ブリッジは最強のトリックテイキングスキルだ




 この記事は、Trick-taking games Advent Calendar 2023の14日目の記事です……が、一日公開が遅れましてすみません。

 超怪しいビジネス書みたいな表題でコントラクトブリッジの話をしますが、先に関係のない余談から入ります。本題を読みたい方は次の見出しまで飛ばしてもらって問題ありません。

本題と関係ない余談

 このアドベントカレンダーで毎年楽しみにしているのが黒宮さんの記事で、どれも折に触れては読み返して参考にしてるんですが、黒宮さん、記事でときどき私に言及されます。

 ヒップホップで言うビーフのようなもので、簡単に言うと私の記事内容に対する挑発をですね、書かれるんですよ(笑)。クニツィアのゲームデザインを参考にしたと私が書けばクニツィアは嫌いと言ったり、今年も14日に私がブリッジの話を用意してるからか、スカートの話の途中で唐突に「ブリッジってあれトリテなの?」と攻めてきたり。これは本気で喧嘩してるのではなくプロレス的な「見せ挑発」を楽しんでいるのだと私は勝手に思ってまして、私もこうしたやり取りを結構楽しんでます。ですからもう少し当方にスキルや知見があれば「黒宮さんはわかってねえんだよ」ぐらいのことはビーフとして書くんですがwww、あいにく知性も知識も経験もぜんぜん勝てないので、今回もひとまずラップバトルにはせず素直にブリッジの話をします。
 ちなみにバトル用の煽り文句自体はないではなく、私、実はモーツァルトが大の苦手で……いやレクイエムの楽譜を読んだり歌ったり、アイネクライネを指揮法のレッスンで振ったりしたことはあるので凄さは承知してて(学生時代に楽理は一瞬習いました)、単なる個人的な好みの話です。あまり書くとマジモンの乱闘になりそうなので一旦今回はこのへんで

主題

 今回の主題はコントラクトブリッジです。このゲームは入門だけでもやってみて損はないよという話です。まずゲームの概要を説明し、それからビッド(オークション)、プレイの順にざっと話します。
 といっても私は昨年末から草場さんにブリッジを習い始めた若葉マークつきで、やっとビッドとプレイの最低限を覚えた程度の腕です。あくまで初級者の話とご理解ください。それでも得たものは非常に大きく、トリックテイキングに対する解像度が一段も二段も上がったように感じています。入門レベルを知るだけでもトリックテイキング全般に対する技術や面白さへの理解が向上しますし、オリジナルゲームを作るときの参考にもなろうかと思います。

ブリッジの概要

 4人専用、対面ペア戦です。3~7人の場合も工夫すれば卓を回すことはできます。
 進行はすべて時計回りです。トランプ52枚を13枚配りきり、ディーラーからソフトパスで達成トリック数+切札スートをビッドします。ビッドできるトリック数は7が最低限のため、すべて6を引いて宣言します。ビッド時のスートは同じトリック数ならNT > S > H > D > Cの順に強く、たとえば1S(ワン・スペード)は1H(ワン・ハート)に勝ちます。この強さはプレイには関係ありません。
 確定したビッドがコントラクトになり、デクレアラー(ビッドしたチームで切札スートを最初にビッドした人)の左隣からオープニングリードを行います。プレイは普通のマストフォローで、切札があれば切札の最大ランクが、なければリードの最大ランクがトリックに勝ちます。
 コントラクトを宣言したチームが同数以上トリックを取れば、コントラクト達成(メイク)になり、(コントラクト数ではなく)実際に取ったトリック数に応じた点数が入ります。切札スートによって得点が変わり、D/Cでは6トリックを超えた1トリック20点、S/Hでは1トリック30点、NTでは1トリック30点+固定10点です。さらにその得点が100を超えたらゲームボーナスがつきます。ゲームでない普通のボーナスはパーシャルと呼ばれて50点ですが、ゲームボーナスは300点または500点と大きいため、ゲームを狙えるときは狙うのが大原則となります。3NT(9トリック、3x30+10=100点)、4S/4H(10トリック、4x30=120点)、5D/5C(11トリック、5x20=100点)がそれぞれゲームを作れるラインです。
 未達はダウンと呼び、ディフェンス側のチームが得点します。ダウンの点数は上記と異なり、さらにビッド中宣言できるダブルの点数などもありますが、本記事では省略します。

 9~11トリックがそんなに簡単に取れるのかというと、案外取れます。
 ブリッジの唯一最大の個性は、オープニングリードがプレイされて開いたら、ただちにデクレアラーの向かいは手札をすべて公開し、プレイには一切関与しないという点です。向かいはダミーと呼ばれ、デクレアラーの指示どおりにカードをプレイするだけになります。いわばデクレアラーは手札26枚を持っているようなもので、ディフェンス側は手札13枚ずつ+ダミーの情報を頼りにそれを落としにいきます。黒宮さんがブリッジを異端児と書かれているのはまさにこの点で、他のトリックテイキングゲームとは性格がまったく異なります。
 デクレアラーは自分のカードがすべて見えているから、相手のカードもブレイク(配分)以外はわかっている。もちろんそのブレイクや、プレイ前の競りに運は介在しますが、理詰めの要素が極めて強いゲームです。だからそれだけのトリックが取れるのです。

ビッド(オークション)

 いえ、今ちょっとごまかしました。プレイ中にダミーのカードが見えていても、それだけで9~11トリックが取れるかというと、できないことが多いです。
 コントラクトをメイクしやすくするために、ブリッジではビッドで情報を交換するシステムが何種類も確立しています。これがブリッジの難しさ、敷居の高さにつながっています。

 もっとも有名なのは5メジャー・オープニングというシステムで、これは簡単に言うとメジャースート(S、H)が5枚手札にあれば1S、1Hをビッドするという決め事です。対してD、Cはマイナースートと呼びます。
 切札があるほうが、ノートランプよりもトリックを取るのは簡単です。ゲーム点を貰うには4S/4Hが最もやりやすく、次に3NT、次に5D/5Cと言われます。したがって切札のある4S/4Hを優先的にビッドする方針をとります。1スートは13枚なので、切札が自チームに8枚あってオポーネントには残り5枚、この配分ならゲームが狙えると考えます。自分が5枚あってペアの相方にもう3枚あれば――3枚ならありそうですよね――計8枚でゲームを作れる範囲ですから、メジャースートの5枚を優先的にビッドしていく、という考え方をします。なぜ8枚かというと、オポーネントの切札が計5枚であれば3-2のブレイク(分かれ)になっていることが多く、切札を3回リードすればたいてい狩りきれて勝ちやすいからです。基本はまず切札を狩りきって、それからサイドスートで勝ったり、相手の強いサイドスート(切札じゃないやつ)を切札でラフしたりします。
 では対面(レスポンダー)が3枚持っているかをどうやって判断するかというと、ビッドです。レスポンダー側から見れば、相方が1Hをビッドしたらハートが5枚あるとわかるので、自分が3枚以上持っていれば応えて2H以上をビッドします。最初にビッドしたオープナーはそれを聞いて8枚掛かったことがわかる、という仕組みです。持っていなければ自分の長いスートや、それもなければNTをビッドしたりします。

 とはいえ、切札なら23456の5枚でもいいかというと、あまり弱いと負けそうですよね。最初に宣言するオープニングビッドにはもうひとつ、手札のHCP(アナー・カード・ポイント)が計13点ないと宣言しないという決めがこのシステムにはあります。アナーとはAKQJ10のことで、ポイントがあるのはAKQJです。これはゲームのルール/プレイに関わる点数ではなく手札の評価値を出すための仕組みで、スートを問わずA=4点、K=3点、Q=2点、J=1点として計算します。「絵札を持っているほど強い手である」ことを数値にしただけです。ペアで計25点あればゲームが7割は狙える、同様に計33点あればスモールスラム(12トリック)、計36点あればグランドスラム(13トリック全部!)と言われます。簡単な割には精度が高く、ブリッジ入門で最初に覚えるのはこのHCP計算です。

 難しいですよね~! 私も最近ゲムマ準備で全然ブリッジ打ててなくて、このへんの超基礎知識から忘れつつあります。上記はビディングの概要というかさわりで、実際にはもっとずっと多岐にわたる約束事があります。
 あとお気づきかと思いますけど、これで話はまだ半分で、プレイングの話をしてませんね?

プレイ

 最初に教わるのはエスタブリッシュ(確定とか確立というニュアンスです)で、自分(ダミーでもいいです)しかそのスートを持っていない状態を指します。リードすれば切られない限り必ず勝ちます。だから先に切札狩りをして、それからサイドスートの強いカードで勝ち、弱いカードでもリードすれば勝つようにすればトリックを沢山取れます。
 この話にはもうひとつポイントがあって、自分しか持っていないスートは自分がリードしないと勝てませんよね。ということは、リードしたいスートがあるときは、自分がその前に1トリック勝つ必要があり、すなわち勝てるカードを残していないといけません。このカードのことをエントリと呼びます。自分にリードを「入れる」という意味です。ですから、前半ただトリックに勝つために強いカードを出していると、エントリがなくなって後半に勝てなくなります。目的や狙いをもって勝たないとトリックを無駄にします。13トリック全体でコントラクトを達成するのが目的であり、トリックの勝敗はその手段です。

 それから、ちょっと似た概念としてプロモート(昇格)があります。Aがプレイされたら同じスートのKが最強に上がるといったことです。プレイされたアナーを覚えておくのは当然として、この考え方は応用範囲が広いです。
 たとえば自分の手に切札のQJ、ダミーに切札のA2があるとします。ということはKをオポーネントの左右どちらかが50%ずつの確率で持っています。ここで試しに自分からQを出してみましょう。左隣がKを持っていてすぐ出せばダミーのAで叩き落とせばいいだけで、手札のJが昇格します。勝ったダミーから2をリードすれば自分のJが勝ち、2トリック取れます。それを嫌がって左隣がKを出さなければ、ダミーから2を引けばQで1トリック取れて、次に手札からJをリードすればダミーのAが必勝です。どちらにせよ2トリック取れます。逆に右隣がKを持っていたらどうなるか? 左隣がKを出さないのは同じですからダミーからは2を引き、これは右隣のKに負けてしまいます。次に切札をリードされたときAで勝つので1トリックです。ですから、Kを持っているのが左隣なら2トリック、右隣なら1トリックと、50%の確率で2トリック勝てます。下家に高い札を期待する、フィネスという技術です。

 この例では手札にJを持っているのが大事で、左隣がKを出したら自分のJがプロモートするからこそ2トリック取れる可能性が出てくるわけです。もし手札がQJでなくQ3だと、QリードにKを出されてAで叩いてもオポーネントのJがプロモートしてフィネスになりません。どう出せばどれがプロモートするかを検討するのが重要になってきます。
 さらにこの例では、手札からQ(J)を出さないと失敗します。ダミーに向けて打つのが大事です。反対にダミーから先にAを出すと当然Kは出されず、次のQは残ったKに取られて1トリックしか勝てません。ダミーから2を出してもKで取られて、やはり1トリックしか勝てません。同じカードの持ち方なのに、どちらから出すかでトリック数が変わるのです。なんて怖ろしい話でしょうか。
 あと、左隣がKを持っている確率は50%と書きましたが、オポーネントも当然ビッドはしますし、それを聞けばHCPがなんとなくは察せられます。ビッドに出た方がKを持っていて、ひたすらパスした方は持っていないという読みもできますから、実際にはもう少し高い確度でフィネスが成功する場合もあります。

 このあたりが入門レベルで教わる技術の一部で、まだまだこういうのが沢山あります。私? 全然です。毎日iOSアプリでFunBridgeやTricky Bridgeをプレイしてはスコア低くて嫌になります。

結局これは本当に役に立つのか

 身もフタもないことを言うと、こうした技術の大半はペア戦であること、もっと言えばデクレアラーの対面がダミーになって手札を公開することに多くを依拠しています。手札を公開してデクレアラーが26枚プレイするというのは、トリックテイキングとしては極めて特殊です。大半のゲームでは対面ペア戦であっても手札は限られた情報しか交換できません。そのまま使えない技術も沢山あります。
 それでも私がブリッジを少し触ってよかったと思うのは、競技性の高いゲームであるが故に、ノウハウの蓄積が圧倒的に多いからです。本もWebの情報もアプリも他のトリックテイキングとは比較にならない量があり、そうした技術に日本語や英語で容易にアクセスできるのは有益です。フィプセンやヤスの戦法なんて簡単に日本語で探せるとは思えません。

 そして、ブリッジで覚えた技術の一部は他のゲームにも活かせます。たとえばウィーク2というオープニングビッドがありまして、「6枚以上の長いけど弱いスート」を示します。あまり強くないダイヤが6枚あれば2Dを言うわけです。なぜ弱いのに高くビッドするかというと、自分が弱いということはオポーネントの手札が強そうだからです。ここでみすみすパスしたら、オポーネントが1の代からビッドで情報交換すれば良いコントラクトをメイクされる可能性が高いから、先にビッドを吊り上げてビディングスペースを狭め、情報交換を邪魔する目的があります。デッキが固定枚数である以上、自分の手が弱ければ相手の手は強いというのはブリッジに限らずどのゲームにも言えます。
 他には、ルールオブ11という計算法があります。4thベストといって、オープニングリードするスートでは4番目に強いカードを出すと決めておくペア間のコンベンション(自分たちが使うビディングシステムに対して個々に付け外しできる規約)があるのですが、11からそのリードカードのランクを引くと、残り3人がそのカードよりも上を持っている枚数になります。自分の手札は見えますから、残り2人の手札の見当がつくわけです。元々はブリッジではなくホイストの技術だそうで、これもダミーの公開非公開を問いません。

 トリックテイキングを沢山遊ぶと、感覚でなんとなく覚えてくることって沢山あります。けれどブリッジの場合はそれをある程度体系的に整理して教えてくれて、しかも量は膨大だし質も高い。自分が知っているつもりで知らなかったこと、勘違いしていたこと、よりよいプレイ指針、そういったことがクリアーに見えてきます。遊ぶときだけでなく、作るときにもブリッジのこの技術を転用できないかとか、引き出しが増えます。
 この記事に書いたのはごくごく一部です。ですから最初の壁は決して低くないのは事実ですが、最低限プレイ可能になるまでは思ったほど難しくはありません。私が習ったのは組み込みハンドでのプレイ練習を含めて3時間×12回程度で、それほど時間のかかる投資ではありません。そこまで習えばあとはアプリでデュプリケートを遊んだり、ウェブサイトで対人戦をやってみたりできます。感覚としては麻雀に近いです。技術がものを言うゲームですが、ビッドは結局競りですし、プレイも1つのミスで逆転したりしますから、意外と運やその場の雰囲気も左右します。

 自分が今まで遊んでいたトリックテイキングというゲームはこういうものだったんだ、こんなこともできるんだ、という新鮮な驚きを、多くの人に体験してほしいと思っています。



<2023/12/15>


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