『ブレイジング・エース!』からの縦軸と横軸




 この記事は、ボドゲ紹介 Advent Calendar 2025の11日目の記事です。

 クニツィアによる1995年のトランプゲーム本『ブレイジング・エース!』が超面白いゲームの宝庫でして、ぜひ遊んでほしいので今日はその紹介から始めつつ、そこから派生して語れるトランプゲームやボードゲームへと話を広げていきます。

「オレゴン」と「ポートランド」

 同書のトップに紹介されている「オレゴン」がもうすごい。ポーカー役を使ったソリティアです。『ブレイジング・エース!』はポーカー役を使ってクニツィアが作ったオリジナルゲーム集で、それぞれの役にこの本独自の点数が割り当てられています。ですから「オレゴン」は役と点数に慣れるための、この本全体の導入という役割も担っています。
 「オレゴン」は普通のトランプ52枚を使います。最初に山札をよく切って、上から5枚めくって自分の前に一列に並べたら準備完了です。山札から1枚引いて、「いまの列の1枚を上書きする」「新しい列を始める」かの二択を、山札を使い切るまで繰り返すだけです。新しい列を始めるときは、直前の列の下にめくった1枚を置いて、山札から4枚を追加します。なので、作った列のカードは、上書きされたカードを除いてすべて見られます。
 目的はスコアアタックで、役の点数は低い順に次のようになっています。

『ブレイジング・エース!』でのポーカー役の点数
点数備考
ハイカード0いわゆる「役なし」。本書ではプラグド・ニッケルと呼ばれます
ワンペア1
ツーペア2
スリーカード3スリー・オブ・ア・カインドとも
ストレート3
フラッシュ3
フルハウス5
フォーカード7フォー・オブ・ア・カインドとも
ストレートフラッシュ10

 この点数は『ブレイジング・エース!』全体を通して共通で、「オレゴン」はこの合計をより高くしたいよ、というゲームです。本の中では20点がひとつの目標として提示されています。実際やってみると20点は結構難しいです。山札をシャッフルしたらすぐ開始できるので、ついついもう1回……となってしまいます。好きすぎて(?)自分用にiPhoneアプリを作って遊んでるくらいです。家にトランプあったらやってほしい。まあやれ。1枚引くごとに「これどうしよう……フルハウス諦めてツーペアで妥協する? いやここで7点稼げたらウマいし……」という、とてもクニツィアっぽい悩みが味わえます。



 「オレゴン」はソリティアですが、同書の2作目はこのルールをそのまま多人数に拡張した「ポートランド」というゲームです。1人1デッキ、つまり人数分のトランプが必要ですが、これもたいへん良い。
 6ラウンドを行います。各ラウンドでは最初に自分の山札から5枚並べて、自分の番になったら「ストップする、または1枚引いて上書きする」を選びます。ストップを選ぶと自分の役はそこで確定し、このラウンドではもう手番は回りません。1枚引いたら必ずどれか1枚を上書きします。「ポートランド」では役の点数は使わず、他人よりも自分の役が高ければ高得点がもらえる相対的なスコアリングなので、相手の役を見ながら勝負するか降りるか決めることになります。全員がストップしたらラウンドが終わり、順位点をつけ、使ったカードを破棄して、次のラウンドの新しい5枚列を始めます。ほぼ同じルールなのに遊び味はだいぶ違います。すげえです。2~5人とありますが、8人くらいまでは回ります。

 『ブレイジング・エース!』には他にも、カードドラフトを主眼に据えた「サクラメント」「ボナンザ」「ナゲット」や、『バトルライン』っぽい2人用ゲーム「イースト・ウエスト」など秀作が目白押しです。個人的には『古代ローマの新しいゲーム』と並ぶクニツィア初期の傑作だと思ってまして、気になったらぜひ一冊買ってください。Amazonリンクを貼っておきます(アフィリエイトないので安心して踏んでください)。

ポーカー役の応用

 ここで終わりでも全然いいのですが、ゲーム内容についてもう一歩踏み込んでみます。
 訳者の竹田原さんもあとがきに書かれているように、『ブレイジング・エース!』はポーカー役を使ってはいますが、ゲーム性はポーカー的ではありません。いわゆるポーカーはホールデムにしろドローポーカーにしろ、ベットラウンドを経て相手と役の高低を競います。ゲームの主眼はベットによるチップ枚数のマネジメントです。特にホールデムは配られた手札は一切替えられない、つまりカードプレイの技術が存在しません。ハンドとコミュニティカードによる役の強さや確率の見積もり、チップの賭け方、テルやブラフといった対人要素、そうした技術のゲームです。
 一方、『ブレイジング・エース!』はカードプレイの方法によって様々なゲームを作っています。ルールを少し変えるだけで多くのバリアントができることも作者のクニツィア自身が例示し、かつ推奨しています(ですから、これを読むだけでも相当ゲームデザインの勉強になります)。本書ではポーカー役は得点方式でしかなく、紹介されているゲームはいずれもポーカーではない、クニツィアのオリジナルゲームです。もっと言えば、本書が示しているのは、ポーカー役を点数やプレイングの部品として他のゲームに流用できるということです。

本書に登場するゲームは、ポーカーのふりをしてはいるものの、まったくもってポーカーではないと言えるでしょう。つまり、本書はあくまでも、ポーカー役という「お題」のもとでどれだけ多彩なゲームを作ることができるのかという、クニツィアによる挑戦なのです。(前掲書「訳者あとがき」、p. 218)



 一例として、中国の大富豪のひとつで人気があるトランプゲーム「鋤大D(チュー ダー ディー)」を挙げます。「大老二(ター ラオ アル)」「Big 2」など複数の別名があります。これも私が大好きなゲームです。
 ルールは概ね大富豪です。3人または4人用で、4人が基本です。手札を最初に出し切ったら勝ちで、2が最強で3が最弱、同ランクならSHCDの順に強く、手札は13枚ずつ配りきります。3人戦のときは17枚ずつ配り、余った1枚はダイヤの3を持った人(いなければクラブの3を持った人)が取ります。
 ダイヤの3を持っている人から始めて、最初は必ずダイヤの3を含めて出します。出し方は1枚、同ランク2枚、同ランク3枚、5枚の4通りです。この5枚出しがポーカー役になっていて、ストレート以上のポーカー役を出すことができます。普通の大富豪だと「まったく同じ出し方で、ランクが上のカード」しか重ねられませんが、このゲームはストレートの上にフラッシュ、その上にフルハウス等、5枚同士であれば異なる役でも重ねられます。同じ役どうしだとランクの高いほうが強く、ランクも同じならトップカード1枚のスートを比べます。
 誰かが上がると残った手札1枚につきマイナス1点です。ただし手札を10枚以上残すとマイナス点が2倍、全部(13枚)残すと3倍になります。3人戦では手札を12~16枚残すと2倍、全部(17~18枚)残すと3倍になります。
 全ルールは赤桐裕二さんのゲームファームに載っています。このルールによれば誰かの手札が1枚だけになったときには「頂大」という縛りが発生しますが、省いてもよいでしょう。私の持っているiPhoneアプリでもこの縛りはありません。地方によって多くのバリエーションがあるようで、例えばスートの強さがブリッジオーダー(SHDC)になっていたり、2を手札に残していると1枚ごとにマイナス点が2倍になったり、上がった人が他3人のマイナス点を総取りしたりします。プレイ環境によって好きなものを採用していいと思います。

 「鋤大D」は、この記事の文脈で言えば、大富豪にポーカー役を導入してプレイ感に変化がついているゲームです。普通の大富豪だと弱いカードは一度自分がリードを取らないと消化しづらいですが、ポーカー役を利用すれば弱いカードをフラッシュやフルハウスに使うことで強い役として一気に出せる可能性が出てきます。さらに、ポーカーは知っている人が多いので説明が簡単に済むのもメリットです。役が人口に膾炙しているということは、ルールに変化をつけないと既存の作品と似通うリスクもありますが、ルール説明を少なくできる強みは無視できません。
 クニツィア作品で言えば、先に触れた『バトルライン』もまさにポーカー役を使った例で、ストレートフラッシュ > スリーカード(フォーカードの代わり) > フラッシュ > ストレート > ハイカード、の順で強さ比べをしています。5枚が3枚になるだけでも印象は変わりますし、ランク幅を13から10、スートを4つから6つに変えるなどの微調整もあり、クニツィアはこういう「ちょっとした数字の変え方」が抜群に上手いデザイナーです。

 もちろん、ホールデムのゲーム構造を変えないアレンジというのもあります。『ハーフパイント・ヒーローズ』はほぼホールデムを踏襲しつつも、手札を小出しにすることで異なったゲーム性を出していますし(買ったけど積んでるのでふわっとしか書けなくてごめんなさい)、『ギャングポーカー』はホールデムを協力ゲームにした面白い例です。ポーカー役を使うと一口に言っても、いろいろ方向性はあるのだと思ってください。『ギャングポーカー』を遊んだとき「こんな手があったのか!」とめちゃくちゃ驚いたし楽しめたので、ゲーム作りの鉱脈はポーカーだけでもまだ沢山眠っているはずです。

『ブレイジング・エース!』のプレイ規則を借用する

 最後に、逆方向のアプローチも少しだけ触れておきます。
 『ブレイジング・エース!』がポーカー役を得点源にして作ったゲーム集であると書きましたが、逆に言えば、これらのゲームのルールをそのままにして、得点方法だけを変えることもできます。「オレゴン」をポーカー役ではなく3枚の順子/刻子を作る麻雀ライクなゲームにしたり、「サクラメント」「ボナンザ」「ナゲット」からカードドラフト部分だけを借用したりしてもいいわけです。
 「サクラメント」は最初に所定枚数のカードをテーブルに置いて、各自がそこから1枚ずつ引きます。「ボナンザ」はカード置き場5枚から1枚引いて山札から置き場に1枚補充するというお馴染みのアレです。「ナゲット」は山から引いた1枚をそのまま取るか、カード置き場に捨てて山から1枚引き直して取るか、置き場から好きな1枚を取るかの三択です。「ナゲット」方式はちょっとウィンストン・ドラフトっぽくもあり、こう書くとウィンストン・ドラフト+ポーカー役で新しいゲームが作れそうな気もしてきます。

 似ているゲームの一例として、ここでは『ファンタジー・レルムズ』を挙げておきます。手札は7枚固定です。ドラフト方式は「ナゲット」に近く、自分の番が来たら山札かカード置き場から1枚を引き、1枚をカード置き場に捨てます。麻雀式とも呼べますね。もちろん、捨て札から引いたカードをすぐには捨てられません。捨て札が10枚になったらゲーム終了です。
 もちろん点数計算は完全に異なっています。カードは10スートありオールユニークで、素点やテキスト効果による点数が複雑に関連しあいます。この部分に『ファンタジー・レルムズ』の独自性があり、複雑なカード効果の代わりにルールをユーロ的に極限まで単純にしている、と見ることができます。いかにもアメゲーという感じで、点数計算が難しいですが面白い作品です。



 そんなわけで、「得点方式とプレイ規則は分離できる」という切り口で、『ブレイジング・エース!』や他の様々なボードゲーム・トランプゲームを紹介しました。「縦軸と横軸」と題しましたが、どちらが縦でどちらが横というわけでもなく、単に2軸あるというだけです。ゲームメカニクスを分解する見方として参考になればと思います。遊ぶときにそういうのを意識する必要はないんですけど、知ってるとハウスルールを考えやすかったりするメリットはあります。
 紹介したゲームは全部面白いです! 特に「オレゴン」と「ポートランド」はぜひやってください。損はさせません。『ハーフパイント・ヒーローズ』だけまだ積んでるから遊んだ感想を書けないのが残念だけどな!



<2025/12/11>


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