スイスヤス
1.ソムニアの編集の話 ~ 伝統ゲームのパッケージ化は「ベタ移植」に近づける
私がいわゆる伝統ゲームを好んでプレイする関係で、うちでパッケージ移植をするときはコンシューマゲームでいう「ベタ移植」が原則です。パッケージ化は元のカードだと遊びにくい/知られにくいからするのですが、遊びやすく多少の手を加えることはあっても、ゲームバランスを変えるほどの改変はしません。バランス調整が元通りで済むならそれが一番で、元の魅力は変えたくありません。だったらなぜパッケージ化するのかというと、普通のトランプデッキだと遊んでくれない層にリーチするためです。自分が遊びたいゲームをボードゲーマーの友人と遊ぶときにも独立パッケージのほうが抵抗なく受け入れてもらえます。私にはない感覚なので理由はわかりませんが、とにかくボードゲーマーにはそういう傾向があるので、うちのサークルでは時々こういう制作をしています。
『Somnia』を例にとると(ルールは
ゲームファームか
本記事の第3節をご参照ください)、元々のスイスヤスのカード点は「A = 11、K = 4、Q = 3、J = 2、10 = 10」、切札のみ「J = 20、9 = 14」です。このゲームでは切札が「最初にフォローを外れてプレイされたスート」になり、切札のJと9はディール途中で点数が突然上がるほか、ランクもAの上に昇格します。これをパッケージでは「
A = 10、
K = 5、Q = 3、J = 2、10 = 10」、切札は「J = 20、
9 = 13」にしました。
カード | ミットレールヤス | ソムニア |
A | 11点 | 10点 |
K | 4点 | 5点 |
Q | 3点 | 3点 |
J | 2(20)点 | 2(20)点 |
10 | 10点 | 10点 |
9 | 0(14)点 | 0(13)点 |
変更理由としては、まずランクのA~10を10~6に変更しているのでランク10は10点のほうがわかりやすいこと、Kは5点にするとKQJを足したら10点になること、9の14点→13点はテーマの「悪夢」との紐づけ、というものです。切札のランクはJを「7/12」、9を「5/11」と表記しました。初版の作業期間が短かったこともありゲームバランスは極力触らず、専らUIの調整にとどめています。ほかには日本人に馴染みの薄いラストトリックの5点と、ノートランプで8が8点になるルールを削り、2人用ルールを追加し、ゲーム点のやりとりをライフの失点だけに簡略化しました。
この程度でも影響はありまして、ラストトリック点とランク8の32点を削ったことでノートランプの合計点が120点になります。つまり複数人同点になるケースが原作よりも(誤差程度ですが)増えてしまい、勝敗パターンを原作よりも細かく考慮して書かざるをえなくなりました。今思えば勝敗パターンはもう少し削ってもよかったかもしれませんが、プレイングの最中に処理が増えることを嫌って上記の変更を入れたという必然性は一応あって、ここは未だに正解が何であったかがわかりません。
かといって、あまりバランスを丸くしすぎたり、勝敗を簡単にしすぎたりしても今度はゲーム本来の魅力がなんとなく削がれることがあります。同人制作を9年やってきて理解したことのひとつに「丁寧にデベロップしすぎてはいけない」という経験則があり、作者がゲームバランスの手綱をとりすぎると誰がどうプレイしても同じようなゲーム進行を辿ってしまい、却ってつまらなくなるんですね。ベタ移植のほうがいい、編集者は土管屋に徹する、という私の作業指針にはそういう事情があります。私の本業である校正/翻訳でもこれは変わりません。透明な翻訳という概念の不可能性とかそういう難しい話は、いや難しくても本当は考えたほうがいいんですが、今日はおいておきます。少なくとも、自分の色を出すという邪心はわれわれ翻訳者/校正者が絶対に避けなければならないもので、伝統ゲームの移植にもまったく同じことがいえます。放っておいても自分の色なんて勝手に成果物に出てしまうものです。
この原則を貫くとどうなるかというと、『Somnia』のデッキは正確にはミットレールヤスのデッキではなく、スイスヤス全般の互換デッキになります。カード点をほとんど変えておらず、ランク順もスイスヤス全般に共通だからです。やっと本題の話に掠ってきました。
これは意図的な実装です。ミットレールに特化して何らかの変更を加えると、製品がミットレール以外遊べない実装になってしまいます。そうではなく、ソムニアデッキを持っていたらシーバーヤスもコワフュールヤスも遊べるほうがいいに決まってます。点数を大きく変えて、なおかつスイスヤス全般と支障なく互換するだけのプレイテストを行う余裕はおひとりさま同人サークルにはないので、合計点を計算するときの煩雑さには目をつぶって元のカード点を保持しました。2018年に発表した『ラミーファイブ』も同様で、象棋麻将を遊ぶためのパッケージですがカード構成を象棋のそれから変えていないので、打棋子も遊べます。伝統ゲームプレイヤーとして、この一線を守る努力は必要だと考えています。
最初に「自作の宣伝じみてしまう」と書いたのはここで、つまりスイスヤス面白いからソムニア買ってねって話にどうしてもなるじゃないですか? アドベントカレンダーを自分の宣伝に使うとかステマっぽくて非常に嫌らしいですよね? もちろんスイスヤス用に使ってほしくて作ったパッケージですが、このアドベントカレンダーを読む方でしたら普通のトランプで遊んでも同じように楽しめると思いますし、バイシクル買ってきてカード点を直書きしてもいいんです。作者としては折角スイスヤスを少し覚えたから今日の記事で布教したいだけのことで、ついでに関連する自作のデベロップの話をした、その程度だと思ってください。いや、そりゃ買ってほしいけどさあ、アメリカからの発送だから普通に品物より送料のほうが高くて、あまり無理にとは言えねえんすよ……。
これで言い訳は終わったので、次節からゲームの話をします。
2.スイスヤス(Swiss Jass)の共通ルール
【デッキとカード点】
スイスヤスはいくつか種類がありますが、カード構成・ランク・カード点はいずれも共通です。強い順に《A, K, Q, J, 10, 9, 8, 7, 6》が4スートの36枚デッキで、トランプデッキの2から5を抜きます。カード点はA=11点、K=4点、Q=3点、J=2点、10=10点の「いつものやつ」です。切札のJと9はAの上に昇格して《J, 9, A, K, …》となり、J=20点、9=14点に変わります。10がめずらしくJの下なのに点数が10点あるのがちょっとした綾を生みます。
これ以外に、ラストトリックを取ると5点が入ります。また、ノートランプのときは4枚の8が8点ずつになってJと9の32点を補います。ラストトリックの5点はテーブル中央にマーカーでも置いておけばいいんじゃないでしょうか。カード点とラストトリック点の合計は157点です。
ゲームによっては、特定のディールでランクが逆順になることがあります。このとき通常のAが強いほうをオーベナーベ(Obenabe。「トップダウン」の意)、逆順の6が強いほうをウーネヌーエ(Undenufe。pagatによればdとfは黙字。「ボトムアップ」の意)、とそれぞれ呼びます。日本語ではトップダウン、ボトムアップでもいいと思います。また、1トリックごとに強弱がオーベナーベとウーネヌーエで交代する、スラローム(Slalom)というルールもあります。オーベナーベとウーネヌーエでは切札はありません。
アプリで遊ぶときは、スイスの地方札も使われます。ランクはQがOber(オーバー/上士官)、JがUnter(ウンター/下士官)、10が旗(バナー)になります。スートは鈴(ハート)、盾(ダイヤ)、どんぐり(スペード)、花(クラブ)の4種類です。これはプレイしていたら慣れます。
【ヴァイス/シュテック】
ゲームによっては、ヴァイス(Weis。WysやWis(ヴィース)、フランス語圏ではannonce(アノンス)とも呼ばれる)という、手役(手札にできた組合せ)による点数があります。これは最初のトリックにカードを出したときに個々のプレイヤーが宣言できます。詳しくは個々のゲームの項目で説明します。
ヴァイスとは別に、切札のKとQを手札に持っていればシュテック(Stöck)という得点もつくことがあります。ヴァイスはもっとも高い点数のプレイヤー(ペア戦ならそのパートナーも含む)しか得点できませんが、シュテックはヴァイスではないので他人のヴァイス宣言によって消されません。
【ディールとプレイ】
ディールとプレイは反時計回りです。ディーラーは3枚ずつまとめて配ります。3人戦なら手札は12枚、4人戦なら9枚です。ディーラーの右隣をフォアハントと呼びます。
トリックの強弱判定は通常どおりです。切札のもっとも高い札が勝ち、なければリードのもっとも高い札が勝ち、勝った人が次のリードになります。
スートフォローも通常どおり行います。ただし、切札のあるゲームでサイドスートがリードされたとき、普通にフォローしてもよいし、フォローする代わりに切札をプレイしてもかまいません。また、切札がリードされて手札に切札スートがJ(最強カード)しかないときに限り、このJでも他のスートでも好きなカードをプレイできます。
もうひとつ難しい点として、アンダートランプ(undertrumping。すでに出された切札よりも弱い切札を出すこと)に関する禁則のルールが強弱2種類あります。サイドスートのリードで切札も出ているとき、すでに出た切札よりも弱い切札はプレイできないという制限です。
弱い禁則では、リード(サイドスート)をフォローできなければこの制限に従わなくてかまいません。したがって3人目以降が切札で負けたときは、3人目はそのサイドスートがボイドです。マイナス点の発生するゲームや、特定の点数を狙うゲームにはこちらが適用されます。
強い禁則では、手札に切札スートしかない場合に限り、この制限に従わなくてかまいません。したがって3人目以降が切札で負けたときは、3人目の手札はすべて切札です(強い切札が残っている可能性はあります)。沢山カード点を取りたいゲームにはこちらが適用されます。
切札のプレイ規則がヤスのもっとも難しい点で、ここさえ押さえておけば遊ぶのに支障はないはずです。
【点数】
ゲーム点はゼロサム式のやりとりと、単純に増減させるものとがあります。特に前者には点数チップを使うのが簡単でしょう。以降、カード点との混同を避けるため、ゲーム点はチップと表記します。スイスでは|(棒)をプラス点、○(ポテト)をマイナス点として紙や黒板に書き、プラス点とマイナス点をΦのように相殺するようです。pagatに写真があるのでよかったら見てみてください。
3.ミットレール・ヤス(Mittlere Jass)
3人専用ゲームです。ルールは比較的簡単ですが、とても面白いので最初に紹介します。
ランクはヤスの標準的なものに準じます。どのディールも最初はノートランプで、最初にフォローできず出されたスートが切札になります。したがって、カード点もランクもディール途中に変動します。アンダートランプは弱い禁則が適用されます。ヴァイスとシュテックはありません。あとは前節の共通ルールと同じです。
ゲーム点は、《カード点が2位の人が-2ゲーム点、1位と3位が+1ゲーム点》が基本点です。
ただし例外が多く、(1) 全トリックを取れば他2人から+1チップずつもらいます。(2) 0トリックだったら他2人に-1チップずつ支払います(負け逃げでの3位狙いができません)。(3) 100点以上集めたら他2人に-1チップずつ支払います(大勝ちでの1位狙いができません)。(4) 同点が2人いたら、その2人は残り1人に-1チップずつ支払います。点数はゼロサムで、プレイヤー間でやりとりできます。
(1)~(4)および基本点は、どれか1つだけが適用されます。例外(1)が最優先、そうでなければ(2)、以下同様にして(1)~(4)のどれでもない場合に基本点となります。基本点がいちばん多いケースですが、(3)もよく起こります。他はレアケースです。
(1)は「すべてのカード点を集めたら」ではなく、あくまで「全トリックを取ったら」で、カード点が0点のトリックでも逃したら(1)はなくなります。(2)も同様で、カード点が0点でもいいので1トリックは取っておくと負けません。
4.モロトフ・ヤス(Molotov Jass)
ミットレール・ヤスとほぼ同じゲームです。ミットレールが3人戦、モロトフが4人戦で、モロトフを元にミットレールができています。
プレイ規則はミットレールと同じです。
ゲーム点もミットレールと同様、《カード点が2~3位の人が-1チップ、1位と4位が+1チップ》が基本点です。2位と3位が同点でも変わりません。(ゲームファームではここの記載が逆になっていますが、おそらく誤記だと思います。)
例外も概ね同様ですが、(1) 157カード点を取れば他3人から+1チップずつもらいます(全トリック取る必要はない)。(2) カード点が100~156であれば、他3人に-1チップずつ支払います。(3) 上か下の2人が同点なら、残った2人のうち真ん中の順位の人が-1チップをもう1人に支払います。(4) 3人が同点なら、3人でカードを1枚ずつ引いて最高位が-1チップを残り1人に支払います。
ミットレールにあった「0トリックの人が支払う」はありません。4人戦では3人戦より0トリックが起きやすいので当然というか、モロトフをミットレールにしたときに0トリック逃げが問題になったからルールが追加されたのではないでしょうか。
5.プラスマイナス・ヤス(Plus-Minus Jass)
ミットレール/モロトフとほぼ同じで、3~4人戦です。
ゲーム点にマイナス点がなくプラス点のみです。チップを共通ストックにする(または紙にスコアを書く)といいでしょう。《カード点が最高と最低の人が1チップ、中位はチップなし》が基本点です。最高位の人が100点以上であれば、最低位の1人だけが1チップを得ます。1人以外が同点であれば、同点でない1人が1チップを得ます。4人戦で上位か下位2人が同点になったら、残り2人の間で1チップを持ち越して、そのうちの1人だけが新たにチップを得るタイミングで持ち越した1枚も同時に得ます。
最初に7チップ取ると勝ちです。チップ枚数がタイならもう1ディール行います。マイナス点がないので逆転がしやすく、ファミリーゲーム寄りと言えそうです。
6.ハントヤス(Handjass)
スイスヤスの基本形ですが、ルールが多いのでミットレールの後に持ってきました。
2~4人用で、勝った人から順にゲームを抜けて負けを1人決めます。なので4人で遊ぶと3人戦、2人戦もあわせてプレイすることになります。
【ディールと切札表示】
ディールは4人戦なら通常どおり配りますが、3人戦では「ブラインド」の場を作って、そこに4人目のようにカードを配ります。2人戦ではブラインドに加えて「ストック」の場も作って、それぞれに3人目、4人目のようにカードを配ります。
最後の1枚をディーラーは表にし、これが切札スートになります。3人プレイ時はブラインドの1枚、2人プレイ時はストックの1枚を表にして切札を表示します。
カードを配った後、フォアハント(ディーラーの右隣)から順に出るか降りるかを宣言します。降りたらプレイには参加せず、チップの得失点もありません。1人だけ出たらその1人はプレイなしで+2チップ(2人戦では+1チップ)得ます。2人が出るときは、話し合って+1チップずつ得てもよいし、疑義があればプレイしてもかまいません。
2~3人戦では、出降り宣言のときに先着1名が手札とブラインド(切札表示を含む)を丸ごと交換できます。ただしこれを行うと降りられません。また2~3人戦では、切札の6を持っているプレイヤーは、最初のトリックの前に切札表示カードと切札の6を交換できます。ブラインドが誰かの手札になっていても交換できます。ストックは交換できません。4人戦では切札の6も手札も交換できません。
切札表示カードはブラインドかストックにあれば公開したままですが、切札が誰かの手札にある場合も、1トリック目が始まるまではこれを公開しておきます。
【プレイ】
オープニングリードはフォアハントからです。プレイは共通ルールに準じます。アンダートランプは強い禁則が適用されます。
ヴァイスの手役は下表の8種類(または9種類)があり、最初のトリックのカードを出すときに点数を宣言できます。ハントヤスでは20、50、100点のいずれかを宣言することになります。通常は自分のもっとも大きい点数を言うのが有利ですが、義務ではありません。
ヴァイスに関しては切札も通常のランク順で見ます。したがって、連番は必ずA-K-Q-J-…となり、J-9-Aのような連番はできません。次に述べるヴァイス宣言のタイブレークでもJと9は最高位にはなりません。
手役 | 点数 | 備考 |
Jが4枚 | 200点 | |
9が4枚 | 150点 | オプションルール |
5枚以上の同スート連番 | 100点 | 何枚あっても点数は同じだが、 枚数が多いほうが宣言に勝つ |
Aが4枚、Kが4枚、Qが4枚、10が4枚のいずれか | 100点 | |
4枚の同スート連番 | 50点 | |
3枚の同スート連番 | 20点 | |
すでに言われた点数と同じかより大きい点数しか宣言できず、最大値がタイになった場合は以下の順にヴァイスの勝敗を決めます。まず互いの枚数を言って、同じなら互いにランクを言って、という具合です。
1.カード枚数が多いほうが勝ち
2.枚数が同じなら、最高位のカードランクが高いほうが勝ち
3.ランクも同じなら、切札スートのヴァイスが勝ち
4.さらに誰も切札スートでなければ、オープニングリードに反時計回りでより近い人が勝ち
宣言に勝った1人は、自分の持つ
すべての手役を得点できます。ただし、1枚のカードは1種類の手役にしか使えません。
それ以外の人は、ヴァイスに勝った人に対して対応するカードを公開するよう要求できます。pagat.comによればこれはヴァイスが正しいことの確認ではなく(だって最後までプレイしたら手札の内訳は分かるから)その後のプレイングに使うためとのことですが、私はカウンティングがろくにできないので普通に確認で聞きそうです。手札を明かしたくない等の理由で、ヴァイスを宣言しないことも選べます。
切札のKQでシュテックを宣言して得点もできます。シュテックは該当するカードの2枚目をプレイするとき宣言しますが、ヴァイスで先に見せていれば宣言を省略できます。
ヴァイス、シュテックともに宣言タイミングよりも後には得点できません。ヴァイスとシュテックの得点は、ディールが終わると獲得したカード点+ラストトリック点に足して、その合計で順位をつけてチップをやりとりします。
【点数】
集めたカード点が最も高い2人が+1チップずつ、25点以下の全員が-1チップになり、通算で+7チップになった人はゲームから抜けます。1人だけが26点以上のとき、その人は+2チップを得ます。カード点2位が2人タイのときは、山札から1枚ずつ引いて高位札のほうが+1チップを得ます。
2人戦では、1人だけが26点以上でも+1チップです。2人戦で両者26点以上のときは、カード点の高いほうだけが+1チップを得ます。
次のディーラーは右隣に交代します。ただし交代するはずの人が抜けたらディーラーを同じ人が行い、「必ずフォアハントが反時計回りに交代する」ようにします。
7.シーバー・ヤス(Schieber Jass)
4人ペア戦で、対面がパートナーになります。
最初のディールでは、クラブ(花)の7を持っている人をフォアハント(ディーラーの右隣)とみなして、この人がビッドとオープニングリードを行います。2ディール目はその人がディーラーになってフォアハントがビッドし、以下同様です。
カードが配られたら、フォアハントはコントラクトまたは「押し付け(schieben)」を選びます。コントラクトは次の6種類です。オーベナーベとウーネヌーエはノートランプです。「押し付け」はパートナーにコントラクトを選ばせる宣言で、パートナーは必ずコントラクトを選びます。各コントラクトの倍率は、カード点・ヴァイス・シュテックのすべてに適用します。
切札ありのディールでは、アンダートランプは強い禁則が適用されます。
コントラクト | 点数 | 備考 |
スペード クラブ | 1倍 | どんぐり(スペード) 花(クラブ) |
ハート ダイヤ | 2倍 | 鈴(ハート) 盾(ダイヤ) |
オーベナーベ | 3倍 | |
ウーネヌーエ | 4倍 | |
ヴァイスとシュテックは、ハントヤスと同じですが、ヴァイス宣言に勝った人のパートナーもヴァイスを加算できます。また、pagatやゲームファームによれば点数ではなく手役を宣言するようです(私はどちらでも大差ないと思います)。
(カード+ラストトリック+ヴァイス+シュテック)×ビッドの倍率、がそのままゲーム点になります。最初に3000点取ったペアの勝利です。
伝統的な得点表記では、大きなZを黒板や紙に2つ書いて、各ペアはそこに点数をつけます。100点をZの上辺、50点をZの中央線、20点をZの下辺にそれぞれ線を交差させます(
pagatの図がわかりやすいです)。100点、50点、20点はヴァイスの点数に対応しています。それよりも小さい点数は数字をそのまま書きます。ルール上の違いはなく、伝統ゲームとしての習慣です。
8.コワフュール・ヤス(Coiffeur-Schieber Jass)
3~4人用で、ミゼルカのようにプレイ方式をディールごとに変えてゆくゲームです。まず3人戦を説明します。
全30ディールを行います。
プレイは通常のヤスのルールで、ヴァイスとシュテックはありません。アンダートランプは強い禁則を適用します。
各ディールの最初に、フォアハントから順にコントラクトを選ぶかパスします。コントラクトは下のような表を用意して、左縦列の10個から選びます。一度選んだコントラクトにはもう選べません。全員がパスしたらフォアハントが強制的に選びます。(ゲーム終盤に)後ろのプレイヤーが10個すべてのコントラクトを選び終えている場合、手前の人はビッドをパスできません。
コントラクトを選んだ人がデクレアラーになってオープニングリードを行い、デクレアラーだけがそのディールでカード点を得点します。
《マッチ》はコントラクトではなく、デクレアラーが全トリック取ったときのボーナスです。得点自体が+100点されて257点になるほか、《マッチ》の行にデクレアラーは+2チップ(縦棒)を書き、オポーネントは-1チップ(ポテト)をそれぞれ書きます。デクレアラーが0トリックのときは逆マッチとなり、《マッチ》の行にデクレアラーは-2チップ、オポーネントは+1チップを書きます。
コントラクト | ゲーム点 | Aさん | Bさん | Cさん | Aさん | Bさん | Cさん |
スペード(どんぐり) | 1 | | | | | | |
ハート(鈴) | 1 | | | | | | |
ダイヤ(盾) | 1 | | | | | | |
クラブ(花) | 1 | | | | | | |
オーベナーベ(O) | 2 | | | | | | |
ウーネヌーエ(U) | 2 | | | | | | |
スラローム(S) | 2 | | | | | | |
グスタフ(G) | 3 | | | | | | |
ジョーカー(J) | 3 | | | | | | |
ジョーカー(J) | 3 | | | | | | |
《マッチ》 | | | | | |
スラロームは、オーベナーベとウーネヌーエを1トリックごとに入れ替えます。どちらから始めるかはデクレアラーが選びます。
グスタフは、前半6トリックでオーベナーベ、後半6トリックでウーネヌーエをプレイするか、その逆をプレイします。どちらにするかはデクレアラーが選びます。
ジョーカーは、上の8種類から好きなコントラクトを選びます。
各コントラクトのゲーム点は、スペード/ハート/ダイヤ/クラブは1チップ(1ゲーム点)、オーベナーベ/ウーネヌーエ/スラロームは2チップ、グスタフ/ジョーカーは3チップです。
プレイヤー1人につき縦列が2つあります。左側の列はデクレアラーが選んだコントラクトの獲得カード点を書きます。それが3人分埋まったとき、同じコントラクトで最高点の人は右側の列に+1~+3チップ(縦棒)を書き、最低点の人は右側の列に-1~-3チップ(ポテト)を書きます。
4人戦では、対面パートナーのペア戦が標準のようですが、個人戦も可能です。
ペア戦では各ペアが、スラロームとグスタフを抜いた8コントラクトを選び、計16ディールをプレイします。獲得点によるチップのやりとりはなく、各ディールの点数を10で割って端数を切り捨て、コントラクトの倍率を掛けて表に記入します。たとえばハートのコントラクトで125点を獲得したら、(125/10)*4=48点を記入します。マッチの点数は単に100点をカード点に足します(足した257点を10で割ります)。逆マッチはありません。
スラロームとグスタフを入れてもかまいません。また、個人戦でもまったく同じように32ディールをプレイできます。
コントラクト | 倍率 | ペアA | ペアB |
スペード (どんぐり) | 1倍 | | |
クラブ (花) | 2倍 | | |
ダイヤ (盾) | 3倍 | | |
ハート (鈴) | 4倍 | | |
オーベナーベ | 5倍 | | |
ウーネヌーエ | 6倍 | | |
ジョーカー | 7倍 | | |
ジョーカー | 8倍 | | |
9.ディフェレンツラー・ヤス(Differenzler Jass)
3~4人でプレイします。獲得点を最初に予想するゲームです。通常のルールでは、ヴァイス、シュテック、マッチの点数は計上せず、トリックの157点だけが予想の対象になります。
ディーラーは最後に配る1枚を表向きにし、これが切札スートになります。ハントヤスのような切札6との交換はできません。切札表示はプレイが始まるまで見せておきます。次にフォアハントから順に、自分が取れると思うカード点を予想して宣言します(紙にも書いておくとよいでしょう)。
プレイは通常のヤスのルールで、アンダートランプは弱い禁則を適用します。
点数は、予想と実際のカード点との差分の絶対値です。これが失点になります。人数倍のディールを行います。
バリエーションとして、予想を宣言せず紙に書くだけにする、予想ちょうどの点数になったらボーナスとして失点を10減らせる(ただし0点予想のときは1トリック取らないとボーナスが適用されない)、シュテックを宣言して+20または-20点をその場で選べる、等があるようです。
感想
◆ 改めてきちんと調べると勉強になります
◆ ミットレール以外はアプリで遊んだ程度ですが、どれも遊び味が違っていて面白いです。特に選択ルールでスラロームやグスタフをプレイするときの、脳がショートする感じがたまりません
◆ ハントヤスで紹介したヴァイスは「スモール・ヴァイス」という得点セットで、他に「ラージ・ヴァイス」というセットもあります。これに差し替えてもプレイ可能です(
pagat.comの該当ページを見てね)。ラージヴァイスでは1枚のカードを複数のヴァイスに使えます。pagatが紹介している文献によると「スモールヴァイスはもう遊ばれてない。ラージヴァイスが主流」らしいんですけど、本当かなあ……こんな派手に点数飛び交いそうな得点セットが……? 異国にいるとわからないことだらけです
◆ 覚えることが多くて、ソムニアデッキ作って点数を明記したのはムダじゃなかった作ってよかったという思いと、ヴァイスのサマリやラストトリックのチップを作ったらもっと汎用的だったかなという後悔込みの迷いとが綯い交ぜになってる
◆ ドイツ語ミリしらなのを後悔してます。pagatにある参考文献を輸入して読めるようになりたい
◆ 他のルールも見かけたら追記するかも
◆ ぜんぶ実際のカードでやってみたい
◆ そのうちルールをわかりやすく薄い本にしてもいいなと思いました。要望あれば言ってください
◆ アップ遅れてごめん
※追記
12/16の黒宮さんの記事
『本当はなかった怖いトリテ』を拝読しました。毎年どの記事も圧倒的に面白くて年末の楽しみのひとつにしていますが、今回は特に以下のご指摘を、襟を正して聞きました。
結局のところ海外のトランプゲームの本に載っているからと言って伝統ゲームである保証はどこにもない。私たちはゲームを実際にプレイしてみることで面白いかどうかを判断することはできるかもしれないが、伝統ゲームかどうかを判断することはできない。
[…]
我々は一体、海外のゲームについてどのくらい正確に理解しているのだろうか。この疑問に想到したとき、安易に「伝統ゲーム」という言葉を口にする愚かさに気づく。ゲームなんて面白いかどうかが大事で、歴史やら伝統やらは面白さに直結しない。私たちはゲームの面白さだけを論じて、歴史や伝統を語るのは控えるべきなのだ[…]。それでもなお「古いゲームには歴史と伝統に裏付けられた面白さがあるのだ」と主張したいのであれば、「伝統ゲーム」を語る前にまず歴史を調べなければならない(もちろん外国語で書かれた文献を読んで、ですよ)。歴史を調べもせずに「伝統ゲーム」という言葉だけを振りかざすのはただの権威主義者だ。
言い訳になるのですが、私はわりと「伝統ゲーム」という言葉を使うほうです。これは一応事情があって、趣味で同人ゲームの制作・発表もしているので、パッケージゲームの対立項として[パッケージゲーム/伝統ゲーム]という前提を置いています。作者が明示された(大半は有償である)ゲームと、作者不明で民間に遊ばれているゲームとをふわっと分けるための言葉です。「ボードゲーム」という言葉を、ボードがないカードゲームにも使うのと似た使い方です。だったらパーレットやサクソンや他のいろんな人が発表しているトランプゲームはどうなるのか、あれは明らかに「パッケージ」ではない、というのは全くその通りで、トランプやドミノやタロット等をざっくり指すより適切な言葉がないかと悩むこともありますが、なかなか難しいです。
それでも、伝統ゲームという言葉を安易に使うことに危うさがあるという上記の指摘には首肯するところで、ちょっと考えてみます。ミットレールヤスも実際にはかなり新しいゲームだと聞きますし、たとえば誰かとの会話のなかで説明するときには「スイスの伝統ゲームで」と雑に言うのが一番早く伝わるけど、「スイスのトランプゲームで」じゃダメなのかという自問はしていきたいです。
本記事冒頭の『ソムニア』についても触れておくと、ルールを触っていないのは専ら「下手に触ってバランスを壊したくないから」という理由からです。変えないほうが面白い、伝統的で良いと思っているわけではなく、ルールを単純化して面白いと確信できるほどデベロップ工数をかけられない、のほうが実情に近いです。ただし、製品に触れたユーザの誰かがトランプゲームに行こうと思ったら行けるような導線は意識しているので36枚デッキや点数の大まかな配分まで変えることはしない、そういう意図をもって作っています。
<2024/12/19>
←No.52 物には名前をつける
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