500円ボードゲームのすすめ




お越しくださいましてありがとうございます。カズマ、と申します。
ボードゲーム歴4年ほどの新参者で、いまだにどのゲームも初級者で負けてばっかりです。それじゃ悔しいので、前回(2016春)のゲームマーケットでブースを出して、500円のボードゲームを売ってみました。
これが結構面白かったもんですから、その経験を通して感じたこと、まあ要するに「ボードゲームはいいぞ」「500円ゲームはいいぞ」というだけなのですが、そんなことをきょうは話してみます。

ゲーム紹介ではありませんので、自作の説明はしません。デザインというよりデザインのやや外側の制作条件の話ですが、実際の制作と多少は関連しているかと思います。
すでに出展経験のある方々には参考にならないかもしれませんが、私のように初めて参加する/これから参加してみたい方にとって、なにか参考になることがあれば幸いです。


なんですが、今回諸事情で急いで執筆しているため、文章の推敲があまり及んでいません。あと感想を書くことを優先し、話のウラを厳密に取ってません。文末に「〜と思う」「〜ではないか」等が頻出しますが見逃してください。あと文中話が飛んでいるところがあったり、ロジックが弱かったりすることも、筆者は認識しています。
ご意見いろいろあるかと思いますが、みなさんの議論の叩き台にしてもらうぐらいで結構ですので、温かい目でご覧いただければ幸いです。
まあ言い訳はこのくらいで……。


初心者こそボードゲームを


ということで、まず最初のテーマは「初心者こそ、ボードゲーム制作をすすめたい」です。

普通カードゲームのほうが作りやすいと思うじゃないですか? いや多くの人に聞いたわけではありませんが、ゲームマーケットで出品されてる作品を見ると、やはりカードの方が多い印象があります。ゲームマーケットを見ての私の感覚ですけど、それなりに多くの人がカードの制作から入ってるんじゃないでしょうか。

■カードゲームは、つい作りたくなる

で、カードゲームを選ぶ理由・利点というと、たとえば次の2点がパッと思いつきます。あくまでとっかかりの例です。

1.印刷所にセットで発注したとき、カードゲームのほうが安価である
2.数字とスート(模様や色)の組合せでゲームを組み立てると、既存のゲームからの延長で発想しやすい

中でも1.は理由として大きいと想定してるのですが、これについては後ほど触れます。他にもたとえば「TCGプレイ経験があれば、その延長でのゲームを考えやすい」等、特定のゲームジャンルによる理由もありそうですが、私がTCG等に詳しくないのでパスします。
ということで、ここではまず2.を考えます。

既存のゲームから広げていくのは創作の基本なので、この発想にはそれなりの理由があると思います。「ハゲタカのえじき」から少し変えるという着想は一度ならず聞きますし、トランプの「オーサー」や各種ラミーを元にするとか、あと最近はトリックテイキングも流行してるので、ベースシステムが堅いと創作しやすい、というのはあるはずです。ワレスだって最初は「ウントチュース!」から入ってますし。

実際私も、カードゲーム思いついてちょっと作ってみたんですよ。なんかセットコレクションのやつを。まあそれを妻にテストプレイしてもらったら5秒で「面白くない」とバッサリで、心がえぐられるのでこの話はそろそろやめますけど。
やってみると、案外バランス調整が難しくないですか? セットコレクションの部分がやけにもっさりしたり、カードの引き運による振れ幅が大きかったり、手がかりのない「読み合い」に頼らざるをえなかったり(特定のゲームの話ではありません)。いやあくまで個人の所感なのでそんなの簡単じゃんっていう人もいるでしょうけど、「ハゲタカ」や「ニムト」級の面白さを出して、かつ独自性のあるシステムにするのって、最初に想像するほど簡単なことじゃないはずなんです。
カードの巡りも毎回異なるので、枚数によるバランスとか、いろんな要素を微調整して試さなくちゃならない。そっちの方が、実はハードルが高いのではないか。

■ボードで作ることの強み

そこで、ボードです。
ボードだと、そういうゲーム要素が全部可視です。作り込むならランダム要素を入れるためにカードやサイコロやインタラクションを混ぜたりもしますが、あくまでボードを基点にゲームが進行します。ゲームにおける大半の要素がボード上に乗っている以上、調整するのはそれ1枚で済むんです。
カードなら何枚もの情報を変えて回さないといけなくて、ゲームの全体像(山札の中身)を想像しながら調整すべきところが、ボードは1枚を変更するだけで済む。ゲームの全貌も俯瞰できる。これは、デベロップを行う上では結構大きなメリットではないでしょうか。

さらに言うと、情報が俯瞰しやすいということは、複雑にしやすい、要素を追加しやすいということにもつながります。
先の話に戻りますが、「ハゲタカ」「ニムト」を遊んで、「シンプルで奥深い」システムに一度はみんな憧れると思うんです、あえて言い切っちゃいますけど。だけどそれ、一番難しいはずなんです。削ぎ落として最低限で面白さを演出するのは並大抵でない。普通の人にとっては、要素を追加して面白さを増やすほうがずっと簡単に「ゲームっぽさ」を出せる、と思います。
カードでも要素や枚数は足せますが、その増やし方がボードに比べて勘所が難しいというか、単純に枚数/種類を増やすだけではうまくいかないところがあります。枚数を増やすと単純に費用もかさむ。
見通しはやはり、ボードの方が良い。紙1枚を用意して、そこに面白そうなことを詰め込んでしまうほうが、同じことをカードでやるよりも簡単にできる。バランスがおかしいときにも、全体が目の前に見えてるから調整しやすい。ボードなら紙1枚とコマ数個でもどうにかなるから、内容物もひょっとしたら少なくて済むかもしれません。
実際ボードを作ってみたときの私の感想は「こっちのほうが簡単!」でした。もちろん本当にそこから面白くするのは大変ですけど(自分の出来は……まあ、初作品ですから……)、それこそ何回もテストして、何作も作ってみればいいことです。


だから、カードから創作に入る、それも単純なものを最初に目指すのは、じつは罠だと私は思ってます。あえてボードゲームを作ってみるという選択肢を、ぜひおすすめしたいです。


500円ゲームなら大丈夫


なんですけど、ほら。ボードってちゃんと作ると高いですよね。そこで次のテーマ「500円ゲームなら大丈夫」です。
まず値段を決め打ちします。本当は700円や800円でもいいですが、即売会の場でワンコインの魅力は大きい。1000円もありですが、ここでは一例として500円で話を進めます。

■期待値を下げる

安いことのメリットとして、まず買う側の期待値が下がります。5000円だとよほど面白くないと手を出す気にならないし、2000円でも正直若干身構えるじゃないですか? でも500円なら気軽に買いやすい。
もうひとつ、コンポーネントに対する期待値も下がります。極論、ちょっとした紙にコマを付けるだけでも、値段3桁ならなんとかなると思うんです。手作り感にあふれてても手にとってもらえる。

これが意味するのは、制作者側の金銭的ハードルも一緒に下げられるということです。コンポーネントに凝らなくてもいいんです。自宅プリンタで印刷してもいいし、あと昨年ブームになったポストカードゲーム企画、あの要領でハガキをボードにしちゃえば、安価な印刷の幅がぐっと広がります(私はハガキ2枚をボードにして、自宅プリンタで印刷しました)。これが先ほど言ったお値段の話で、ボードだろうがカードだろうが経費が変わらない、むしろボードのほうが安くなるかもしれない、というメリットです。
グラフィックデザインができる方は、その中でさらに質を上げられるでしょうが、絵の技術が壊滅的な私でも別に作れます。ちゃんとしたボードを作って市販品みたいにすると経費がカードより更にかかるので敷居はとてつもなく高いですが、チープなものでよければいけます。私なんてぶっちゃけExcelとWordですべての内容を作りましたから、フォトショもイラレも(あったほうが便利なのでしょうけど)必須ではありません。そのために値段を下げることで、買い手・売り手両方の敷居を下げてます。

姑息に見えるかもしれません。安いことを逃げ口上にしてるだけじゃないか、自分の作るものを立派にしたくないのか、と。いいんです、同人なんだから。プロじゃないんですから。自分の作る楽しみのためにやるのであって、絵が描けなくてもゲームを作りたいなら、身の丈にあったものを作ればいいんです。

そのかわり、印刷費もコンポーネントもなるべく安くして、500円でも原価割れしないようにしたいところです。ポストカードや名刺用紙など普通のOA用品を活用すれば、十分可能です。
私の場合、木コマ21個にハガキ2枚、自宅プリンタで印刷、あと説明書は普通の白黒コピーで、原価率は5割弱でした。やや原価高めですが、そこまで悪くはないと思います。

■制作がしやすくなる

もうひとつメリットがあって、自宅作業なもんですから、印刷に出すスケジュールにかなり余裕があります。
ちゃんとしたゲームだと、箱やらカードやらを用意するために、2月前には入稿しないと間に合いません。ハガキの印刷業者に発注すればそれが一週間、自宅なら前日までOKです。これ大きいですよ。私、前回GMで諦めかけてたゲームを、前日にモックから無理やりコンポーネントを起こして、当日の朝3時に完成させて印刷かけました。あんなこと二度としたくねえ。でも、そのぐらい融通がきくということです。
(そうそう、テスト用のモックと説明書はなるべく初期にしっかり作っておくといいですよ。実際の売り物を作るときそれをベースにして作れば、時間のない追い込み時でもかなり楽になります)

ここで、ボードゲームであることが効いてきます。
枚数が少ないから印刷にかけやすい。デザイン修正もしやすい。カードゲームも名刺印刷で同じことが可能は可能で、実際私も今回新作でカードを作ってますが、シャッフルしづらいとか枚数が多いとか、やはりボードに比べるとネックはあります。ハガキなら(サイズの難点はあるのですが)カードに比べるとプレイアビリティの下がり幅が小さいというのが、個人的な所感です。
コンポーネントを自作することと、ボードであることのメリットとが、うまく噛みあいます。


そんな感じで、500円ならボードゲームも気軽に作れる。カードをまず作ってからボードにステップアップする、というパスを必ずしも通らず、いきなりボードゲームに手を出せる。なかなか楽しいです、これ。


その意味は

■好きなものを気楽にやる、ということ

というふうに、チープなコンポーネントで500円ゲームにすると、とにかく気楽です。敷居が低いです。もちろんハガキ印刷に凝って綺麗にもできますから、採算の範囲でクオリティを上げることもできるでしょうが、それができなくても大丈夫です。

見栄えのよい作品を作ることを否定しているのではありません。一所懸命作ったゲームですから、アートも作り込んだほうが良いに決まっている。グラフィックに力を入れることで、ゲームの面白さがしばしば一段階も二段階もアップすることは、承知しています。描ける人がそれをやることは素晴らしいことだし、グラフィックに力を注いだ同人作品で大好きなものが、私にも沢山あります。

でも、一方でちょっと思うんです。みんながみんなそれする必要あるの、って。

人づてに聞いた話ですが、昔は同人ゲームといえばシミュレーションが多かったそうで、チャック袋に入ってコピー用紙に印刷されたチットを自分で切り抜いて、そういうのばかりだったそうです。でもゲームマーケットが有明に移るちょっと前ぐらいから傾向が変わってきて、コンポーネントがどんどん立派になったと。
今のゲームマーケットで、化粧箱に入った作品は珍しくなくなりました。イラストだってプロやセミプロ級の方が描かれた、美しい作品が増えた。素晴らしいことです。だけどそれがデファクトスタンダードになって、いろんなところで無理してるんじゃないかなって思う作品も、正直見ないことはないです。

趣味は個人が好きにやるもので、だから思いっきりお金をかけて(赤字でも)市販品のようなものを作るのだって素晴らしい。だけど、この辺うまく言えないんですけど、それ以外の制作スタイルが、500円でチャック袋に入っただけの作品がもっとあったっていいじゃないって、逆に今だからこそ言いたい。それは、ゲームマーケットにここ数年参加してきた私の実感です。

ゲームマーケットや他の同人イベントに行けば、プロみたいな作品がある一方で、いかにも素人な作品(私の作品のことです)も沢山ある。同人誌でいえばフルカラーのコミックや立派な装丁の活字本がある一方で、コピー本だってある。パッケージングやコンポーネントの選択肢が大きく広がった今だからこそ、ゲームにだってそんな存在がもっとあっていい。
以前あるゲームショップで店長さんとお話ししたとき、その方が「前回(2016年春)のゲームマーケットを見ていて、個人が好きなものを作るっていう流れが少しずつ来てると思います。それって同人の原点ですよね」ということをおっしゃっていて、私はそれにすごく感じるところがありました。
制作費に縛られすぎず、めいめいが好きなものを勝手に作る。そういう多様性が、私はもっと見たいです。

■自分なりの戦略をもつ、ということ

でも制作費かからないのはいいけど、じゃあ500円で採算がとれるのか。多分とれません。単体だと厳しいです。まして初作品だったりすると。
私の場合はちょっと特殊で、あるゲームに関する本をメインの売り物にして(本題から外れるのでここでは触れません)、その横でついでにゲームを売るという形をとってました。本のほうが少しは高いクオリティで書けると思ったので、採算はそちらに任せてブース代も経費も全部それで賄って、500円ゲームやポストカードゲームは赤でも全体の採算がとれるようにしました。
それができなくても、たとえば知り合いのブースに委託で出して出展料を割合で支払うとか、グッズやアクセサリー販売をメインにするとか、自分ですべて負担をとらない方法はそれなりにあると思います。
余談ですが、ゲームのブースではなく本のブースにしたことで、当日の賑やかなお祭りの雰囲気からちょっとだけ離れたところでのんびり売ることができて、それは自分にはとても合ってました。

そういう売り方は、おおげさですけど、私なりの戦略です。
ゲームを中心に据えないで、周辺でひっそりやる。500円でなんか変なものを出す。まっすぐいかないで端から攻める。このやり方のもうひとついいところは、スピードが速いことです。思いつきをすぐ試せる。
北条投了さん(私の大好きなデザイナーさんです)なんてその最たる例で、時事ネタを一週間で作って次々500円でリリースされます。これは、自分で印刷するからこそできる技です。私も彼の作品を手にとったからこそ、自分でも500円ゲームを作ってみようという気になりました。
作りたいものがあればすぐ作って、すぐそれを出す。ましてゲームデザインはルールと用具を用意すれば、パフォーマンスと違って練習も必要ありません。私は趣味でクラシックをやってますが、舞台にのせるには練習が絶対必要で、クリスマスの曲を真夏に練習するのが当たり前です。仕方のないことですが、そのタイムラグに、表現としての不自由さをいつも思います。
ゲームデザインにそういうことはありません。いま、自分が好きなものをぎりぎりまで作れる。タイムリーなものをよりタイムリーに出せる。それを薄利でも多売する。たとえ転んでもダメージが少ない。これも、ひとつの戦略です。



繰り返しになりますが、全員がそうする必要も決してありません。それぞれ目指すものが違うのですから。

だけど、もっと気軽に創作に参加する人が、同人ならではの個性的なゲームが増えたら。もしかしたら私のように、単なる遊び程度でもいいからゲームマーケットで自作を売ってみたいと思う人が、そうやって新作を出したら。

誰か一人でもこの拙文に、一部だけでも共感してくださる方がいれば、とても嬉しいです。



……おっともうこんな時間だ! 私これから500円のカードゲームを作らないといけないので、今日はこの辺で! アデュー!(最近こればっかり)




この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2016(ボードゲームデザイン・アドベントカレンダー2016)」の、6日目の記事として執筆されました。

<2016/12/6>


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