No.26 タントニー / Tantony

トリックテイキングなのに、ぴったり3トリックしか取れない!?

作者David Parlett
デヴィッド・パーレット
人数4人(3人も可)
プレイ回数・人数1回
時間60分
種別トランプゲーム
ゲーム難度(5段階)3
評価(10点満点)8

 この記事は、デヴィッド・パーレットが1977年に作ったトランプ用のトリックテイキング『タントニー』のルール全訳と感想の紹介です。パーレットは、ドイツゲーム大賞いわゆるSdJの第1回受賞作『ウサギとハリネズミ(うさぎとかめ かけっこ大レース)』を作ったり、カードゲームの歴史本を書いていたりと、ボードゲーム業界ではとても有名な人です。
 『タントニー』も名作です。傑作かと言われると若干躊躇うのですが、歴史に残る一作であることは間違いありません。まずルールを紹介し、その後に簡単な感想を記します。

 ルール原文は、パーレットのサイトによりました。[角括弧]内は訳注です。
 感想は、訳者のnote記事からほぼそのまま転載しました。

ルール全訳

タントニー  あるいは 「子ブタの力」
ブタの耳から絹の財布を作るゲーム、逆も然り

プレイヤー 4人(3人も可)、カード 52枚(または36枚)、種類 トリックテイキング
ドイツ語およびフランス語のバージョンはこちら

 カードゲームの伝統では、取ったトリックは望むと望まざるとを問わず、取った本人だけのものです。ですがもし、このトリックを誰かほかの人――たとえばパートナー、さらにはオポーネント――にあげる戦略的判断ができるとしたらどうでしょう? この疑問に対する答えが『タントニー』で、私の最初期のゲームのひとつであり(1977年の書籍に掲載しました)、私もうまくプレイするのは未だに難しい作品です。ポール・チャウン(Paul Chown)が命名してくれたこのタイトル「タントニー(Tantony)」は「セント・アンソニー(St Anthony、パドヴァの聖アントニオ)」が訛ったものです。聖アントニオは豚飼いの守護聖人であり、ブタを伴ってよく描かれます。「タントニーのブタ」とは、ブタの仔のなかでいちばん小さな子ブタ(runt)のことです。

プレイヤー
 4人、固定パートナー。また、全体を通しては個人戦を行う「分割パートナーシップ」バージョンと、3人用の改作もあります。

カード
 52枚。各スートは強いほうから順に、A、K、Q、J、10、9、8、7、6、5、4、3、2です。

ディール
 1ゲームは4ディールですが、実際にカードを配るのは第1ディールだけです。各ハンド[ディール]の終わりに、どのプレイヤーもカード13枚をトリックで獲得した状態で終わります。このカードを次のハンドのプレイに使います。第1ディールの前にはひときわ入念にシャッフルすることが極めて重要です。山札をカットしてもっとも低いカードの人が最初のディーラーとなり、各プレイヤーにカードを1枚ずつ、計13枚になるように配ります。

ゲームの目的
 トリックの点数カードでもっとも高い値を自分のものとして獲得するか、そうでなければ他の誰かにあげてしまうことです。

プレイ
 ディーラーの左隣のオポーネントが最初のトリックをリードし、13トリックを切札なしでプレイします。リードと同じスートが手札にあれば必ずフォローし、できなければ好きなカードをプレイしてかまいません。リードスートのもっとも高いカードがトリックを取ります(これを母ブタ(sow)と呼びます。ただし、もし誰もフォローしていなければ、父ブタ(hog)と呼びます)。トリックの点数は、トリックに含まれるリードスートのもっとも低い値(子ブタ、runt)です。カード点は、2~10の数字カードは額面どおりの値で、J=15点、Q=20点、K=25点、A=30点です。


 アニーはスペードの6をリードし、ベニーはスペードの10を、コニーはスペードのQを、デニーはスペードの2をプレイしました。デニーの2が子ブタで、コニーの「母ブタのQ」がトリックに勝ち、このトリックの点数は2点です。もしアニーのリードスートを誰もフォローできなかった場合には、アニーの6が父ブタとなり、6点のトリックに勝つことになります。したがって『タントニー』では、あるトリックにAを父ブタとしてリードして30点を獲得するのがグラン・クー(Grand Coup)になります[訳注:グラン・クーはブリッジ用語で、デクレアラーが意図的にウィナーをラフして切札を短くすること]。

トリックの配置
 トリックに勝ったとき、これを必ずしも取る必要はありません。勝つことで実際には、トリックを自分で取るか、またはほかの誰かにあげるかの権利を得ることになります。通常は、点数の高いトリックを自分で取るかパートナーにあげて、点数の低いトリックをオポーネントにあげることになるでしょう。選ぶときの唯一の制限として、1ハンド中に各プレイヤーの取る、またはもらうトリック数はちょうど3トリックでなければなりません。したがって、(自分も含めて)すでに3トリック分配されている人にはトリックをあげることができません。

トリックの獲得
 自分で取ったか他のプレイヤーにもらったかでトリックを獲得したら、そのカードを1つの山にまとめて自分の前に表向きに置き、子ブタ(リードスートのいちばん低いカード)を上にして点数を示しておきます。トリックを獲得した人が――他の人が勝って自分がもらった場合であっても――次のトリックをリードします。以降のゲーム中、獲得したトリックは山のままにしておきます。崩してはいけません。いちばん上のカード以外は、トリックの山を確認してプレイされたカードを見ることは誰もできません。

最終トリック
 12トリックをプレイして配置したら、13トリック目には全員に1枚ずつカードが残っています。12トリック目に勝ったか、またはこれをもらった人が通常どおりリードしますが、プレイヤーは全員自分の最後のカードを、テーブルの中央に集めるのではなく自分の手前に表向きでプレイします。リードスートのもっとも高いカードをプレイした人は、リードスートのもっとも低いカードと交換します。もちろん誰もスートをフォローしなかったらこの限りではなく、その場合はもっとも高いカードが同時に子ブタにもなります。子ブタのカードは勝った人の手前に表向きに置き、[トリックに]勝った人の点数に加算します。他のカードは裏向きにします。

得点
 各ペアは、すべての子ブタ(表向きのカード)のカード点の合計を得点します。片方のペアは6枚を獲得し、もう片方のペアは最終トリックの子ブタを含む7枚を獲得することになります。最後の子ブタはタントニー・カードと呼びます。

次のディール
 得点を計算し終えたら、各プレイヤーは自分の3トリックと最終トリックにプレイした余りのカード1枚とをまとめ、新しく13枚の手札を作ります。次のハンドでは、前のハンドに最初にリードした人の左隣のオポーネントが最初のトリックをリードします。

ゲーム
 ゲームは通常4ハンド行い、各プレイヤーは順番に最初のトリックをリードします。ただし、一方のペアが第1ハンドの終わりに60点に、または第2ハンドの終わりに120点に、または第3ハンドの終わりに180点に到達していた場合、ゲームはより早く「サドン・デス」となって終わります。いずれの場合も勝ったペアは2ゲーム(ステーク)扱いとなります。これは第4ディールの終わりに240点に到達した場合も同様です。

コメント
1.第2、第3、第4ディールでスートの分配が偏っていたとしても、驚くにはあたりません。1スートが10枚以上あるハンドで新しく始める人がいることも珍しくありません。
2.1トリックの平均値はおおよそ5~6点ですので、6点未満のトリックに勝った場合これをオポーネントにあげるのは理にかなうと思われます。ただし、トリックを獲得した人が次にリードすることを心に留めておきましょう。したがって時には、安いトリックを自分かパートナーが取って、高得点の父ブタをリードできる望みをかけることもあるでしょう。
3.最高の記憶力を持つ人は、極めて有利です!

分割パートナーシップ・バリアント
または、ノン=パートナーシップ・バージョン(個人戦)

 固定パートナー戦ではなく個人戦を遊びたい場合、上記のようにプレイしてその結果を4人の個人スコアとして単に記録しても(もちろん)かまいません。ですが、「分割パートナーシップ」にもとづいてプレイするとより面白味が増すでしょう――これは単純に、4ディール終了後に自分が取ったトリックの点数と、左隣のプレイヤーが取ったトリックの点数とを足して得点するものです。[訳注:文脈上は各ディールの終了後に得点を計算することを想定していると思われますが、原文通り訳しました。]これによって、元のゲームと同様に、プレイヤーのうち2人に高得点のトリックを渡し、もう2人(向かいと右隣のプレイヤー)に低得点のトリックを押し付けることになります。(「ハーフパートナー」を左隣でなく右隣のプレイヤーにしても、同様に遊べます。このゲームにおいては大きな差はありません。)

3人用タントニー
 7~10のカードを抜いた36枚のカードパックから、プレイヤー3人にカードを2枚ずつ、各自計12枚になるように配ります。数字カード2、3、4、5、6は額面どおりの値で、J=10点、Q=15点、K=20点、A=25点です。

 上記ルールと同様に12トリックをプレイします。各プレイヤーはちょうど4トリックを取って終え、最後に余る子ブタのカードがない点だけが異なります。各プレイヤーは子ブタ4枚の合計点を得点し、それからその4トリックをまとめて次のディールの新しい手札にします。次のディールは、最終トリックの勝者がリードします。

 ゲームは300点です。

 このバージョンでは、各カード点の平均値は10点です。実際のプレイでは、取ったトリックの平均値はおおよそ7.5点です。

 (10のカードを加えると、トライガミ(Trigami)という3人用のもうひとつの良いトリックスターを遊べるカード構成にもなります。)

感想

 ペア戦なので、ペアにあげたりオポーネントに渡したりする手札/得点札の強さや次トリックのプレイ順など、考慮すべきことは沢山あります。最終ディールだけは次の手札になることを考慮しないので、プレイ感がそれまでとは変わるのも見所です。
 絵札のカード点は、J=15、Q=20、K=25、A=30と原文では紹介されていますが、私がプレイしたのはJ=11、Q=12、K=13、A=15でした。パーレットは本作に限らずころころルールを変える人で、紹介された時期によって微妙にルールが異なります。草場純さんによると、初版時のルールはおそらくJQK=11点、A=13点ではないかとのことでした。私は自分がやったA=15点の配分が僅差を保てて好きですが、試して好みに合うものを採用すればいいかと思います。

 最初の1ディール、それも3トリックもやれば、良いゲームであることはすぐに見えてきます。
 ローカードに強い意味がある、というのがまず大きい。勝てないトリックでしゃがむだけではなく、相手の得点を下げる役割を果たします。だから手札にそこそこほしいんです。単にノートランプの強い手札で勝ちまくればいいわけではありません。普通のゲームならクレームを宣言できるほど強い手札でも所詮自分には3トリックしか来ないわけで、むしろ相手に強いカードを渡してしまうリスクがある。
 だから、6~9あたりのミドルカードも結構使い方を考えます。むしろこっちを捨てたほうがいい場面まであると思います。どのカードにも何かしら使いどころがあるのが、他のゲームとは一線を画しています。

 そして、デッキ構築ならぬ手札構築をゲーム中にするのも目を引きます。といっても自分が選んで構築するわけではありませんけど、原理上は2ディール目以降は全員の手札がすべて分かるわけですね。私? 無理に決まってるじゃないですかやだなーハハハ
でも実際、自分のペアやオポーネントの手札をコントロールできるのは重要で、スートを寄せすぎないとか、強いカードをあえてパートナーに渡すとか、ソリッドシーケンスをオポーネントに作らせないとか、そういうことを考える必要があるし、そこまで考えられるのは既存のゲームにはない楽しみです。
 これを1977年、今から45年前に作ってるっていうのがすごいことです。今遊んでも革新的です。面白いです。いやトランプゲームの歴史からしたら45年前なんて最近ですけどそれはいいとして。

 ひっかかる点を強いて挙げるとすれば――もちろんレビューが言う傑作と名作の境目なんてレビュアーの好みの匙加減ひとつにすぎませんが――これ、手札持ち越しなんですよね。だから前半の微差が後々のディールに効いてくるので、逆転がしづらいという印象を持ちました。強いカードは勝って自分の手元に戻ってくるわけですから、ノートランプで勝てる手札を一度構築してしまうと、そんなに強さが崩れることがありません。
 そのせいで、毎トリック気が抜けないし、重い。終わった後しんどいです。もちろん面白かったという満足感が大きいのですが、2回目をすぐ遊びたくなるゲームではないし、だらだら遊べるタイプでもない。そうしたプレイフィールは紛う方なきモダンのそれです。これが良いか悪いかはまた別の話として、気楽に遊べる代物ではないという本作の限界はあります。
 私はトリックテイキングのファンとして、このジャンル全般に漂う気軽さを愛するもので、タントニーはそれとは対極に位置する種類の作品です。これがトリックテイキングのなかで一番かと言われるとそうではない、正統派の名作ではあるけど最高とは言い切れない、くらいの気持ちです。私がモダンのパッケージトリテ全般をそこまで好きでないのは、こうしたゲームの重さ、求めるものの違いによるところが大きいです。

 それでも面白いことに違いはありません。なかなかこんなゲームはないですし、ルールそのものは簡単なので一度4人で試してみることをおすすめします。



<2022/02/05>


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