらもカードゲームではよく使われる言葉です。
 トランプを例にとると、A K Q J 10 9 8 7 6 5 4 3 2 というのがランクで、スペード・ハート・ダイヤ・クラブというのがスートです。ランクが比べるためのもので、スートが区別するためのもの、と言ってもいいでしょうか。
 一応辞書(ジーニアス英和)も引いておきます。

rank【名】
1 階級、階層、等級、地位、身分
2 列、並び

suit【名】
4 [トランプ]組札、スーツ
5 (馬具、よろいなどの)ひとそろい、1組

 だいたいイメージに合ってますね。話のとっかかりとしては、こんなところで大過ないでしょう。

機能

 ランクは比較が前提ですが、スートは比較を必ずしも前提としません。ゲームをしてて、AがKより強いとは普通に言いますが、スペードがハートより強いとは言いません。
 「え、言うんじゃない?」と思うのは、あなたがゲーマーだからです。ゲームによってはスートの強さを決めることがあるんですね。ブリッジというトランプゲームでオークション(競り)をするとき、自分が勝てる数を「勝ち数 - 6」で競り上げていくんですが、同じ勝ち数の宣言、たとえば2のスペードと2のハートだったら、スペードのほうが強くなります。スペード > ハート > ダイヤ > クラブの順で、左ほど強いです(余談ですがこれをブリッジオーダーと呼びまして「スハダクラブ」「SHDC」と略して覚えたりします)。
 ただしこれはオークションにだけ使い、実際のプレイではこの順番どおりに強くなるわけではありません。オークションで宣言したスートは《切り札》といって一番強くなりますが、それ以外のスートの強さは平等です。1回の勝負では、切り札を除いては先に出されたスートがその一巡でもっとも強くなります。ですからブリッジの場合は、そしてたいていのカードゲームがそうですが、スートの強さはあったとしても相対的なものです。カードの種類を分けたりまとめたりする機能のほうに重要性があります。
 対して、ランクの強さは絶対的です。ブリッジで勝負するとき、同じスートならKがAに勝つことは絶対にありません。違うスートでKがAに勝つことはありますが、それはランクではなくスートが違うからです。大富豪で革命が起きると3がQに勝つこともありますが、あくまで「ランクの強さを逆にするよ」という決め事があるからそうなっているだけで、ランクの強さは固定していることが前提です。(8切りはどうなのって? あれも決め事だから……ほら、階段で出すと7-8-9は9-10-Jとかに負けるじゃない)

 ここまで読んで何となく察せられるかと思いますが、スートが強さを持つこともあるってことは、ランクとスート自体があくまで便宜上の《決め事》にすぎないとも言えます。何を言っているかというと、トリックテイキングゲームを作るときにスペード・ハート・ダイヤ・クラブを「ランク」と呼んで、A〜2を「スート」と呼んでも実は構わないわけです。13スートで各スート4ランク。どうなるんでしょうね、きっとリードスートが勝つばかりでゲームとしては機能しないでしょうけど。
 A〜2をスートと呼ぶことに違和感があるのは、使っている記号が順序を強く表すものだからで、4つのマークをランクと呼びづらいのはそれが順序を直感的に示さないからです。ですから我々がトランプのランク/スートを見た目通りの機能として使うとき、無意識のうちに13ランク/4スートで遊ぶよ、という決め事を前提しています。
 前に別記事でちょっと触れたんですが、A〜2というのはランクの「表象(representation)」で、それをもってゲーム中にカードの順序を定めることをランクの「機能(function)」(または「機構(mechanics)」)と呼ぶこともできるでしょう。トランプのランクの表象はA K Q J 10 9 8 7 ... という順序を示すことが多いですが、Jが最強だったり3が強かったりするゲームだって実際あります。表象と機能は一致するほうが見やすいものの、一致しなくても構わないわけです。
 トランプゲームを独自コンポーネントにする意義はこのあたりにあります。スカートでJ最強とかドッペルコップでQ最強とか、直感的に入ってきづらいものを独自コンポーネントによってランクを整理し、プレイヤーにとって理解しやすくするのは重要な処理です。

 以前ツイッターで、トリックテイキングに関してあかしあさん(@akashianomi)とこんな話をしました。





 ここでは双方の認識はきちんと合っていて、あかしあさんが指しているのは表象としてのランクで、私が言及しているのは機能としてのランクです(あかしあさんはこれを「強弱」と表現していて、そのほうが本当は意味が明確ですね)。スート(表象)で強弱を決める場合にはスートがランク(機能)になる、というような意味です。だからトリックテイキングでランク(表象)がなくとも全く問題ないが、ランク(機能)がないことはありえない、ということです。
 トリックテイキングに関していえば、機能としてのスートはなくても成立しますが、機能としてのランクがないと成立しません。ただスートの横軸がゲームプレイに奥行きを与えているのは間違いなく、スートがない場合はランクによって別の軸を与えてあげないと、プレイが単調になってしまうのは避けられません。

 ちなみにこの発想で行くと、強弱を決めるのに別にランク/スートの2軸である必要はなくて、3軸以上も想定できるでしょう。それが煩瑣でないか、プレイングにとって効果的かどうかはまた別問題ですが、表象が3つ以上あって勝敗判定の規則をしかるべく整えてあげれば形式上は問題ないわけです。

強弱でないランク

 と、ここで突然話は自作のことに飛んで恐縮なんですけど。
 今度のゲームマーケットで出す『ラミーファイブ』というゲームのカード構成を検討していて、ランクの組み立てに悩みました。というのもこのゲームは自分のオリジナルではなくて、象棋麻将(シャンチーマージャン)という伝統ゲームのアレンジなんですね。元々は中国の象棋(シャンチー:中国将棋)の駒や牌を使って遊ぶんですけど、向こうの人でないと駒の種類に馴染みがないのでその置き換えが必要になり、さてどう置き換えようか? という。

 元のランク――便宜上こう呼びます――は、将士象・車馬砲・卒/兵(ショウシゾウ・シャバホウ・ソツ/ヘイ)となっています。これが将棋なので赤黒2色のスートになります。ですから元々は順番というわけではないんですが、カードゲームでは将士象車馬砲卒と並べます。
 で、このゲームだと順番に意味はあるんですが、強弱はありません。今回のアレンジはs-ABC-JKLとランクを振って、これが逆順で将士象車馬砲卒に対応してます。Lordが将、Knightが士、Jesterが象、といった具合です。CとJが離れているのは、ABCとJKLがそれぞれ3枚1組を形成するのですが、JとC(象と車)はつながらないので、これを明確にするための処理です。アルファベットを割り振った意味付けを強くするために、各カードのランクに対応する名前(Lに対してLordなど)をつけました。

 最初は、強弱がないならKLMでもいいんじゃない? と悩みました。Knightが士、Lordが将、Mageが象ですね。3枚で1組を形成するルールなので、将士象でも士将象でも実用上は構わないし、JesterよりMageのほうが将棋イメージにいくぶん近いし。
 それでも2つの理由からJKLにしました。1つは、将(Lord)だけが各スート1枚しかないので、これがトップに来るほうがカード構成として元の駒構成と揃って自然であること。もう1つは、このカードでいくつか他のゲームもプレイできるのですが、ゲームによってはランクの順序が意味を持つ場合があることです。このゲームだけなら順序を崩してまったく問題ないのですが、これは象棋麻将のアレンジであるだけじゃなくて、象棋駒を使ったゲームのアレンジカードという意味もある、だから極力元のオーダーを保つべきだという結論に至り、JKLの順にしました。
 ちなみにKLMとしてトップカードをKingにすることも一瞬考えたのですが、ABCが昇順なのにKLMは降順になってしまうと、やはり他のゲームに支障が出るため没にしました。

 どうしてこんな話をしたかというと、こういう《強弱のないランク》はランクと呼べるか? というのをふと考えたんですね。ファンタン(七並べ)なんかも勝ち負けのない例ですね、別にどのランクも強いわけではないけど、順番はゲームにとって必須です。
 私はでも、順序を示す機能がある以上、これもランクと呼んでいいのかなと思ってます。というか正確を期して言うと、ランク自体は順序を表してさえいればよくて、それが強弱という意味を有するかどうかはゲーム次第なんですよね。ABCと並んでいることに意味がある。象棋麻将ではそれをラミーのラン/シーケンスとして使うし、他のゲーム(たとえば打棋子)では強弱の順序として使う。ですから上で「ランク(機能)」と私が書いたとき、実はオーダー(順序)と強弱の区別が曖昧だったんですが、厳密にいえばこの2つは別物です。オーダーはランクの内包であり、強弱はランクの外延である、と表現するのがよいでしょうか。

 もちろんこれが数字でも機能としては同じで、たとえば将士象/車馬砲/卒を987/543/1と置き換えることはできますけど、若干違和感ありますよね。2と6が抜けていることのほうに目が行くし、カードの強弱が強調されるきらいがあって、これはこれで象棋麻将にとっては望ましくありません。アルファベットのほうがその意味ではバランスがよく自然です。順序を表すものってほかにも五十音、いろは、曜日などいくつかありそうですが、ゲームによって最適なランク表象は異なるし、同じゲームでもどれを用いるかによって微妙に色合いは変わりそうです。そう考えると、かるたのひらがなもランクですね。

 最後に改めて定義すると、(勝ち負けを決めるものでなくとも)並び順を定める属性がランクである。それに対してスートは、並び順を定めない要素によってカードを区別する属性である。とりあえずそんなふうに言えると思います。ほんとはもう少し(特にスートを)初見でぴったりくる定義にしたいところですが、こうして考えるとスートって、消極的にしか定義できない概念のようにも見えてきます。
 上で3軸以上という話をしましたが、ランクとスートの定義は相互に排他かつ補完的なので、カードを区別する属性を入れると、本当は必ずどちらかの概念上に落ちます。ですから全く新しい第3の軸を入れられるわけではなくて、別の軸がランク/スートのどちらかに加わる、ということに実際はなるでしょう。

おわりに

 ということで《ランクとスートとは何か》というテーマで考えてみました。
 スートの明確な説明を考えてみたかったのですがいまいちうまくいかず、後半がいきなり自作のデザイナーズノートになっちゃってなんだか申し訳ないです。ランクとスートはカードの2大属性ですが、これを分解したり結合したり増やしたりすることも考えられるわけで、そのための下敷きになっていればいいなと思います。



<2018/10/13>


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