結論がまだない話なのですが、ふと気になったことをメモしておきます。
個人的な話から始めて恐縮ですが、ADHDという障害があり、昨年(2018年)の6月からコンサータという薬を服用しています。
この障害は脳の「実行機能」とよばれる一連の機能が正常にはたらかないものらしく、物事に集中したり順序立てて取り組んだり時間を見積もったり、といった部分に困難を来します。実際私も作業への集中に難があったりそわそわしたり、待ち合わせ等がいつも時間ぎりぎりになったり、ということがよくあります。
実行機能の欠如のひとつとしてワーキングメモリーのはたらきが弱いのも特徴で、さっきやったことをやったかどうか覚えていなかったり、見たものをすぐ忘れたりします。
コンサータはおおまかにいうとこの機能を補ってくれる薬で(医療関係者ではないので説明が不正確かもしれませんが)、服用していると作業に集中しやすくなり、仕事や家事でも作業がスムーズに運ぶ感覚があります。これを飲むようになって生活はいくらか楽になりました。
そういえば私、カードのカウンティングが大の苦手なんです。覚えられないというか、がんばって覚えてもプレイしてると前のカードの記憶がすぐ抜けていくんですね。トリックテイキングでいうとアナーの20枚もまともに覚えられない。これって障害によるワーキングメモリーの弱さも多少関係あるんじゃないかなって最近気づいて、逆にいうとコンサータを飲むことでメモリーが改善されるのならカウンティングも少しはよくなるのでは? おおすごい! 障害の治療でゲームが強くなる!
というところまで考えて、あれ、と。
昨日(2019/3/3)、こんなニュースがありました。
カードゲームの世界王者、ドーピングで出場停止に - AFPBB News
World’s No 1 bridge player suspended after failing a drugs test - The Guardian
世界トップのブリッジプレイヤーが、大会の禁止薬物を摂取していたことが判明し、1年間の出場停止処分を受けた、というニュースです。
ちょうど考え事してたタイミングでこのニュースが入ってきたんですけど、
コンサータって禁止薬物に入ったりしないの? と。実際e-SportsでもADHDの治療薬であるアデロール(アンフェタミン。覚醒剤の成分を含むため日本では未認可)を摂取して大会参加したことが問題になったケースがあるらしく(
参考)、確かコンサータってアンフェタミンと似た作用機序があるから、アンフェタミンがドーピングになるならこれもドーピングなんじゃない?
そう思って、日本アンチ・ドーピング機構が発表している「禁止表国際基準」を参照してみました。
世界アンチ・ドーピング規程 禁止表国際基準
11ページにコンサータ(メチルフェニデート)が載ってます。ダメでした。(ちなみにもうひとつの有名な治療薬であるストラテラ(アトモキセチン)は載っていないのでOKのようです)つまり、私は現在の服薬中の状態では、きちんとした競技会への出場ができない可能性が高いです。少なくとも上のニュースにあるブリッジの大会などのスポーツに類するもの、すなわちマインドスポーツはこのままでは参加できない、または参加するなら医師に相談しなくてはいけないものと思われます。
ブリッジの大会とかに出ることは多分ないんですけど、私が気にしているのは、
どこまでならOKでどこからダメか、ということです。バックギャモンは? 囲碁は? ボードゲームイベントのちょっとした大会はどうか? カードゲームの大会の場合はどうなっているのか?
これは私個人の意見ですが、本当に公正を期するなら、全部パスするのが正しい選択だと思います。大会と名のつくものには一切出ない。または出るのだったら医師の指導できちんと離脱を行ったうえで出る。数日か一週間か期間はわかりませんけど、しかるべく時間をかけて薬を抜いてからなら、出場するに支障はなくなるでしょう。
でもね、よっぽど強い競技プレイヤーならともかく、普通に趣味として遊ぶだけのボードゲーマーなのに、生活に支障を来してまで数日〜数週間の離脱を行ってまで大会に出る? という話で、私のようにコンサータを選択しているADHDプレイヤーは、ゲームの競技会というものに対して著しく高いハードルがあることになります。これはもう薬の性質上やむを得ません。
身内のゲーム会でやるちょっとした大会なら問題にもならないかもしれませんが、たとえばドミニオンやカルカソンヌなど上位大会への出場権があるものについては、私自身は軽々しく出るものではないな、という気持ちがあります。もちろん明確にレギュレーションで禁止されていない大会については、現時点では《出たらいけない》というわけではありません。あくまで、私個人の気持ちの問題です。
別に競技プレイヤーではありませんけれど、可能な選択肢が制限されている(と個人的に考えている)ことについては、やっぱり寂しい気持ちがあります。
本当は、マインドスポーツにもパラリンピックみたいなものがあるといいと思うんですよね。障害のあるプレイヤーに対してしかるべきハンディキャップを考慮したり、別枠で出場したり、そういうことができればいい。そうすれば参加に際して引け目を感じるようなことはない。だけど、ボードゲームなんかは今のゲーム人口の規模からして、そういう制度の策定や施行にほとんどメリットがないと思います。私のようなADHDプレイヤーは少なからずいると思うんですけど、特定のゲームで配慮するほどの規模に達するかどうかはわからない。あと発達障害なんかの場合はカムアウトの問題もあって、申告するにはそれを何らかの形で表明する必要があるわけで、それを大会参加に際して課していいのか、とか。そういう下手な考えを、昨日からつらつらと繰り広げていました。
ということで、結論らしい結論はないんですけど、障害治療薬とゲームの競技会のことについてすこし考えを述べてみました。次回のブルームーン大会はジャッジやろうかな……。