引き算型のゲーム作りと、そのための細かい技術




 この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2022の14日目の記事です。

 10月頃に今年のアドベントカレンダーのことを思い出して「今年はなに書こうかな……ゲーム作る人には足し算型と引き算型がいる話がボードゲーム読書会で出たから、その話かな……」とぼんやり考えてました。
 11月にエントリしたとき、そんなことはすっかり忘れてて「今年はなに書こうかな……デベロップの数値調整とかの話だったら実用的で需要あるから仮決めでそうしとくか……」と適当に入力しました。
 で、昨日になって10月のことを思い出しました

 そういうわけで今回話すのは、「ボードゲーム作る人には足し算型と引き算型がいて、自分は引き算型です。引き算でゲームをパパっと作るとき、こういう数値調整を使ってなんかいい感じにやってます」という内容です。もともと関係ない2つの話題を無理やりくっつけてるので内容に統一感がありませんが、そういう仕様ですので早めに慣れてください

足し算型と引き算型

 足し算型のデザインは、コアアイデアをまず決めてから少しずつ要素を足してゲームを完成させるやり方です。引き算型は、最初にアイデアからメカニクスの詳細までひととおり決めてから削るやり方です。もちろん制作過程では両方のやり方を織り交ぜるものですが、傾向として自分はどちら寄りか、というのはおそらく誰しもありますよね?

 私は明確に引き算型です。ていうかゲーム作りを始めてからずっと、全員同じように大まかな完成形から引き算で作ってるのかと思ってたら、足し算型の人もいると知って驚きました。たとえば読書会で伺ったところだと、草場純さんや、11日目の記事を書いたBiblioGamesさんは足し算で作るそうです。
 自分は自分の経験からしか話せませんが、引き算型だと最初にゲーム規模を決めてしまって全体像もだいたい見ているので、制作スピードが概して早いです。重要なメカニクスを後から足すことは原則せず、デベロップの方向にそれほど迷わないからです。ゲーム規模が大きくなると要素を足したり変えたりはしますが、やっぱ最初のが良かったじゃんみたいなことはよくあります。もちろんそこで回り道して元の地点に帰ってきたことには意味があるので、回り道の過程で細かいデベロップを経て質は向上していますし、メカニクスやリソースの組合せに対してより確信を持って説明できるようにもなっています。ルールの必然性を言葉で説明できることはとても大事です。
 その代わり、これは短所かどうか微妙ですが、最初に構想した規模よりも大きいゲームを作れません。だから小規模作品が多くなります。速筆で多作と言えば聞こえはいいものの(2016年にゲムマ初出展してから7年で同人誌含め34作あるので、少なくはないはずです)、1つのゲームを練り込んで大作にするといった作り方はできません。具体的にはプレイ時間が60分超のゲームを作ったことがなく、いま1つ制作中なんですが相当苦労してます。

 足し算型の場合はこの逆になるんだろう、と想像してます。1つのコアメカニクスに対して色々な方面からのアプローチを試みるので、独創的な組合せを試しやすい一方で制作期間は引き算型よりも長くかかる。システム先行で作れる人はこのタイプが多いのかもしれません。部品を足していくのは言い換えるとBuilding Blocks of Tabletop Game Design(『ゲームメカニクス大全』の原題です)を積極的に活用するともとれます。なぜそう思うかというと、私がこの本をtipsとして使わないからです。生活での経験にもとづくテーマや、実際に遊んだゲーム体験からパッと全体像を降ろしてくるのが引き算型です、少なくとも私はそうです。だからテーマ先行(これとかこれとか)はそこそこ得意で、システム先行で作るのはちょっと苦手です。組合せをやろうとしても発想が飛躍してくれず、ありきたりなゲームアイデアに収まるため大抵ボツにします。テーマから作るほうがなぜかシステムの独創性が高いです。これは個人的な特性だと理解してます。

 個人の向き不向きなので優劣はありません。自分の特性を知っておくと少し制作効率が上がるとか、議論の整理に役立つとかはあると思います。ここまでが前段、制作手法のモデル化です。

手早く作るためのアプローチ

 続いて本論、主に小規模ゲームをぱっと作るとき私が使っているアプローチの紹介なんですが、「引き算型」というモデル化をしたことで、そのアプローチを使う必然性や向き不向きなどはある程度絞り込めるようになりました。俯瞰から細部へと向かって話をします。これを読むとピエールvs卓球のバトルゲーム救急車を蹴った理由を供述するゲームぐらいは作れるようになると思います。

 まず大枠の話をします。原則として、1ゲームでは1アイデアのみを実現します。アイデアは最初に決めたものを起点にしますが、途中でそこからずれてかまいません。完成形に対して2つも3つも新しさを持たせようとするとゲームの軸がぶれて、プレイヤーが面白さにフォーカスできないので極力避けます。こういう作り方をしてるから重ゲーがなかなか作れません、いやそれは置いといて。
 テーマ先行なら使いたいテーマやその体験――たとえば「壺と献金」をテーマにするならプレイヤーに壺を割らせて喜んでほしいとか――をイメージして、それを無理やりドイツ/ユーロっぽいシステムにこじつけます。こじつけるところに新しさが生まれます。いや知らんけど。
 システム先行であればコアメカニクスが1つか、既存のメカニクス2つの組合せとしてあって、そしたらそこにフォーカスして作るのは同じです。コアというかメインになるメカニクスが2つ以上あると、手綱を取るのは相当困難だと思います。自分の場合は既存作品に対してずらしを加えることが多くて、いま考えた例だとダイスプレイスメントだけど必ず2個組でしか置けないとか、ケイラスだけど建物は建築されず破壊されていくとか、そういう感じです。苦手なゲームをわざと出発点にして、好きになれるようにいじってみることも時々します。競りが苦手だとしたら、競りのどこが好きじゃないのか? 相場の不透明さなのか、無慈悲に負けが決まってしまうところか?

 好きになれるように変えるという話をしましたが、自分の好みという個人的かつ経験的な部分にこそ新しい発見が宿っています。制作は結局自分の中にインプットされたものからしかアウトプットできません。だから質の高いインプットを沢山するほうが良いものを作れます。私はボードゲーム以外にも読書やスポーツ(観戦含む)や音楽、美術などもわりと重要視するほうですが、ドイツ/ユーロの文脈で制作するなら本場の名作を沢山遊ぶことがやはり第一ですし、デジタルゲームも重要だと思います。自分の体験や身体性に目を向ければ独創性は自然と出てくるものです。なので私は、自分らしいゲームにすることは考えず、単に面白いゲームにすることだけを考えます。

 こうして、ゲームの大枠=メインメカニクスが定まってきます。箇条書きだったり、絵やフローチャートであったり、それで十分です。

アイデアをとりあえず形にするテクニック

 アイデア1つ、それをもとにメインメカニクス1つが決まり、ゲームの大枠が定まりました。このメカニクスなら20分だとか45分だとか、ジャンルはどれで何人が適正でリソース規模はどの程度で、といった事項はドイツ/ユーロのプレイ経験から概ね自動的に導かれるはずです。そしたら次は、細かいコンポーネントの数量やプレイヤーアクションを決めてゲームを形にする段階です
 ここでは既存作品との被りやゲームバランスは頭から追い出して、とにかく説明書を書けるよう体裁を整えることだけを考えます。私は説明書の文章を最初に書きますが、最後に書く方のほうがたぶん多いと思いますので、ルール箇条書きなどに読み替えてください。で、こうした《細かいルールの定型的な決め》にはいくつかパターンがあると思うので列挙します。全部読まなくていいので、ざっと見て叩き台にしてください。



    【準備】
  • 共通ボードは、インタラクションやリソースの累積(=メイン得点要素)に使います。リソース管理やサブ得点要素に個人ボードを使います。もちろん個人ボードにメイン得点を積んでもよく、このへんは好みです。ボードのメーターでリソース数を管理するとコマ数を節約できるのがいいです。

  • スートやリソースの種類は3~4つがマジックナンバーだと思っています。手札枚数や終了フラグ、アクションは5、7あたりをマジックナンバーとして使っています。たとえば『センチュリー:スパイスロード』のリソースは4種類で、『カルカソンヌ』のミープルは7個です。ゲームを遊ぶときは、リソースの数を覚えておくと借用できます。奇数はリソースの余りや「1足りない」を作りやすい感じがして私は好きです。

  • 同人はどうせカードもコマも少ない個数しか入れられないので、その制限を「リソースマネジメントのキツい設計」に変えてごまかします。リソースは4種類、各種8個しかないとかにするといかにも争奪戦になりそうです。それでもコマ32個は多い? ですよね今年はヨーロッパから素材の仕入れができませんものね。じゃあそれをカード側面に載せかえてやると、カードを多用途に使う『サンファン』や『ラ・グランハ』、『オー・マイ・グーッズ!』みたいなマネジメントになりませんか? いや俺もそういうの作りたいんですが才能が欠落して以下略

  • デッキがあれば枚数は32~60枚です。枚数が少ないとゲームは鋭くなり、展開も乱高下します。40~50枚が程々で、それを超えるとまたドロー枚数によっては展開が運寄りになります。経費との兼ね合いで私は32~36枚が好きです。

  • 【ゲームの流れ】
  • 手札は何枚で、1手番に使う枚数/引ける枚数は何枚で、そしたら山札の一巡に何分かかるか、という計算をしておくと想定ゲーム規模との突き合わせによって枚数が適切かどうかわかります。ドローがあるゲームなら手札は5~8枚が安牌だと思いますが、長考を防ぐために『王と枢機卿』のように3枚以下を採用するのもありです。山札の作り直しは時間が延びるので自信がないと私は入れません。

  • カード補充の枚数は1~2枚が手堅いです。「n枚になるまで手札を補充する」は場合によってはちょっと危険で、フリーゼが指摘するようにカード沢山使うのがひたすら正義みたいになることがあります。カードを貯めて使う、使ったらドローするのでしゃがむ、という波を各プレイヤーに作ってあげることでゲームの揺らぎがなんとなく出てきます。

  • カード補充は山札のトップから引く、公開ディスプレイから引く、裏向きのディスプレイから引く、捨て札から引く、特殊能力によって山札を見て引く、市場から買う、などを適宜組み合わせます。前2者がもっともよく使うかと思います。

  • 手番アクションは概ね分割するほうがいい、というか私はそれが好きです。「ずっと俺のターン」はダウンタイムを生むので避けます。アクション数は1~3、各アクションでは1つのことだけができる、みたいな作りのほうがゲームらしく回ります。ロンデルはウォーゲームのアクションを分割したものであるって言ったのは誰でしたっけ……あれは手番の時間を短くする&ジレンマを生む良い仕組みです。

  • 得点までの所要アクション数によって、ゲーム規模をある程度伸び縮みさせられます。『プエルトリコ』は建築→開拓者→市長→監督→船長(or商人→建築)と最低5ステップ必要なのでゲームが長いです。1手番で得点を即座に取れないようにするのが鉄則で、『よくばりハムスター』の3ステップ必要だけど手番は2アクション、というのが端的な例です。

  • 同じことを繰り返す短時間ゲームなら、長くて7ラウンドが限界だと思います。これでも多いです。単に繰り返すだけでなく、点数が少しずつ伸びていくとか、自分の能力が増えるいわゆる拡大再生産とか、そうした仕組みを搭載するとラウンド数が少々長くても耐えられます。ワーカー数やゲーム内の資金数を増やすなどして、とにかくリソースを少しずつ平等にインフレさせれば展開が体感として加速します。応用として『ドミニオン』や『ビール侯爵』のように点数源でトッププレイヤーにブレーキ=負のフィードバックをかけるテクもあります。

  • ダイスロールやバッグドローは、とにかく沢山やらせると確率の揺らぎが減ります。見た目は引き運チャレンジのように見せかけて射幸心を煽っておき、実際にはわりと硬質な確率管理を要求することが可能です。『テーベの東(テーベ)』『ストーンエイジ』は、1ゲームにおける試行回数が多いので見た目よりはるかに堅実なゲームです。逆に考えると、少ないリソースプールに少ない試行回数で一発ドカンを楽しむのも短時間ゲームならアリで、デッキ16枚の手札1枚を採用している『ラブレター』はその例です。

  • 【ゲームの終わり】
  • 終了条件は「規定ラウンド数」「レースゲーム=誰かがゴールに到達したら」「リソースが枯渇したら」あたりが一般的です。ラウンド数終了は私の周囲で最近必ずしも好評でない印象があり(理由を失念しました、すみません)レースゲームは良いと思います。ここでレースというのはすごろくに限らずより広い意味で使っており、目標点数でフラグを切るとか「○○をn個集めたら勝ち」というゲームも含めています。ラウンド数に関しては朝→昼→夜とか、テーマからプチアイデアを乗せることで多少目先を変えられたりします。システムにテーマを乗せるのは存外重要で、プレイヤーのルール理解や納得感に大きく寄与します。

  • 【得点とその要素】
  • 同じリソースが累積して得点になるものは、わからなければ無根拠に三角数を導入しましょう。1, 1+2, 1+2+3, ...と続くいわゆるシャハト算です。自分で1次関数や上昇の緩い2次関数を作ってもいいかと思います。数式を作っておくと、なんとなく拠って立つものができて安心できます。フィボナッチ数列を使うのも考えたことがありますが増え方が急激すぎて難しいです。成功例には『BIRTH』のボードがあります。

  • 獲得点数は、整数値が小さいほど1点増減したときの影響は大きいです。たとえば1d6が乱数として粗く感じるのは、6が1の6倍だからです。1~5の点数幅よりも、4~8の点数幅のほうが1点の影響が相対的に小さくなります。全体を足し引きして適切そうな値にするとバランス調整が楽です。

  • 個人能力を伸ばす研究トラックや相場チャートを作るとき、ボードの数値や能力は線形に単調増加しないほうがいいです。これは点数もそうかもしれません。最初は0や1が連続するとか、あるステップで急に2~3増加するとか、わざと少しガタガタさせてあげるとゲームの展開に波が生まれます。プレイヤーのリソースが突然回り始めるのでプレイしてて楽しくもなりますし、相場が1段落ちたときのやばさみたいな演出もできます。『メディチ』には上まで商品トラックを伸ばすと一気にボーナスが加点される仕組みがあり、こういうのも楽しそうです(クニツィアこれ好きですよね)。

  • 裏向きカードで読み合いをやらせたいなら、選択肢は不均等にしてください。とりあえず数値に傾斜をかけておくことで、単なる人読みにも根拠らしきものが生まれます。これはリソースやスートの個数/枚数配分もそうで、必ずしも均等な数値にする必要はありません。資源価値に傾斜をつけるとゲームに立体感らしきものが出る、ような気がします。

  • タイブレーカーは「そのゲームが何を目指すのかをより明確に表現するもの」です。だからテーマに沿うもの、プレイヤーにゲーム中やってほしいことに対して優先的に設けるのがよいです。



 メインメカニクスの周辺はこうした定型的なパターンをマシーンのようにざくざくと適用して、とにかくルールを形にしてしまいます。細部は一人回しやテストの結果で修正すればいいです。ポイントは「具体的な数値や選択肢を自分の中にライブラリとして持っておく」ということで、ドイツ/ユーロって半分はこうしたパターンの累積ですから、収入の仕組みはゲームAから、ボードのコマ移動はゲームBから、得点システムはゲームCとDから、みたいなのでいいと思ってます。参照元を1つではなく10個ぐらいにして、何故それを採用したかを説明できれば十分です。テストしながら最適解を探すので概ねそれが採用の理由になるはずです。

テスト~完成

 ということで、コアアイデアをメカニクスとして絵にして、周辺をドイツ/ユーロゲームっぽい要素で固めて、そしたらゲームは形になるのであとはテストして一通りパターンと気になる箇所を叩けば短時間ゲームは制作完了します。テストしながら、上で「とりあえず」付け足した細かい要素のムダを削ったり変えたりして、ゲームとしてよりよく回るようにします。先に形をばーっと作っておけば、あとはひたすら引き算です。
 ちなみにテスト時、一人回しなら条件を1つだけ変えてざっと比較します。多人数テストなら複数の条件を一気に変えます。すべて条件を1つだけ変えてやれれば望ましいのですが、現実問題として時間が足りないので対人テストでは効率を考えてこうしてます。それに、複数条件を変えるとプレイ感にもだいぶ差が出ますから、せっかく人にやってもらってるならそのフィーリングを見たいですよね。
 すべては「このゲームでプレイヤーに一番体験してほしい感情」を引き出すことを基準に決めていきます。テストを経てその「一番の感情」が変わっても、変えたほうが面白ければ変えてかまいません。その選択のとき、私は引き算でやってるので両方を欲張ってビルドインすることは極力しません。削るほうにだけ注力します。一度降りてきたゲームアイデアにはきっと理想の形があり、自分はそれを作るのではなく、最適な形を見つけ出すのが仕事です。そういう気持ちでやってます。

 ということで、引き算で短時間ゲームを作るときは、ワンアイデア半分、テンプレを擦るのが半分で作ってます。前者は情熱や閃きで、後者は技術です。技術は真似できるものであり、ゲームを形にできるというのは適切に定型を擦れる能力に他なりません。上にあげた程度の内容でよければ、どれか使ってやってください。



<2022/12/14>


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