3時間でトリックテイキングを作ろう




 この記事は、Trick-taking games Advent Calendar 2020の7日目の記事です。

 カズマです。
 普段からトリックテイキングを遊ぶのが好き……なはずなんですが、今年新しく遊んだトリックテイキング、ゼロ作! なのにアドベントカレンダーにエントリーしたよ! 蛮勇! 無謀! ぶっちゃけ書けることない!
 仕方ないので、トリックテイキングは自作ゲームの入門にいいよー、という話をします。一応趣味でいくつかトリックテイキングの小品を作ってまして、稚拙な作品群なりに書けることはあるかと思っております。題して『3時間でトリックテイキングを作ろう』! 創作未経験のあなたにもできるタルト3時間クッキング。ちなみにこの前文を書いている今のところノープランです。凄いでしょう。自分に気合いを入れるために本日のBGMはシューベルトの弦楽四重奏曲Nr.14『死と乙女』です。大好きな曲なんですが全然クリスマスらしくない、でもグルーブは出るでしょう。

つくりかた

 1、着想! 2、ルール書いて実装! 3、テスト! 終わり!
 本当はアートやUI定義もたいへん重要ですが、今回は考えません!

1.着想

 全体像とコンセプトを決めます。
 使うものはトランプやシュティッヒルン(スートとランクがめっちゃあって便利)になると思いますが、この段階ではまだルールが決まってないので用具はイメージするだけです。

 最初にすごく当たり前のことを言いますが、ほとんどのゲームの目的は得点を沢山取ること、または失点をより少なく抑えることです。協力型のゲーム等にはそうでない作例もありますが、今回は基本なのでひとまずこう思ってください。
 ではトリックテイキングではどうやって得点/失点を取るか? トリックを取ること、またはその結果としてカードを取ることによってです。沢山トリックを取れば勝ちという最も素朴なパターンを始めとして、取ったトリック数、カード枚数、カード種類、スート種類、等々の結果として得点が決まります。
 あとトリックテイキング好きのあなたならご存じ、そう、ビッド。オークションとも言いますが、手札を見て自分がどのようにプレイするかを競りにかけるわけです。1人の「○○トリック以上勝つ」「0トリックで逃げる」といったビッドだけが成立して他はそれを阻止する形が伝統的ですが、最近は全員が「私はぴったり○○トリックだけ勝つ」のように賭ける、ポーカーのベット的なビッドも多いですね。もちろんビッドを使わない得点方式も沢山あります。

 で、最初の要点を言いますと、トリックテイキング創作の根本はどのように得点を狙わせるか、それをプレイヤーに悩んでもらうことです。ここを勘違いする人がすごく多いのですが、プレイの方式、フォローの縛り、カードの効果、そこを捻るゲームジャンルではありません。
 もちろん変わったプレイ規則を設けることも全然アリだしその方向の名作も多いですが、それは手段です。目的ではありません。目的は得点方式であり、それがプレイヤーにもたらすジレンマです。先にプレイ感やジレンマの質を想像して、そこからカード構成やプレイルールを逆算します。だから用具をまだ決めてないのです。カード決めてそれ縛りという創作方法もありますが、慣れてからのほうがいいです。ていうかぶっちゃけ、ルールなんて大半は普通のマストフォローで事足ります。

 今回は駆け足3時間クッキングなので、いきなり次の要点も言います。
 得点方式は、プレイにスリルをもたらすものであってほしい。だから、得点と失点の振れ幅を大きくすることが、スリルをもたらすもっとも簡単な手法です。世界一有名なトリックテイキングであるハーツがまさにそうで、基本はハートが1枚マイナス1点の単純なルールです。だけどそれだけじゃプレイ感が平坦になる。そこに現れて恐怖を掻き立ててくれるのがブラックレイディ、スペードのQです。あの人がマイナス13点を持ってくるからこそ、ハーツには一発即死の醍醐味がある。おまけに全部マイナスを集めたら、マイナス26点がチャラになるんですよ。1枚1点が動くレベルの地味なゲームで、26点が1トリックの成否で揺れ動くのは極めて効果的です。
 トリック数やカード点をビッドする系のゲームもそうですよね。カードを61点集めたらビッドを達成する、なんなら90点を言ったから2倍点数が見込める、だけどカード点が89しかないと一気にマイナス2倍ですよ。20ゲーム点賭けてたら最大で3倍、60ゲーム点の振れ幅がある。1カード点で60ゲーム点が揺れ動く。
 トリックテイキングは古い遊びです。プリミティブです。それはカードを1枚ずつ出して数比べするというルールだけの話じゃなくて、根幹の喜びがギャンブル的なんです。失点を一気に引き受けて死ぬか、得点を貰って生きるか。死と生のキワを急激に行き来する原初的な快楽がプレイヤーを魅了するんです。デザイナーの仕事は、その危うく落ちてイキそうなキワをデザインしてあげることです。

 原則だけ語ってもしょうがないので、即興で実例をやってみましょう。
 3スートか4スートのカードがあるとします。みんなトリックに勝って何枚か取りますよね。集めたカードが点数になりますよね。沢山集めたら沢山点数になりますよね。当たり前です。その当たり前に1つだけ捻りを入れます。自分が全員の中で最も多く集めたスートのカードは全部0点になる。着想、終わりです。一番多いはずの点数が一気にゼロに反転します。マイナスにしたらもっとえげつないですね。ほら着想が2つできた! クニツィアのゲームにそういうのありそうですよね。実際彼はそういう「行くか引くか」のジレンマを案出する天才で、彼のゲームはカードゲーマーにとって参考になる着想の宝庫です。
 逆に失点パターンはどうでしょう? 1トリック取るとマイナス1点です。これを切札でトリックに勝つと1点破棄できるようにしてみては? まだ普通ですね。うーん……あっそうだ、「切札で勝つ」ところがポイントなのだから、切札を出したのに負けたら失点が倍になるのはどうでしょう! またひとつ着想ができました。面白いかどうかはテストしないとわかりませんが、立派な出発点です。切札で勝ったら誰かに押し付けられるとか、トリックじゃなくてカード点による失点にしてみて、そのカードが合わさると掛け算で失点が爆発するとか、ここで実装を細かく凝るとさらに色々やれます。
 単純でしょう。つまらないかもしれない。でも、こんなんでいいんです、トリックテイキングなんて。過剰に捻るもんじゃない。どこかで見たようなアイデアを気楽にふらふらと試してみて、トランプでちょっと回してみて、うまくいったらブラッシュアップ、ダメなら「失敗だったねー」と言ってまた次を目指す。それでいいんです。ね、この程度のワンアイデアならできそうでしょ?


 すこし余談です。
 トリックテイキングには、手札運の問題が常につきまといます。ビッド系ならこれは「お前の手札に応じてお前が競り値をつけろ」で回避できるのですが、ビッドを採用しない場合はドラフティングを大胆に入れない限り、手札が悪いときのどうしようもなさを回避できません。黒宮さんが記事でよく言及される「オンブル・スキーム」問題です。
 本当はシステムで回避する方法を必ず考えないといけないのですが、難しすぎるのでこの記事では正面きっては取り扱いません。肝となる得点方式をデベロップしていくことで、そこそこ目を瞑って遊べるようになるケースも多いからです。あとは急場凌ぎの解決策もないことはなくて、次節で少しだけ触れます。

2.ルール実装

 はい、では、こちらに1時間考えました着想をルールにしたものがございます

 Generous Split - version 0.1

 題名は「気前良い分け前」という意味です。訳語が下手? うるさい!
 着想は実は前節の終わりに触れたオンブル・スキームの回避で、手札が悪いのをどうするか? じゃあ切札でトリックを切ったら場札と交換できるようにしちゃえ! というたいへん頭の悪い発想をいたしました。で、切札で取るとそのカードは入らなくて、テーブルの中央に置くんですね。ではその中央のカードは? 次に切札以外でトリックに勝った人が取れます。そしてカードを集めたら点数になるけど、一番多く集めたら0点! という、さきほどのプラス/ゼロの反転という原理に則った着想になっています。君に気前良く得点カードあげるよ! ほら欲しいだろ? いっぱい集めて0点になったね良かったね!!

 ここまで考えたら一旦できたも同然で、ルール説明書をすぐに起こします。トリックテイキングのルールは極めて定型的で、この説明書の構成やマストフォロー部分をそのままパクってもらえればすぐ書けます。文章に才能はいりません。型と反復です。

 実装で考えないといけないのは、主に対応人数、カード構成、実際の得点の数字です。
 人数が決まらない場合は4人を基本に置いておけば、モダンゲームの環境なら遊んでもらえます。カード枚数は対応人数のどれでも配りきれるようにすると(すなわち公倍数にすると)話が簡単です。実際は経費やゲームバランスの問題もありますけど、36枚がひとつの鉄板です。『Generous Split』では40枚にして、3人プレイ時のみ配り残しを1枚作っています。実際は4~5人戦をメインに想定しています。切札を出さないと意味がないゲームなので、ボイドを作りやすいようにスートはわざと5スートと多くしました。
 得点はカード点を決めるとか(ドイツ式のA=11、10=10、K=4、Q=3、J=2なども慣れたら面白いです)、1トリック1点とか、迷ったら単純にしてください。この作例でも1枚1点にしています。ひとつ工夫したのがミゼールを10点にしたことで、手札が悪いときにも「全トリックしゃがめば点数が取れるよ」という救済で、これが先ほど述べたオンブル・スキーム問題の部分的な解決策です。成功しているかどうかは、テストしないとわかりません。
 あと例えば、1位に同点が出ることありますよね。こういう細かい処理で迷ったときは、プレイヤーにとって嫌なほうを取りましょう。つまり、1位が2人いたら、2人とも0点に沈みます。嫌な制限が増えるほど、勝ったときの気持ちよさも大きいものです。

 ともあれ、この執筆で1時間少々。2時間で着想からプロトタイプまで完成しました。
 5スート40枚ならシュティッヒルンがちょうどいいでしょう。持参して早速テストだぜ!

3.テスト

 ということで、先日テストしました。5人戦でいくつか問題点が見つかりました。
 早速以下のように直して、その場で再プレイしました。2ディール回すのは大事です! その場で直すとフィードバックが最速だし、プレイヤーが感じを分かって遊んでくれます。

◆5スートは多い。すぐに切れてしまって簡単にしゃがめる。
 →5人だと1スート8枚、手札も8枚なので各スートが短すぎたようです。4スート各10枚に変えました。つまりトランプで遊べるように変わったので、良い改変です。

◆ミゼールの10点は多い。5人だと簡単に取れるし、5人で40枚を分けあった8点よりも多い。
 →書く前に算数すれば分かることなのに、やっちゃったね! 5点に減らしましょう。

◆切札で勝ったときの処理が煩雑である。
 →これは作者本人が一番よく間違えたので、手札交換の選択をばさっと削り、切って勝ったら必ず中央に置くようにしました。実はこれによって出発点の「手札交換できるゲーム」が変わっているのですが、面白さの根幹はそこではなく、テーブルの中央にたまったカードの押し付け合いです。だからゲームの思想はずれていません。出発点とテーマは、一致しなくてかまいません。出発点から曲がっても、1ゲームでやりたいことは1つ残れば構いません。それで十分です。アイデアをいくつも詰め込むより、ワンアイデアを通すほうが面白いです。面白ければ勝ちです。

 概ねこのように修正して回したら、だいぶゲームっぽくなりました。ミゼールは5点でも多い気がしましたが、そのへんはまたテストとデベロップで微調整すれば済みます。今回は一発テストで上手くいったので8割方完成で、あとはルールを書き直して再テスト、を繰り返します。
 テスト2ディール30分、ルール改訂30分。1時間後に作り直したものをこちらにご用意いたしました。

 Generous Split - version 0.2

 カードはトランプに変えて汎用性を上げ、配りきりでなく52枚デッキにしました。配りきりだと逆にボイドが読めてキツすぎる感じがしたので、12枚くらいを残してあげたほうが柔らかくなるという判断です。
 切札で勝った場合と、サイドスートで勝った場合との処理分けも、より簡単になりました。
 あとはミゼールの点数を変えて、1位の点数を人数で頭割りにしました。1位のプレイヤーがカードを数える手間があるのでだったらそれを使おう、と思いまして。

 バージョンが「0.2」とある通り、本ルールは決定稿ではありません。細部は変えるかもしれません。ですが大枠はほぼ固まっており、作るまでの流れはひととおり示せたのではないでしょうか。

遊んでね

 ということで、3時間でトリックテイキングを作るタルトクッキングをお送りいたしました! 気軽に創作に触れてみるためのきっかけになれば、これに勝る喜びはありません。
 最後に宣伝? ですが、私の代表作のひとつ『シンカー』はTTPゲーム賞の準大賞を受賞しています。簡単に遊べるトランプゲームです。こちらもぜひお試しください、というか作例として突っついてみてください! アディオス!



<2020/12/07>


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