No.28 トランプ・トリックス・ゲーム! / Auf der Pirsch
そのパッケージングに意味はあるか
作者 | Günter Burkhardt ギュンター・ブルクハルト |
人数 | 3~4人 |
プレイ回数・人数 | 2回 |
時間 | 30分 |
種別 | カード |
ゲーム難度(5段階) | 3 |
評価(10点満点) | 3 |
|
|
|
※免責事項※
強めのネガティブレビューです。批評として妥当な範囲に収めたつもりですが、そうした文章が苦手な方は閲覧にご注意ください。これは筆者個人の感想です。
今回紹介する『トランプ・トリックス・ゲーム!』は、ブルクハルトのいわゆる変なトリックテイキング作品群のひとつとして有名です。長らく絶版でしたが、少し前に日本語版が発売されて話題になりました。
見たことのない類のルールだったので私も発売後ほどなく買って遊んでみたのですが、どうにも掴みどころがなく、レビューを書きにくいと感じていました。先日やっとその理由がわかったので、自分なりの感想を述べてみます。
ルール
まず、作品自体に即した説明をします。
マストフォローのトリックテイキングです。4スートでランクは各1~12の計48枚、配りきりで手札は12枚です。したがって3人戦では一部のランクを抜いて12枚にします。
切札表示カードが各スート1枚あり、最初にシャッフルして並べることで、4ディールにわたって各スートが一度ずつ切札になります。
最大の特徴は、4人戦では1人ぴったり3トリックまで、3人戦では4トリックまでしか取れないことです。言い換えると、カード12枚しか取れず、また12枚を必ず取らされます。取った12枚を点数計算し、次のディールではその取ったカードをそのまま手札にします。3トリックを取ったら以降はトリックの勝敗に参加できず、リードのときはスートが無視され、フォローのときはスートフォローの義務だけあります。どちらの場合も必ず負けます。
得点はポイントテイキング式で、「カードに書かれたポイント数 × 集めたスートの種類数」です。最終ディールだけは「スートの固定点 × そのスートの枚数」です。
虚心にルールを記述するとこうなります。取ったカードを次のディールに使う仕組みがめずらしく、先々を見越した戦略を立てる必要があって面白そうですよね?
では次に、違う観点からルールの説明をします。
以前の記事で、パーレットのトランプゲーム
『タントニー』を紹介しました。
『トランプ・トリックス・ゲーム!』は、このタントニーにそっくりです。というか間違いなく、タントニーをパッケージ用にアレンジしたと見ていいでしょう。ルールの差分は以下のとおりです。
・対面ペア戦ではなく個人戦である
・勝っても勝ちを他人に押し付ける権利がない(応用ルールにはこの押し付けを変形したものがあります)
・個人戦にしたことで、3トリック取ると「勝ってトリックの勝者を決める」ことができず、必ず負ける
・点数がリードの最低ランクではなく、カードポイントになっている
両方のルールを読むと、基本構造が完全に同じなのが見てとれると思います。作品単体で見たときとは景色が違うのではないでしょうか。
感想
端的に言うと、
このゲームはつまらないです。
最初遊んだときそう思ったのですが、理由がわからず書くのを躊躇っていました。獲得した札を次のディールに持ち越すシステムは革新的だと思う、だけどそのコアシステムがコントローラビリティに寄与していない。難しいルールではないのに細部が妙にちぐはぐだ。デザイナーの意図が何かしらあるはずだけど、それがぼんやりしていて見えてこない。自分がそれを理解できていないだけではないか? もう数回プレイしないと真価が見えてこないタイプのゲームではないか?
と思っていたのですが、数年後にタントニーを遊んだときその疑問が氷解しました。
この作品はオリジナルではない。タントニーを個人戦に変えてパッケージングしただけで、トランプゲームのアレンジに失敗した単なる亜流の作品である。デザインの意図が感じられないのはそのせいだ。
ベースがコピーだから酷評するのではありません。対面ペア戦を個人戦にして、カード点や点数計算を変更したらそれは十分に違うゲームです。その変更が噛み合っておらず面白くないから、面白くないと言っています。
少なくとも基本ルールでは、トリックを他人に渡せません。個人戦に変えた以上それは必然なのですが、他人の機嫌で簡単にトリックを取らされてしまいます。パートナーがいないから取らされたときのリカバリが利きません。一度ディールを離脱するとキングメーカーになるのも容易で、しかも自分の得点は上がらないから楽しくありません。タントニーは3トリック取ったあとも、自分が勝つと渡す相手を決められるから楽しいのです。その権利を剥奪してしまっては、ゲームの意味そのものが揺らいでしまいます。応用ルールに本歌を意識したトリックの押し付けはありますが、カードの受け渡しによって拒否できるなど、元ゲームよりも処理が煩雑です。基本ゲームがこの出来では、応用を試す気にはなれません。
カードポイントもミドルランクに寄っていますが、このように配分する意味が薄いと感じます。ましてマストフォローなのに、多種のスートを集めるのは、無理です。切札が毎ディール変わる仕組みは、得点とのジレンマではなくアンチシナジーにしかなっていません。そもそも個人戦である以上、計算できるほどカードが集まりません。コントロールは無理です。
何かをやらせたいはずなのに、細部に意味がない。3トリック制限がまるで活きていない。
その理由にずっと悩んでいたのですが、悩む必要はありませんでした。借用したシステムを使いこなせず失敗しただけです。ブルクハルトは奇才のイメージがありますが私個人の印象は逆で、豊富なジャンル知識をベースに換骨奪胎をどんどんやる人だと思っています。だから成功も失敗もする。たとえば『ドルイド』は成功だし、本作は失敗の部類でしょう。ゲームにはなっていますが(パーレットの下敷きがあるから当たり前です)、私は楽しくありませんでした。
日本語版を出した理由はよくわかりません。まさかパブリッシャーがタントニーを知らずに出版したはずはないので、パーレットと比較するために作ったのか、単純に資料的価値のためか。たぶん後者だろうと想像していますが、正直、残すほどのゲームではないと思います。
ゲーム自体とは関係ありませんが、この日本語版は編集にも問題があります。テーマ付けがそれほど上手くありません。説明書中で、3トリックしか取れない理由をテーマに沿って説明しているのですが、やっていることはトリックテイキングなので感覚的な理解に寄与しません。もっとざっくりした説明で足ります。(ただ正直に言うと、私も自作で似た失敗をしたことがあるので言いながら耳が痛くなります。テーマ付けが難しいことは承知しています。しかしそれと批評は別です。)
別売コンポーネントで「獲得トリック数を示す銃弾コマ」があり、応援のつもりで数百円出して買ってみたのですが、プレイアビリティは特に上がりませんでした。獲得トリック数はカード山を見たらわかります。カード色と同じプレイヤー色を採用しているのも混乱を招くのでマイナスです。銃弾の色はカード点やプレイングに関係ないことを、わざわざルール説明に追加しなければなりません。ルール理解を阻害し、UIの質を下げるコンポーネントを売ってなんの意味があるのでしょうか。
一番問題があるのは、原版ではカードポイントをカード横のランク下に記載していたのに、日本語版ではそれをカードの上辺に移動させていることです。手札に持っているときに点数を参照したいのに、見えない位置に点数を置く理由はないはずです。しかもそれを原版からわざわざ変えている。取ったカードはディール中裏向きに置くし、点数計算のときはカードをバラバラに開いてよいので、この配置が意味をなす場面はありません。印刷物でのテストプレイをやっていないのではないかと疑いたくなります。移植は土管屋であるべきで、この改変は邪魔です。
日本語版のコンポーネント写真です。余計な改変や追加で、ゲームの質をさらに落としています。
こうした日本語版の問題点をすべて措いても、このゲームは私にとって必要なものではありませんでした。タントニーという名作がゲーム理解の補助線になってくれた今、レビューを書いたことで安心してお見送りできます。
<2022/04/07>
←No.27 アルナックの失われし遺跡
レビュー一覧へ トップページへ