ゲームテンポとサブモジュール




 この記事は、Trick-taking games Advent Calendar 2022の7日目の記事です。

ゲームテンポ

 トリックテイキングを作るときにプレイのテンポはどのくらいが適切か、をまず考える。

 大半のトリックテイキングは、シャッフルした手札をランダムに配る。すると1ディールごとの手札の偏りは大きい。これを補正するために複数回のディールをプレイするのはほとんど定型である。特に伝統ゲームではそうで、24~36ディールもやれば概ね得点機会は均等になるはずだという想定がある。現代作品ではそこまで時間をかけてプレイすることは少ないだろうけれど、それでも人数×1~2倍のディール数は遊ぶものだろう。
 その是非についてはここでは立ち入らない。1ディールでどのような手札でもそれなりに戦えれば最高だけれど、カードを配るメカニクスにおいてその要請は根本的に無理があると私は思う。といっても解決を試みるのはそれはそれで興味の湧くことで、たとえばロチェで手札構築すれば偏りはそこそこ緩和される一方、ディールに時間がかかる、プレイヤーの要求スキルが上がるなどの新しい問題が出てくる。こちらの道はより作り手にとって挑戦的であり、つまり険しいので、とりあえずここではより簡単に複数ディールで偏りを均すことを与件にする。

 感覚でいうと1ディールは最大10分程度がいい。シャッフル&カットして配ってビッドしてプレイして点数をつける、全部合わせて長くて10分。慣れたプレイヤーなら5分程度に収められるように作るとベターだ。それで4人が4ディール遊ぶと40分、モダンゲームとしてはそんなものだ。実際はもう少し足が出るだろうけれど、仮定としてはこのくらいにしたい。
 カードを配る+得点計算する、で3分は使うと思う。ビッドとプレイで7分。ビッドはゲームによって異なると思うので一旦棚上げして、プレイに5分ほど使うと考える。手札はトランプだと1人13枚配りきりだが、創作ゲームだと経費やバランス調整の関係でもう少し薄いデッキを使うだろう。32~40枚が相場ではないだろうか。4人戦だと手札は8~10枚。多いほうの10枚を採用して(計算が簡単だからでもある)、5分=300秒を10トリックで割ると1トリックあたり使えるのは平均30秒になる。ほぼ自動的にプレイされるトリックと考えるトリックがあるので多少の揺れは生じるが、割とこれは長い。余裕がある。ただしその余裕はビッドの所要時間に組み込みたいので、1トリックを30秒に収めるのを基準としておくと有用だと思う。
 もちろんこれは目安で、セッションが面白ければ時間が掛かっても構わない。プレイヤーが退屈しなければ問題はない。こういう計算は減点法の考え方にすぎなくて、テストして欠点を削るためには使えるけれど、これを守ったからといって面白くなるわけではない。それでも計算しておくと分析のツールが増える。

 いわゆるマストフォローの作品が多いのは、選択肢が限られるから思考を限定できるだけでなく、そのおかげで着手に要する時間を減らせてプレイテンポが上がるから、というのもあると私は思っている。トリックテイキングの魅力は深く考えることではなく、あまり考えなくてもプレイできることだ。少ない選択肢から最適を取るくらいが人間には丁度良いし、自動で決まる手番もあるほうが良い。すべての着手を深く考えなくてはならないのは疲れる。
 その逆がメイフォローで、いやメイフォローもフォローがトリックの勝敗に関与する限り広義のマストフォローには含まれるのだけど、形の上では選択肢はすべての手札になる。手番に打てる手が広く、そうすると次の一手に悩む。これは一概に長所ともいえなくて、後半の展開が読めない前半はいたずらに悩むだけになりがちだし、その着手が効果をあげたかどうかの実感も難しい。『シュティッヒルン』のようにフォローを外れたときのペナルティを明確にしておかないと迷いが増えるだけで、ゲームが長引くわりに返ってくる面白さが薄い(だから『知略・悪略』のゲーム的な出来は『シュティッヒルン』よりも落ちる)。思考を戦略や戦術でなく盤面理解に割いてしまうから間延びする。そのせいでメイフォローの作例は少ないのではないかと思っている。

サブモジュール

 トリックテイキングに何かのメカニクスをくっつけるときに、メインモジュール(トリックテイキング)に対するその付属メカニクスをサブモジュールとここでは呼ぶわけだが、私の考えだと概してサブモジュールはトリックテイキングと相性が悪い。
 トリックテイキングの面白さは、プレイングに対する強い縛りの中でカードを選びつつディール全体の勝敗に見通しをつけさせることで、これだけで完結性が高い。高い完結性というのは良い悪いではなく、システムがそれ自体で閉じているということだ。ビッド(オークション)がうまく回るのはそれがプレイの外に切り出されているからで、もちろんプレイ中にReやContraやNo.90を宣言することもあるが、オークションと違って自分が言えば終わりだから時間はかからないのであって、プレイ中に副次的な処理を入れることはゲームを間延びさせるリスクが大きい。テキスト効果ひとつでも、直感的に処理できないと細かいフラストレーションが溜まってゆくだろう。『フォックス・イン・ザ・フォレスト』が成立しているのは、2人用にすることで間延びを抑えているからだ。

 筆者にも失敗例がある。数年前にトリックテイキング+エリアコントロールのゲームを作った。トリックを取ったプレイヤーが指定のエリアに自分のコマを置き、ディール終了時にコマ数に応じて得点し、3ディールの合計点を競う。書いてみると簡単そうだが毎回トリック後にコマを置く処理を挟むので煩雑極まりなく、ゲームのプレイテンポがとても悪い。テストの反応も悪かったので結局日の目を見なかった。形にできなかったのはひとえに自分の力不足で、今では多くのデザイナーが同様の作例を成功させている。ただ、私が遊んだ限りだとそうした作品はテンポを解決しているというよりは、そこに目を瞑ってエリアコントロールの側にフォーカスしているように見える。
 それをさらに推し進めた成功例は、(『フィリピーノ・フルーツ・マーケット』『われら人民』などを作った)ジルベスターの『ブライアン・ボル』で、トリックプレイをゲームエンジンとして採用しているがゲームとしての本線はエリアコントロールだ。あの作品が巧みなのは、カードプレイのときには考えるけれどトリック解決時には処理がほぼ自動で回ることで、それほどゲームテンポが落ちない。どのカードを出すかに悩むのがトリックテイキングだから、時間負荷も同じ場所(=カードプレイ時)にかけておけば違和感が生じにくい。逆にトリックテイキングが本来持つ処理の流れをサブモジュールが分断してしまうとメカニクスの建付けが悪くなる。ジルベスターは『ティンダハン』でも似た試みをしており、ゲーム全般をよく理解しているからこの離れ業ができるのだと思う。『ブライアン・ボル』はトリックテイキングではないけれど、トリックテイキングを部分的に含む作品なので、分析の参考として挙げた。

 後からプレイヤー視点で考察するときは、ジャンル分けやその作品における各メカニクスの重みは当然考えるけれど、作るときには意識的にあるいは無意識にその境界を曖昧にしたりわざと破ったりする。単にトリックテイキングを作りたいだけではなく、面白いゲームを作りたいからだ。トリックテイキングを作ろうとしたら違うジャンルのゲームになったとしても構わないと思う。
 ただ、テストして期待ほど面白くなかったとき、メカニクス同士の食い合わせが悪いとか、ジャンル本来の面白みが生きてないとか、そういう原因は少なからず見る。そのときメカニクスの組合せを捨てるのも手だが、細かい処理の順序を変えたり、特殊効果の場所を移動させたりして、元ジャンルが持っているゲームのテンポに近づくように効率を上げるだけでも案外良い効果が出たりする。ゲームは時間に応じて展開が進むものだから、時間管理は死活問題だ。どの処理に何分何秒かかっているのか、そのとき各プレイヤーはどうしているのか。メカニクスの組合せを考えるだけでなくその接ぎ目を細かく分解してチューンナップすることが、地味だけど重要だと思っている。



<2022/12/07>


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