No.24 ピココ / Pikoko

トリックテイキングを上から見る

作者Adam Porter
アダム・ポーター
人数3〜5人
プレイ回数・人数1回
時間30分x3ディール
種別カードゲーム
ゲーム難度(5段階)5
評価(10点満点)9

 最近アプリ紹介ばっかりですっかりゲーム紹介書いてないなあ、暇なときに新版が出た考古学カードゲームでものんびり語ろうかなあ、などと思っていたところ、今日遊んできたピココがあまりに衝撃的だったので、急ですが紹介します!

ルール

 一応、説明の都合上、トリックテイキングだと思ってください。トリックテイキングというジャンルについての説明は省きますので、それ何、という方は以下を参照ください。
  トリックテイキングいちにちめ。 - 杜の家アーカイブ
 ざっとルールを説明します。



 上の写真のような感じで準備します。以下、4人戦として説明します。
 カードを同じ枚数配り、孔雀のカード立てにセットします。カードは裏向きにセットするので、自分の前のカードだけが見えず、他の人の前のカードは見えます。写真だと「4匹の孔雀がカードを持っている」状態です。この孔雀にトリックテイキングをプレイしてもらって、4匹それぞれが何回勝つかをビッドする、というゲームです。
 「プレイしてもらう」といってもカードはプレイヤーが出すのですが、自分の前のカードではなく、左隣の孔雀のカードを出します。だから自分の前の孔雀は右のプレイヤーがプレイするんですね。
 4匹の取るトリック数をチップで予想して、プレイ後にピタリ賞とニアピン賞で点数が入ります。別に自分の前の孔雀だろうが他人の前の孔雀だろうが、当てて入る点数は変わりません。だから目の前にいる孔雀の手札は別に「自分の手札」ではなく、単に「見えない1匹の手札」にすぎません。当てやすいという意味では、左隣が唯一自分の出せるカードですから、これが一番予想を当てやすいかもしれませんね。

 チップでの勝ち数ビッド後に、「自分はどの孔雀に対するビッドを当てる自信があるか」を1人選んで、その孔雀カラーのカードを伏せます。この孔雀の勝ち数を当てるとボーナス点が入ります。

 プレイは普通のマストフォローで、切札は配り残しのトップをめくります。
 あとは多色カードというのがありまして、1枚が3スートを兼ねているものがあります。リードで使うときはプレイ時にスートを指定し、フォローするときはマストフォローに従います。切札決めでこれがめくられたらノートランプです。

 これだけ、なんですけどね。

感想

 最初にルールを聞くと、ビッドもプレイも訳が分からないと思います。なんで全員のビッドなんて変なことするの? 自分の勝ち数だけ当てるんじゃないの? 自分のカードを他人がプレイするってどういうこと? 私は最初そう思いましたし、慣れた人ほどそう感じるんじゃないでしょうか。

 でもそうじゃないんです。上にも書いたように、「自分の前の孔雀のカード」であって「自分のカード」じゃないんです。自分の勝ち数と他人の勝ち数をビッドするんじゃなくて、4匹の勝ち数を平等にビッドするんです。だから変な言い方ですけど、プレイしているのは私じゃありません。孔雀です。4匹の孔雀がこの手札でどういうプレイシーケンスを辿って各何勝するか、全体のゲームプランを予想してください、というゲームです。
 もちろん左隣の孔雀のカードを各自がプレイしますから、自分たちでプレイはしてるんですけど、左隣の手札でトリックを取れば1点入るわけでもないし、目の前の孔雀の予想を当てると他の孔雀より得点が多いわけでもない。点数はすべて平等です。これは明らかに意図的なデザインであって、勝負に干渉こそするけれど、本質的にはトリックテイキングのプレイを一段上から、メタ視点から俯瞰してプランニングするのがゲームの目的であり、だから自分の札と他人の札で得点に差がないのです。プレイ中にこのゲーム構造がふっと理解できたときは、ちょっと感動的でした。
 ですから、このトリックでは切札をラフしないとトリック数が足りない、ここでルーザーを捨てるとこっちがプロモートする、そういう計算が分かるプレイヤーのほうがゲームの真価を理解できると思います。もちろんこのジャンルに不慣れでもビッドはそこそこ当てられますが、メインターゲットは経験者だろう、という感じを受けます。

 これがトリックテイキングかというと、微妙です。
 形式的には完全にトリックテイキングなんですが、なんていうか、根底の思想はトリックテイキングじゃなくて、メタ・トリックテイキングとでも呼ぶべき何かです。普通trick-takingというときって "I take(私が取る、私が勝つ)" というニュアンスを暗黙に前提してると私は感じるんですけど、ピココは別に自分の手前が何トリック取ろうが関係ないので、trick-takingという呼び方がちょっとずれているようにも感じられます。
 インディアン方式という点で国産ゲームの『luz(ルイス)』と比べられますが、『luz』はあくまで自分の勝負が基準なのでそこまで似ているとは思いません(『luz』は結構好きです)。むしろメタ視点という意味では『落水邸物語』のほうが近いです。『落水邸物語』はトリックテイキングではなくそれをモチーフにしたプロットシステムですが、『ピココ』の方はまだぎりぎりトリックテイキングかな、という印象です。
 『花火』もデザイン思想は似てますよね。協力か競争かという差はあれど、インディアン方式は情報量の調整が目的であって、少し不足した情報から全体のゲームプランを立てて行動させるところは全く同じです。

 お互いのビッド数を見ることができるので「君も同じビッド数出してるね? じゃあ俺はこの札をリードするから、あとは分かるな?」みたいな交渉・腹の探り合いがあり、手前の札は右隣が出すので右隣のビッドに自分のビッドを合わせるといった協力的な側面もあり、プレイフィールはドイツゲーム的というか、伝統的なトリックテイキングとは焦点が明らかに異なります。全体をコントロールできなくて、でも少しだけコントロールや意地悪ができる、「できない」と「できる」の中間に浮いてる感覚がとても新鮮で気持ち良いです。
 イグザクトビッドって、実は私プレイ感が平坦であまり好きじゃないんですが、このゲームは絶対にイグザクトビッドでなければなりません。全トリック数が誰にどう分配されるかを読むのですから、オーバービッドを許容しては意味がありません。普通のトリックテイキングだと多少適当でも自分のトリック数だけ当てたら済みますが、これは1ヶ所が崩れると他の予想も次々破綻してゆくので(だって全体の辻褄をあわせて予想してるはずですから、ね?)誰への予想を妥協して誰のを当てるか、計画を少しずつ調整して極力イグザクトにしてゆくところに妙味があります。

 システム全体が必然性の塊です。全体の予測をするのがゲームの目的で、だから全員に対してイグザクトビッドをするし、情報もインディアン方式で多めに開示するし、自分のビッドと他人のビッドとで得点に差がないし、無駄なルールがひとつもありません。(ボーナス点カードはなくてもいいのですが、得点幅がかなり地味なので、これを入れることで動きを少し派手にしているのはアリでしょう。)
 あまり類例のないシステムではないでしょうか。よくこれを考えたと思います、凄いです。斬新で面白さもちゃんとあって、今年遊んだゲームでは一番の衝撃でした。

 1回のディールは重いです。全トリックの流れを常に計算するので相当疲れます。それでも慣れたら15分ぐらいでディールは回せます。一日に何度も遊びたいゲームではありませんが、システムの新しさという点で個人的な評価はとても高いです。モダンなゲームの良い面が現れた一作だと思います。



<2018/09/13>


←No.23 サンファン No.25 アナーキー(ルール和訳)→
レビュー一覧へ トップページへ