No.22 ハンザの女王(説明書感想) / The Queen of the Hansa
それはピュアユーロなのかモダンユーロなのか、という話
作者 | ゆたか(ゆるあ〜と) |
人数 | 2〜4人 |
プレイ回数・人数 | 説明書のみ |
時間 | 60分 |
種別 | カードゲーム ※後述 |
ゲーム難度(5段階) | 4 |
評価(10点満点) | 6 ※説明書での評価 |
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ルールの概要
ハンザ同盟の4都市に商品を卸して、それにより自分の影響力を積み上げて、3回の決算で影響力に応じた点数をプレイヤー間で順位付けして得る。陣取りとか選挙とかの仕組みだ。
ボード上に4都市のカード列があり、そこに各都市へ送る商品カードが並べられる。カード列には補充エリア(前)と待機エリア(後ろ)があり、補充エリアからしか取れない。取ったら待機エリアから1枚送り出される。
手番では、手札からオモテ向きかウラ向きに、1枚を手元に置く。
オモテ向きに出すと、例えばロンドンのカードを出したら、ロンドンに対する自分の影響力が上がる。手札はロンドンから1枚補充する。ここで上げた各都市の影響力を毎回の決算で競う。
補充時に「嗜好品コマ」が1個乗っている場合があり、これも集めると影響力がプラスされる。嗜好品コマは決算ごとにリセットする。逆に言うと、出したカードは3ラウンドを通じて保持される。
ウラ向きに出すと、都市への影響力は上げられないが、代わりに決算時に都市からもらえる得点を上げられる。もちろん他人の点数も上げるので、これを手札2枚との兼ね合いでどう操作するのかをプレイヤーに聞いているわけだ。
また、ウラ向きで出したら補充も好きな都市から行える。ウラ向きのカードは最後に「リューベクでの取引」としてボーナス点にもなる。
決算では、4色の都市ごとに、日用品(オモテ向きのカード)+嗜好品(コマ)の合計を競い、1位〜3位が点数を得る。
得られる点数は、ゲーム中にウラ向き出しで上げた都市の得点に対応する。1位は固定値だが2〜3位はコマ数を基礎点に掛けるため、2位が上回ることもある。
ゲームの最後に、ウラ向きのボーナスとカードの種類集めもある。
説明書を読んでの感想
良くも悪くも、教科書通り丁寧に作ったモダンユーロだ。同人であることを思うと、「教科書通り」であることにはポジティブな側面がより大きい。
ボードはあるが単なるプレイエイドで、実態としてはカードゲームだ。カードの意味付けが若干多いがやること自体は易しいほうで、遊ぶときには「中量級ボードゲーム」として出すよりも、「軽い割に充実感のあるカードゲーム」として出すほうが、ゲーム難度や規模に対するプレイヤーの心理的ハードルが下がるので良いと思う。説明を工夫すれば初級者からいけるゲームである。(ボードがプレイエイドにとどまっていることの弱点もあると私は思うが、後述する。)
システムとしてはまず『王と枢機卿』を思い出す。あれをカード情報でやることで2次元から1次元にリダクションして、その代わりカード列を公開することで2種類の手札の管理をやらせる部分に、ゲームの立体感をほぼ全面的に負わせている。だからそれほど理解が難しいゲームではない。
根幹のジレンマは「オモテでパワーを上げるか、ウラで得点源を伸ばすか」で、一方をやれば逆ができないというムーンやシャハトのアレだ。公開情報が多いのでシャハトに近く、それで上のような印象になっている。
ただし、読んだ感触としては『王と枢機卿』に倣ったというよりも、カード1枚出しで陣取りをやろうという出発点からカード列を考案して、陣取りベースなので結果的に似たという印象を受ける。得点をプレイヤーが自分で伸ばすのは『王と枢機卿』のほかにも『ティカル』を思い出すし、同様の例はおそらくほかにもある。カードの並べ方は『宝石の煌き』にも似ている。
カードの出し方と場札の取り方のリンクが上手く、この部分を丁寧に作り込んでいるところが一番の美点だろう。デベロップをきちんとやれば、この作り方ならまず外さない。教科書通りというのはそういう意味で、作者と同様のアマチュアゲームデザイナー(私も含む)にとっては、制作プロセスをリバースしてみると非常に参考になると思う。
ということで根幹の部分はむしろピュアユーロなのだが、調整が今風だ。その点でぐっとモダンユーロに近づいている。
まず得点ルートが多い。オモテに出してもウラに出しても、何らかの点数は入る。4人戦で陣取りの3位まで点数が入る。嗜好品コマの種類ボーナスもある。カード人物によるラミーもある。おそらくテストで相当叩いた結果と思われる。プレイではおそらく、ここから3つほどを得点経路として拾っていくことになる。
それから(より重要な点かもしれないのが)、4都市は対称的である。カード枚数もコマ数配分も同じ、成長曲線も同じ、開始時の場札の並びと手札の配りのみで傾斜がつくようになっている。カードの内訳を見ていないのでカードの影響力配分はもしかしたら異なるかもしれないが、この作りだとプレイヤーはそれを気にするようには仕向けられない。ここで「4都市」とだけ書いて都市名を挙げていないのも、都市名の意味が薄いからだ。
このへんは好みの問題だろう。作者はおそらく非対称によるバランスの崩れを避けたと思われる。ゲームとして成立することはとても重要で、だからそれは正しい。一方でそこは、ゲーム的な押しの弱さと表裏一体でもある。
都市ごとの枚数傾斜や得点傾斜だとか、先に挙げた『王と枢機卿』でいえば地図だとか、そうした要素によって偏りを作ることが(おそらく意図的に)避けられている。得点もどんな行動を取っても得られるから大差はつかない。得点源の多さは一種の隠蔽装置ともいえるが、モダンユーロ的には終盤までの競争をきちんと保証してくれる仕組みでもある。
こうした一連の要素を物足りなさと感じるか、デザイン的な均整と感じるかは人による。そこも含めての「教科書的」であって、『ハンザの女王』はまとまりの方を重視した、モダンユーロ側に舵を切った作品ということだ。これはデザイナーあるいはサークルの個性であって、それを表明していることは、私は好ましいと思っている。
実際のところどちらに近いのか、そのバランスが成立しているかどうかは、プレイしてみないとなんとも言えない。
プレイヤーにバランス調整を任せた側面も大きいものの、場札で立ち回りが大きく決まる点が『宝石の煌き』に近く、その点でもモダンユーロへの近さを思わせる。したがって『宝石の煌き』のように場札のカットがやや強いと思われるが、それを手札の出し方でカバーできているかどうかにかかる。ここは説明書だけでは判断が難しい。
ごく個人的な物足りなさをひとつ挙げると、テーマとの結びつきが薄い。
上記のように都市はすべて機能上等価で、ゲーム上の非対称性としての地図もない。バランスに寄せたことで、どうしてもゲーム上の揺らぎは薄くなってしまう。自分もゲームを作るので、揺らぎを入れると調整難度が跳ね上がるのは分かる。ただ、一プレイヤーのわがままを承知でいうと、その「揺らぎ」にこそゲームテーマとのリンクがあるし、このゲームをハンザだと思える部分が出てくる、それをどうしても要求したくなってしまう。同じシャハトの『ハンザ』では航路の多いコペンハーゲンから開始することでそこが物流の拠点であることを表している、例えばそういったことだ。
ボードが純粋にプレイエイドであることの弱点はそこに関係があって、プレイ上の意味がないためボードゲーム的な質感を得られにくいのではないかと、読んだ限りでは思った(それもあって、カードゲームとして提示するほうがプレイヤーとしては良いように感じる)。
意味付けは単なるネーミングでもよくて、例えばロンドンなら日用品は何で嗜好品は何だとか、何かしらの意味付けがあるだけでプレイ体験は変わる。補充エリアと待機エリアのことも「港と倉庫」と呼んでみるとか、そうした「意識をヨーロッパに飛ばしてくれる仕掛け」が、私個人はもう少しほしいと感じる。
おそらくデザイナーはシステムへの関心が強い。それは長所でもあって、実際システムを重点的にメカニカルに作り込んでいるだろうと想像されるし、だからこそメインメカニクスが堅いのだから、無理にテーマ側に強く寄せる必要はないのかもしれない。
総合的にはとても完成度が高い。不満もいくらか書いてしまったが、それを要求したくなる水準の作品だ。
丁寧かつ手堅い作りをしているので、10点満点で評価するなら6点は確実に出すポテンシャルがある。プレイ時にプレイヤーの相互干渉がうまくいくかどうか、逆転可能性を実際に感じられるかどうかで、これが7〜8点になる可能性は十分あると思う。
「ウラ向き出し」によって相場とカード場を一気に操作できるのがこのゲームの肝だと感じていて、そこでどれだけコントローラビリティを感じられるかを、個人的にはとても楽しみにしている。
<2017/11/20>
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