『あつトリっ!!』デザイナーズ・ノート


※この記事は「Trick-taking games Advent Calendar 2017」の9日目の記事です。



先日のゲームマーケット2017秋で『あつトリっ!!』という、オリジナルデッキのトリックテイキングゲームを作成して売りました。
流行語(知らない方はこちらをどうぞ)をテーマにしたいわゆるネタゲーなのですが、おかげさまで予想を上回る好評を頂きまして、引き続き販売したいと思っております。機会があれば遊んでみてね!(宣伝おわり)

◆ゲームマーケット公式の紹介ページ

あつトリっ!! | 月の会&タルトゲームズ | ゲームマーケット
※ルールもあります。2ページと少ないのでよかったら見てみてくださいね。

今回の記事はそのデザイナーズ・ノートになります。
そんなネタゲーをどう作ったか、主にゲームデザインの面で考えたことのメモです。トリックテイキング好きの方、作っていらっしゃる方に何かしら参考になれば幸いです。
かなり長いので、お暇なときにどうぞ。

1 着想
2 ルール
3 テスト
4 振り返って

1 着想

ゲームマーケット秋に出る際、当初は『ブルームーン・マスターズ』等既刊の販売をメインに、作れたら時事ものひとつ出すか、ぐらいの気分でした。

そんな折の9月、仕事の繁忙期をなんとか抜けて旅に出発する当日、「熱盛を言わないようにするゲームとか作ったらどうだろう?」と旅の高揚感から思いつきました。よくあることです。
野球ファン向けのゲームになりますけど、野球ゲームって多分あまりないのでテーマとしては狙い目だろうとはずっと考えてました。ボードゲーマー向けではないのでルールが易しいことは絶対条件ですが、たまにはやってみるのも面白いんじゃないか。
早速そのアイデアをツイートしたところ、こんな返信が。



なるほど思いつかなかった。しかしトリックテイキングって要は数比べですから(このへんは11日目に改めて書きます)簡単といえば簡単だし、それを熱盛と絡めるのは意外といけるのでは?

その後、新宿を発車した夜行バスの中、なんとなく考えます。

テーマが熱盛、これが出発点にして動かない原点です。当然スートは「熱」「盛」だろう。
2スートだと少ないか、それともピッグテイルみたいなのを狙ってあえて2スートで作るか? まあそれは後でいい。で、カードは「熱」「盛」を含む熟語、熱海とか熱湯、大盛中盛並盛、そういうのが飛び交う。うん、バカだ。何か知らんけどアリだ。
とにかく「熱」と「盛」がたくさんある。で、どっちかのスートでマストフォローする? 「熱盛」カードは両方兼用の最強で、これが出たらフォロースートを切り替えるとか? フォローのルールは置いとくとして、とにかく場に熱盛が出たら言う。みんなが次々になんか言う。これ絶対ウケる。おお、行けんじゃね?
すると、「熱」と「盛」が場に出たら「あつもりっ!」を言うことがある。そうするとペナルティ…いや逆だ、プレイヤーが言うんだからその宣言で何かいいことがあるんだ。ブルクハルトの「ウィリー」みたくトリックに勝つか? カードを1枚取るか? 取るとしたら自分のか、相手のか? 熱盛チップがもらえるのか? 細部は後で決めるとして、仕組みはできそうではある。

この時点で作ったのはこの程度です。まだゲームにはなっていません。
ただ、2スートでしかも漢字をスートにするのは新鮮味があります。それで熟語を作るのも悪くありません。ゲーム目標はいつのまにか逆転してますが「熱盛」からは外れてないのでかまいません。これがトリックテイキングにどう結びつくかは知りませんけど、アイデアは絶対何かに使えると思って、しばらく寝かせました。

2 ルール

まあお察しの通り、これだけでゲームがすすっとできるわけもなくて。
そのうち10月も半ばになり、ゲームマーケットに新作を出すならいいかげん決めないといけなくなってきたので、何度か喫茶店でルールを考えます。もちろんその合間にも頭の片隅でなんとなく考えてはいるんですが。

ちなみにその前に「熱盛」が商標申請されたと聞いて、熟語そのものをデザインや説明に使いづらくなったのも割とショッキングでした(こうして文章に書くぶんにはいいよね、ゲームにはそのものズバリの熟語は登場しません)。まあそれは仕方ない、とにかく検討してみよう。

まずは、そこまでに考えてたことを棚卸ししつつ、フィックスしていきます。
スートは2種類でもいいけど、言い間違えるようなスートがあると面白い。「失礼しました、熱盛と(略)」を言わせたい。「他」……いや「雑多の雑」かな。「熟」「塾」あたりは使える。「盛」っぽい字って何かあったっけ? あと関係ない野球用語で「新井」「大谷」とかも入れるか。すると3スート。熱盛を多めに言わせたいから「雑」はちょっと少なめになるかな。あまりスートが増えても熱盛が減るから、思い切って3スートにしたほうがゲームの目的にかなう。
熟語がどう頑張っても各スートで7種類ぐらいしかできないから、全部で18種類がいいとこか。18枚だとトリックテイキングとしては少ない。とすると同カードを複数枚用意することになる。どっかをピンポイントで増やすのは調整が面倒だから、単純に2掛けで36枚、3掛けで54枚。54は多いな、36だと少なめだけど3〜6人のレンジで対応できる。手札も12、9、7、6か。よし丁度良い、36で行こう。その程度なら印刷代もなんとか出せる。
6ランクx3では雑がたぶん多すぎる、だから雑は5ランクに減らすか。そのぶん盛を1ランク増やす。5と6と7。ランクは不均等なほうがゲームの揺らぎが出やすい気がするから、これでいいはず。

で、ですよ。ここまではいいんですよ。
問題はフォローとウィンのルールです、これが決まらなくてずっと悩んでる。大雑把にいうとフォローの義務があるかないか、切り札があるかないか。どう振ってもトリックテイキングだからある程度形にはなるわけで、あとは決めの問題でしょうか。

いや、こういうときは原点に立ち返ります。熱盛を言わせたいゲームなんだから、1トリック中にカードが「熱」「盛」両方出たほうがいい。マストフォローでは全員フォローを余儀なくされてしまって熱盛宣言が減るから、所期の目的のためにはメイフォローのほうがいい。ルールで「好きなカードを1枚出す」と書けば終わるからノンゲーマーへのほうがむしろ説明はしやすいわけで、野球ファン向けというターゲットにも合致している。切札はどうしよう?
切札の前に勝敗を決めよう。メイフォローだから当然フォローして勝たないとスートが用をなさないわけで、だからフォロー内のランク勝ちでいい。2枚同じのが出たら、パーティゲームだから後勝ちでいい。同じダブルデッキだと「ドッペルコップ」は先勝ちだけど、あんな戦略性は要求しない。
ではその中でメイフォローにさせる意味は何か? 好きなカードが出せるから、勝ちたくない/勝てないときに熱盛宣言をするためにカードを仕込む。特に雑リードのときは勝負を捨てて熱盛を狙いに行く。そうするとトリックを取る以外にもカードを出す目的があるからプレイに2本の軸ができるわけで、だからどちらもプレイヤーの裁量で狙えるようにメイフォローにする。これで論理は通っている。メカニクスもよくフィットしてる。

ところで、なんで熱盛って言うんだっけ?
熱盛を言うと点数になる、これは間違いない。でもトリック勝ちが第一だから、出したカードを得点化する程度がバランスは丁度いい。カードが消えて勝負を捨てる代わりに得点化で少しはいい思いができる。良い中庸だし負けるときの救済にもなっている。では自分のカードが取れるのか? それはおかしい、自分で高いカードを出して自分で取ってたら完全に手札運だ、だから相手のカードを取るほうがいい、多分。自信ないけどテストで確認しよう。
出した人が即熱盛を言えると早押しが成立しないのは以前「テンガロン」を遊んだときのルール間違いで見た、だから出した当人は言えなくてその前のスート確定済みのプレイヤーだけが言えるべきだ。言った人が出した人のカードを取る。それで言った人のカードが残ると高ランクの「熱」「盛」カードが強すぎるから、言った人のカードも出した人に渡すことで公平性が担保される。つまり「パドブラ」式の交換で、相手に良いカードをプレゼンして熱盛を誘うことでウィンウィンにできる。パドブラの実績があるからこの仕組みは回るはず。人数は多いほうが2枚消えてもトリック勝負として形になるから、パーティ系として人数多めでプレイする狙いにもおそらく合っている。

1枚1点でもいいけど単純すぎるから、ポイントテイキングにして得点傾斜をつけたほうがいい。点数は星なり野球ボールなりで表す。ドイツ式に1枚11点とかは多すぎるから星は1枚に3つぐらいか。星が多いと熱盛が出やすくて、少ないと逆に相手のカードを熱盛で取るメリットがでかい。それにしても3対0交換だと、熱盛を言われるプレイヤーが理不尽じゃないか? いや、そこは多分駆け引き要素として残していいのかな。これもテスト確認だ。
得点はどこを高くしてどこを低くするか? 凹型か、凸型か、線形増加/減少か?
まず低ランクのカードに使い途を与えるために、低ランクのカードに星を増やすのはほぼ自明だ。高ランクは低くしたほうがいいか? そうすると高ランクカードはトリック勝ちするためのカードになる。それはそれで成立するけどきっと勝負が平坦になるし、だいたい高ランクのカードが「ランク勝負も強い」「熱盛も言うほうが得」では強さのバランスがおかしい。高ランクの星も増やしたほうが、熱盛でカットされる危険性を作れるから、ハイリスクハイリターンのカードになる。
なので凹型にして、ミドルカードの点数を下げる。盛がちょうど7ランクあるから、星を3210123と割り振れる。他もおおむね同様に振ってよい。ミドルは使い勝手が悪いわけだけど、熱盛狙いで先に出して後ろのカードをカットに行くとか、エスタブリッシュを狙って待つとかの使い道はできそう。雑スートも似たような役割で、熱と盛がなくなった頃にトリックに勝つために使う。
だから別に切札はなくてよい。メイフォローで素朴に1スートの切札を入れると計算が立たなすぎる。それによってルールをシンプルに抑えられるし、熱盛を言うことが切札代わりに得点を取るための戦術だから、ルール上の要請がない。

あれ、熱盛宣言の有効期限はいつだ?
次がプレイされるまででもいいけど、トリックの最終カードはどうするんだ? 最終カードには言えないほうがいいのか? でもそれは下家がディシジョンを握りすぎるから何か決めたほうがいい。客観的な基準としては時間しかない。3秒ルールにしようか、それならノンゲーマーも直感的に理解できる。早押しのパーティ感も出せる。ゲーム性という面では絶対必要なものじゃないけど、そこはノンゲーマー向けに振る。ゲーマーなら「3秒ルールは単なる目安」ってことは理解してくれるだろう。

というコーヒーを飲みながらの紆余曲折を経て、やっとほぼルールが固まりました。この通りの順序で考えたわけではないんですけど、だいたい筋道としてはこんな感じです。

といっても、トリックテイキングとしてあまり類例のないシステムなので、面白いのかどうかが全然分かりません。ただこのルール最大のポイントは「みんなで熱盛を言うトリックテイキング」というそもそもの原点・目的から、ほぼ論理的な必然性だけでルールを導き出しているところです。たぶん他の形にはしようがありません。
だから成立するか、ゲームとして壊れてるか、どっちかだろうなと思ってました。机上ではゲーム性が成り立ってる。しかし実際のプレイでそれが面白く映るかどうかは全然別の話です。よし、だるいけど頑張ってテストしよう。

3 テスト

というわけで、直近のゲーム会に持参してテストをお願いしました。説明のルール量が少なくて我ながら不安しかありませんが、ルールとカードの見た目でウケてくれたので滑り出しはOKっぽい。ちなみにテストキットは明朝体で、完成品とはまた印象がちがいます。
そして実際やってみると成功してそうです。出すカードは結構考えるし、星の数で熱盛を言うべきかどうかちゃんと迷う。言い間違えることは実際には一度も起こりませんでしたが、ルール上のネタとして残しておいてよいでしょう。プレイヤーは全員「これは面白い。無駄なカードがないのがいい」「今までやったメイフォローの中で一番いい」等と言ってくれて、予想外に好評でした。これで出せる自信がつき、テストプレイヤーの皆さんには本当に感謝です。

1点疑問が出ました。熱盛でリードカードが消えたときの場のスートはどうなるのか? 自分の案では「カードが消えてもスートはトリック中保持される」でしたが、それだと消えた後の判定がわかりにくいから表示カードをつけるべきではないか、という指摘です。でも煩雑そうだしコスト面も大丈夫か?
では思い切って、リードスートを残った次のカードに移してはどうか? 初回の感触がよかったので2回目を早速それで試してもらったところ、リードが移ることによって「2枚目に弱い別スートを差し込んで漁夫の利を得る」という新戦法が生まれ、スート判定も簡単だしそっちで行けそうな見込みになりました。
スートごとの色分け・マーク分けは全然していません。これに対する指摘も入りましたが当然そのグラフィックデザインは意図的なもので、言い間違いや一瞬の迷いからくる笑いを誘いたいわけですから、全体を同じ見た目にするほうがこのゲームの目的には合っています。ここは自分を信じて突っ切ることにします。

これでルールはフィックスです。考案したルールほぼそのままで製品版になっており、テストでの修正箇所は上の1点のみ、信じられないほどスムーズに運んでます。
言い間違えたときに実際のペナルティを課すかどうかだけ決めておらず、ただテスト時の感触では別になくてよさそうでした。その後ルール校正にて検討したのですが、ペナルティがほぼ得点カードを失う方向しか考えられません。取ったものが1枚消えると理不尽さが強いし、場のカードを消すようにすると、わざと言い間違えてカードを消すことで悪意をもってトリックを壊してキングメーカーになれる危険性を感じたため(あとルールも煩雑になるので)、単なる「言わせルール」に留めました。

あとは実物を作るだけで、今回は自分でカードデザインを作って入稿まで持っていく必要がありました。今まであまり触ったことのないグラフィックソフトを必死で使い、どうにかカード・箱・説明書を作成してぶじ入稿にこぎつけました。変更点は星の数を少しだけ増やすように微調整したくらいかな、得点は多いほうが嬉しいものですから。
それはそれでノウハウ的に参考になる話が1本書けそうですが、今回はゲームデザインの話ですから、また別記事にしたいと思います。

4 振り返って

おかげさまで、遊んでくださった方の評価は軒並み上々です。事前の試遊でもルール説明でめちゃくちゃ笑ってもらえたのが自信になりましたし、当日もよく売れました。
ゲームマーケット当日にブースを手伝ってくれた友人に「試遊卓があればもう10部以上はいけた」と言われましたけど、申込時点では影も形もなかったからね、しょうがないよね。

正直、自分でも今までの作品でいちばん出来が良いと思っています。というか作者がルールを考えたときの想定よりも面白いです。

理由はいくつか考えられます。
まず、トリックテイキングの枠組みがそもそも堅いし強いです。伝統ゲームとしての積み重ねがあるのは伊達じゃなくて、ちょっと叩いたり何かを足したりする程度では壊れません。土台のゲーム的な強さに助けられてる面が多分にあります。

もうひとつ、これはうまく説明しづらいのですが、このゲームに関しては自分で「作った」という意識が希薄です。それは先ほど言ったように、「熱盛トリックテイキング」という出発点からほとんど必然性だけでゲームルールを構築しているからで、システム部分では余計なものを足していません。ですから「作った」というよりも「引き出した」というほうが実情に近いです。このテーマをもとに注意深くやれば、極言すると誰でもこれに行き着くと自分では感じています。これを提案してくれたゆうりさんには本当に感謝です。
もちろん、ベースアイデアから論理的に組めばいつでも面白くなるわけではありません。テーマとメカニクスの噛み合わせがそもそも悪いとコケることはままあるわけで、そこから苦労するのもゲームデザインではよくある話です。つまり今回は「熱盛トリックテイキング」というテーマの時点で偶々当たりを引いたということです。「相性の良い組合せで、余計なものを足さなかった」ことが成功(自分のような零細サークルのレベルならそう言っていいですよね、きっと)の理由ではないでしょうか。

まあそうは言っても、こんな悪魔合体の組合せをマジメに考える制作者なんて多分私以外にいないでしょうし、そこからトリックテイキングのゲーム性に沿ってトレースするのも根気は必要ですから、その程度にはオリジナリティに対する自負はあります。
完成品を見た方は「なぜこのテーマで? もっと普遍的にすればいいのに」と思われたかもしれませんが、本作は完全なテーマ先行です。システムから考えて後付けでテーマを乗せたわけではありません。少なくとも私にとっては、このテーマこそがシステムの独自性をくれたので、テーマ先行というのは大切な作り方です。

完璧な作品ではもちろんなくて、たとえばこれが本当にノンゲーマー向けかというと微妙なところがあります。ルール量自体は少ないんですけどプレイは案外考えるんです。評判もゲーマーのほうが概して良い。野球ファンに手にとってもらって大丈夫かとは思わなくはない。ターゲットを一点に絞りきらずにちょっと中途半端になってしまったかな、という反省はあります。
ただ、ごく個人的な意見として聞いてほしいんですけど、初心者向けだからといって考えどころをあんまり易しくしたり、ゲームシステムのデプスを浅くしたりする必要は、私はないと思うんです。覚えるルール量はもちろん少ないほうがいいけれど、少ないルールを掛け算することで(たとえば熱盛でカードが消えるとリードスートが変わるように)深みや複雑さをきちんと作っておくほうが結局は遊びの寿命も延びるし、よく言われる「シンプルで奥深い」に近づけると思います。
昨年の「Board Game Design Advent Calendar 2016」でゆたかさんが「ボードゲームデザイン|「シンプルで奥深い」を疑え」という記事を書かれていましたが、我々素人デザイナーはまず「シンプルで奥深い」の罠にかからないことが重要だと私は思っています。ただ、その言葉の意味するところの一端が、今回作ってみてすこしだけ見えた気はしました。


ということで、世にも奇妙なトリックテイキングが1作できました。めでたし。
「トリックテイキング」というジャンルを一切知らなくても遊べるゲームにしたつもりです。そういう気軽さでネタゲーと思って遊んでほしいですし、メイフォローにはトリックテイキングの敷居を下げられるポテンシャルが十分にあると思います。この記事が少しでもその参考になれば幸いです。




<2017/12/9>

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