コンテストの当落線上にひっかかるくらいのゲームの作り方




 この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2023の14日目の記事です。

 はい。
 当落線上にひっかかる作り方です。入選できる作り方ではありません。筆者が入選して商品化のお話を頂いたことがないからです。具体的に言うと、昨年(2022年)にグループSNEさん主催の「サメゲームコンテスト」で佳作をいただいたのが希少な受賞経験で、つまり今回はこのゲームをどう作ったかの話をします。
 そんなのが参考になるかどうか微妙ですけど、でも佳作までいけたらあと一歩って感じしません? その一歩が50cmどころか50kmぐらいありそうなのはともかく、あと一歩の地点に行き着いただけでも私は嬉しかったので、結果論にはなりますがノウハウを共有していきます。記事の最後にて説明書もダウンロードできます。
 筆者の主な作品はサークルサイトがわかりやすいかと思います。

コンテスト概要とブレインストーミング

 サメゲームコンテストの概要は、グループSNEさんのサイトをご覧ください。
 こういうのは、お題の分解から入ります。

 ◆応募要項を一読して「絵柄20種類をすべて使う」という縛りが特殊なのがわかります。絵のサイズと「カードの枚数は自由」という但し書きからカードゲームを期待されているのもわかります。後者は必須事項ではないので一旦措きます、というか応募者がカードゲームを作ってくる確率が高いと見込んで、逆にボードを使ったゲームにすればそれだけで目に留まるのではないかという、コンテストっぽい読みをします。実際私はそうしました。

 ◆イラスト20種はサメと遊泳客が各10種で、ですから「サメカード」と「遊泳客カード」に分けるのが最初に思いつく筋です。これをまず疑うべきです。サメと遊泳客の2スートあると言っているわけですが、2スートに各10種類のユニークカードを設けるというのは、種類が多すぎてカード間のバリエーションを出すのが大変です。もちろんランクを1~10まで設ければ済みますが、20枚にせよ40枚にせよ馴染みのあるデッキ構成でないため、メカニクス実装が大変そうです。あくまでイラストを使うのが条件であって、全イラストを等価なカードとして扱うという規定ではありませんし、そもそもイラストをカードに使えとも書いていませんから、ここに手を入れることを念頭に作ります。

 ◆もう一点、「あまりにも残酷な内容、ブラックすぎる内容はお控えください」ともあります。この文言とイラストからも察せられるように、典型的なサメ映画のテーマ性をゲームが踏襲することを期待されています。それほどテーマによるバリエーションが出せないので、キャッチャーのサイン通りに直球勝負のほうが良いと判断します。つまり、サメが襲ってくるので遊泳客が生き延びる、かつ/または遊泳客がサメを撃退する、というテーマにします。当たり前と思われるでしょうが、ここで捻りすぎるとコンテストとしての評価は高くつかないという判断は一応確認しておきましょう。

 ブレストしたノートが残ってました。こんな感じです。


 去年の自分は3案考えたみたいですね。いや「みたいですね」って言い方もアレですけど、3ヶ月以上経ったソースコードは他人のものですから。列挙すると、

 A. ライフセーバーになって、サメから人を助けるゲーム
 B. サメになって、遊泳客を食べるゲーム
 C. サメvs人間のデュエル、または(スコラン的な)非対称

 Bは募集要項の「あまりにも残酷な内容[…]はお控えください」から、避けたほうが無難です。Cは個性を出して面白く作るのが困難です。デュエルは個人的には好きなのですが、今回避けたのは間口が狭くなるからで、3~4人対応は入れるほうが商品として売れやすいです。必然的にAしか選択肢がなくなりました。さらにテーマから協力ゲームとしての実装も確定的になりました。人を助けるという共通目標があるのに、その中で例えば助けた人数などで勝敗を決めるのはテーマ的な直感に反しますし、まして半協力(助けられなければ全員敗北、そうでなければ勝敗を競う)は脱落確定プレイヤーが他の足を引っ張るので地獄への道一直線です。
 他にも案はあるのでしょうが、私が思いついたのはこういうことでした。サメ映画って正直『ジョーズ』も見たことないほどで詳しくなく、最近見たのはせいぜい『スノーシャーク 悪魔のフカヒレ』くらいですが、だいたいプロットの想像はつきます。

基本設計

 大まかに言えば、プレイヤーの役割を設定し、基本メカニクスを決め、イラストをどのコンポーネントに割り振るかの役割を決め、立ち合い強く当たってあとは流れで細かいメカニクスを足していくだけです。

 まずイラストの遊泳客は逃げてますから、プレイヤーの役割はそれを助けることです。お、1枚ライフセーバーの絵がありますね。だったらプレイヤーはこのライフセーバーを受け持つことにしましょう。残り9種類の遊泳客はカードにして、助ける対象にします。正確には犬を特殊カードとして除外し、1~8の8種類のカードにしました。
 というか、ビーチの遊泳客をサメから助けるのですから、ボード上で遊泳客やセーバーやサメを動かして、客をビーチまでピックアップするのがいちばん感覚的に素直ですね? そうしましょう。今回はコンテストですから、コンポーネントの経費はそこまでこだわりませんでした。ただしこの判断はおそらく失敗で、コンポーネントの経費も考慮して量産しやすいゲーム内容にするほうが入選確率は上がると思います。もちろん今回私が次席にとどまったのは首席のN2さんのゲームが素晴らしいからです(『POWER SHARK』は未プレイですが、私がN2さんに勝てるとは思いません。12/4の記事を読めばそれは明らかです)が、今後あなたが同様のコンテストで誰かと僅差の勝負になったとき、その点が左右する可能性はあるでしょう。


 ともかく、今回はボードゲームにしました。写真のように海上をマップにして遊泳客コマを配置し、プレイヤー(セーバー)は自分のコマを動かしその客をピックアップしてサメコマから逃がし、海岸まで連れて行くピック&デリバーです。ピック&デリバーはアクションに複数の意味を持たせづらく、洗練させるのが難しいメカニクスなのでちょっと嫌な感じはしますが、移動をスピーディに行えるようにすれば緩和はされるでしょう。客が減るほどゲームは簡単になってゆくので、サメの数も徐々に増やして収束性を上げることにします。
 見たらわかると思いますが、ゲームの骨格は『パンデミック』とほぼ同様です。この被りはもう避けるのも困難で、相違点によって細かいゲーム性を変えていくしかありません。被ること自体が悪いわけではないので、既存作との類似を自覚し、極力それを公言し、差分をちゃんと作り込めば問題ないと私は思います。本作では『パンデミック』のようにマップ上の点をカードで指定するのでなく、遊泳客コマに1~8の番号を振ってそのコマを対応するカードで動かし、障害物が静的にマスに発生・増加するのではなく移動することにして(テーマからこのメカニクスはただちに導出できます)、異なるゲーム体験を担保するよう試みました。
 セーバーを動かす必要もありますが、これは別途カードを設けると煩わしいので、遊泳客カードと共用にしてセーバーか遊泳客のどちらかを動かすという二択にしました。コンポーネントが少ないとき、減らしたいときはそれをそのままゲーム中の縛り・選択肢にしてジレンマを作るという基本技術です。

 サメは敵なのでアルゴリズム(動作のパターン)で自動的に動くようにします。『パンデミック』のエピデミック処理と同様ですね。したがってこれはコマだけで事足ります。が、それではサメを10種類使えなくて困るので、だったらサメの動作パターンを複数作ってゲームのたびに選べるようにすればいいじゃない! というこれも地獄への道が待っているわけですが、とにかく規約上サメのイラストは全部使うしかありません。
 仕方ないのでサメは一部を統合して動作パターンを7種類程度に抑え、そして全種類の十分な網羅テストなど当時4歳の子供を日々育児してるおとうちゃんには到底無理なので、基本になるサメを重点的にテストしてあとは最悪拡張として段階リリースすればいいじゃない、という逃げを打ちました。できないものはできませんから応募時の説明書にも正直に「基本のサメ以外はテスト不足です。拡張どうでしょう」と書いています。こういうことを書くと審査員の心証は悪くなるのかもしれませんが、ハッタリは嫌いですから、性分です。

 最初の設計段階で、各イラストをコンポーネントへどう割り振るかを考えておきます。規約違反は許されないのでここを最初に固めておくとあとが楽です。
 遊泳客は概ねさきほど述べた通りで、8種類は遊泳客カードとしてハーフサイズにする、1種類は犬カードとしてプレイヤー持ちにする、残ったセーバーはプレイヤーボードにします。『パンデミック』以降、協力ゲームはプレイヤーごとに異なる能力を持たせるとゲームへのコミット感が増すことは広く知られており(たぶんね)、こんなメカニクスはもう一般的なので躊躇なく借用します。セーバーの色をグラフィックソフトでいじって、なんか服の色がサイケになるのでテイストを近未来舞台にし、ついでに私の趣味で各セイバーの名前を「オタマ」「トウキョウ」「オオタニサン」「クノイチ」にしました。ボードゲームは卓で笑いが起きるのが良い姿だと私は思ってて、例えば『イスタンブール』の「親戚がムショ入り」「マイクロソフト駒」のような、ルール説明だけで鉄板の笑いがとれるポイントを作っておくのはひとつの手段です。好きなことはどんどん入れてしまいましょう。ついでにボード名も「メチャヤバイ・ビーチ」にして、これはもちろん『ニンジャスレイヤー』の「マルノウチ・スゴイタカイ・ビル」の模倣です。
 あとはサメですが、移動アルゴリズムを小さいボードに書いておいて、そこに各サメのイラストを添えるようにしました。サメの名前は募集要項の追記を参照し、そこに上記のテイストを足して「フツー・ホオジロザメ」「カブキ・トリオ」「マジヤバイ・メガロドン」などとしました。普通の能力のやつは普通って書いておけばそれが初回プレイ推奨だってわかるし、ネーミングに変な効果も生まれるので一石二鳥ですね! ほんとごめん。

 タイトルは『ビーチの三匹鮫 ~犬は勘定に入れません~』です。ジェローム・K・ジェローム『ボートの三人男 ~犬は勘定に入れません~』というイギリスの有名なユーモア小説のもじりです。犬がいるのでこれを思いつきました。SNEさんであれば審査員のどなたか(少なくとも安田均さん)には必ずこのネーミングの元ネタが通じるはずで、こういうフックを作って細かい点で目を引くようにします。説明書のプレイ例に文芸作品を引くことも私はよくします。サメ映画に詳しい方であれば、ここをサメ映画のオマージュにすることも可能なはずです。
 ネーミングから導出して、ボード上に出現するサメは最大3匹にしました。途中でサメを増やす理由は先に書いたとおりゲームの収束性を担保するためと、後半の緊迫感を増すためです。

細かい実装とテスト

 デベロップはいつも通り、最初に説明書を全部書いてからテストを通じてそのドキュメントを更新していきました。説明書は最初からできるだけ製品レベルを想定して書き、細かい点をテスト&デベロップを通じて修正したり、リード文を追加したりします。後からドキュメントを起こすと文章チェックの工数がとれなくなるリスクがあり、特にコンテストの場合は危険です。この作り方はそれを防いでくれます。

1) 遊泳客カードの使い方

 遊泳客は1~8の8スートです。ここでの数字は順序の意味をもたないので、ランクではなくスートです。A~Hよりは感覚的でいいと判断しました。
 8スートもあって欲しいスートが手札に揃うはずがないので、2枚組でワイルドカードとして使える規則(『王と枢機卿』から借用)と、全種異なるカードでもセーバーを動かせる規則を追加して、手札運用に幅をもたせました。後者はラミー系の典型パターンのひとつで、このあたりはトランプのラミーゲームをいくつか遊ぶと感じがわかると思います。

2) アイテムを増やす

 サメ、遊泳客、セーバーだけだと盤面が淡白です。もちろんバニラで試すのが基本ですが、少し追加要素を入れておくとプレイングが華やかになります。
 よくある手として、アイテムを追加しました。これは指定イラストがないので自作です。効果は同種のゲームからいくらでも借用してこられます。数少なめ、効果強めのほうがプレイヤーに良い印象を残します。今回アイテムは手札とは別枠にしましたが、これはプレイヤーボード(セーバー)の能力差に保有枚数を組み込むためです。手札に入れるようにしてもゲームシステム上は問題ありません。

 夜中の3時頃にスイカの絵を描くのは楽しかったです。
 アイテムカードの四隅にインデックスを設けていないのは、アイテムカードを手札として持たずプレイヤーボード上に置いておくからです。遊泳客カードのほうは四隅にインデックスを設け、カードの向きが天地逆でも扱える対応(プレイアビリティ確保)と、左利き対応とを行っています。ちなみにボードの色覚対応も確認済みです。

3) アルファプレイヤー問題

 放置しました。お題の想定からしてヘビーゲーマーがターゲットではなく、パーティーゲーム寄りと判断したからです。
 そもそも協力ゲームは多人数ソリティアであって、コミュニケーションに制限を設けるのはどこかに無理が生じます。名作『花火』でさえプレイ環境をひどく選びますし、『ザ・ゲーム』などを見ればプレイヤー間コミュニケーションの制限がどうしても曖昧さを内包するのは明らかです。実際最近の作品でも『イーオンズ・エンド』のように、その点を投げているゲームは少なくありません。私の実力ではそこにこだわっても成果が薄いと判断し、この問題は切り捨てました。説明書に「絶対に他人のアクションに文句つけるな分かったかこのゴンダクレが」と書くのが精一杯でした。

4) テストプレイの反応

 概ね良かったです。対人テストは親しい友達と妻に計3回やってもらっただけで、あとはしつこいソロ回しで細かいバランスを確認しました。本質がソリティアと同じということは、ソロ回しも違和感なくできることを意味します。一般論としては、テストプレイのレンジは「3~4」と「2」と「1」を各1回以上試すのが原則で、今回もそうしました。
 本作は、コンテストのお題を素直にゲームに落とし込んでいると思います。もちろん細かいメカニクスの指摘や案は沢山もらいましたが、ゲームに熱中している感じの指摘や案が多く、基本路線はこれでいいと思えました。「これ、同じもの作ってる人いそうだよね」と言われたくらいで、私もその点が一番気がかりでしたが、結果を見ると幸い被っていなかったのでしょう。カードゲームを避けたのは製造コスト的にはマイナスでしたが、この点では正解でした。
 説明書にプレイテスター名は明記しましょう! ゲームを完成させられるのはテスターの皆さんのおかげです!

5) 苦労したこと

 サメを増やした瞬間に難易度が爆上がりする、それまではやや単調に感じる、という点にいちばん悩みました。結局完全に解決したとは言いがたいのですが、山札の回転を少し早める調整をして問題を緩和しました。ボードの経路はそこまで苦労していません。こういうのは決めの問題で、いくつかのポイントに引っ掛かりを作ってあげればプレイ体験としてはそれっぽくなります。

応募にあたっての考慮点

 最初にイラストを分析したとき、2つ気になる点がありました。

 ひとつは、イラストをそのままカードとして使うと、カードの両肩や上下にあまり沢山情報を載せられず、載せると絵をつぶしてしまうことです。特にサメでこれは顕著です。カードゲームであれば多少は効果を乗せたくなるのが人情ですが、絵を使うことが応募規定に組み込まれている以上、絵をあまりつぶすことは避けたい。幸いこの問題は、絵の半分ほどをカードでなくボードに移すことによって解決しました。

 もうひとつ重要と個人的に考えたのが、遊泳客のイラストが白人に寄っていることです。古い映画のオマージュであればどうしてもそうなるかと思いますが、現代の映画/ゲームとしては有色人種やLGBTQへの配慮が当然必要でしょう(『パンデミック』に黒人が登場するように)。万一私の作品が採用されたらここは変えてほしい点ですから、説明書にその旨を記載しました。
 これは選考にあたりマイナスポイントになり得るのを覚悟で書きました。ゲームデザイナーはシステム/メカニクスさえ書けば後は編集チームに委ねるのもひとつの見識ですが、私は自分名義の作品にはディレクション面でもある程度責任を負いたいし、そういう視点を持っていることをアピールもしたいです。結果、佳作に選んでいただいたということは、この点はおそらくマイナスにならなかったのでしょう。SNEさんの雅量を感じました。

 応募にあたり、必須事項ではありませんがカバーレターを付記しました。あるほうが親切でしょう。概要をここに書くことで、ゲームのアピールポイントを確認する助けにもなります。また表紙イラストも募集ツイートに掲載されていたので、それを拝借してフォントベタ打ちのロゴを追加した画像も同梱しました。フォントを工夫すればちょっと雰囲気が出ます。

おわりに

 説明書と一部コンポーネントをDropboxに置いておきます(約4.3MB)。規約上カードイラストは除外しました。

 拙作を高く評価していただき、望外の喜びでした。高評価の理由はわかりませんが、システムをある程度きちんと作り込んだことだと私は思っています。
 私が作りたいのはただのユーロゲームです。これはどの作品でも同じです。だから採用するゲームメカニクスの多くには参照先があります。オリジナリティを出そうと考えたことは一度もなく、面白いゲームを作ることだけを考えています。作り込む過程でオリジナリティは勝手に出てくるからです。私にとって上記の制作過程はごくオーソドックスなものですが、誰かの参考になればいいなと思います。



<2023/12/14>


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