メイフォローの話2024




 この記事は、Trick-taking games Advent Calendar 2024の4日目の記事です。

 先日メイフォローの新作『狼とどろぼう』を作りまして(宣伝ここまで)、改めてこのフォロー形式について考えたので、作り方に関連する覚え書きを記しておきます。

1.メイフォローもマストフォローであるから、マストフォローみたいに回るようにする

 見出しだけ読むと「何を言っているんだ?」って感じですけど、以前草場さんが書かれているように、ほとんどの場合はメイフォローも広義ではマストフォローです。スートフォローの有無がトリックの勝敗や獲得カードに関与する限り、メイフォローであっても何らかの手段でフォローすること、またはしないことを促されているといえるからです。
 メイフォローだから何をプレイしてもいい、とだけ考えてはゲームの方向性が定まりません。スートフォローはどの札をプレイするかに適度な縛りを与える効果があり、それがトリックテイキングをゲームらしく成立させています。ということは、スートフォロー義務がなくても何かしらの義務、あるいは得点のために取りたい/避けたい行動を作り、プレイヤーがそれに従うように得点方式を設計することが、ゲームデザインの定石になると私は考えます。メイフォローの古典である『シュティッヒルン』はまさにそのように作られていて、フォローする義務はないがフォローしないと切札扱いになって失点リスクが跳ね上がる、ですからプレイヤーはマストフォローに近いプレイングを強いられます。先日の拙作でもこの「フォローを外れたら切札になる」というルールを踏襲しました。切札が決まるというルールによって、直接のスートフォローでないが、スートフォローに似た縛りを簡単に作れます。
 スートフォローではないが、スートフォローのような制約を作る。これがメイフォローのゲームでは出発点になるでしょう。

2.メカニクスによって相性があり、たぶんポイントテイキングが合う

 トリックテイキングにもいくつかの分類がありますから、pagat.comのジャンル別分類(classified index)をベースにして、それぞれとメイフォローとの相性を考えてみます。すべてを実地に試したわけではなく机上の論でしかないので、もし「この組合せはダメじゃない、案外イケる!」というものがありましたら、新作として発表してくださると全トリテマニアと全俺が歓喜します。たぶんね。
 先に私の結論を書いておくと、ポイントテイキングが合うと思っています。メイフォローはリードが後手を縛ることができないため、先手番が不利、後手番が有利になりがちです。これはディール全体の計画を立てるのが困難であることを示しており、ブリッジのように「先にこれとこれで2トリック負けて、後から昇格したこれで勝つ」といったプレーントリック系のプレイングができません。それよりは、このトリックに何点のカードを打ち出しておいてトリックの価値を高く/低くする、というコントロールが可能なポイントテイキングのほうが、フォロールールとの相性が良いです。メイフォローでは、先手はいわばトリックごとに競りを行うのに近いと私は考えていて、カード点(品物)の提示が後手の値付けに対する縛りになる、そういうイメージです。

 以下は、プレーントリック系とポイントトリック系に大別した各分類と所感です。丸括弧内はそのジャンルの簡単な説明と代表的なゲームです。pagatから一部省略したものがあります。

3.プレーントリック系(Plain Trick Games)

 ホイスト系(切札はあるがビッドがない。ホイスト、ミゼルカ、トリベッロ)
 おそらく向きません。全体でトリック数の計画を立てる必要があるのに、プレイの選択肢が多すぎて計画の立てようがありません。ゲームが成立するようルールを捻ったとしても、結果が元とあまり変わらないように私には思えます(が、この予想を裏切るゲームが出てきてくれると嬉しいです)。

 プット系(スートを無視し、3トリックをダブリング(伏せ札によるブラフ)ありでプレイする。プット、トゥルック)
 スートがないため、考察の対象外とします。

 ラストトリック系(最後のトリックを取るとディールに勝つ。ツーペン、スパー)
 そのままではメイフォローにする意味が薄いと思います。最後の1枚勝負で、かつその1枚に何でも残せるのであれば、最後の1枚に対する当て物以上のゲーム性が出ないからです。作るとすれば、途中のトリックが何らかの仕方で得点を形成するようなメカニクスを組み合わせる必要があるでしょう。

 5枚配り系(手札枚数が少なく、5枚が代表的。切札をビッドする。スポイルファイブ、ユーカー、バッテン)
 手札枚数が少ないのは案外悪くないかもしれません。メイフォローの難しさのひとつは手札の選択肢が過剰なことですから、それを減らすだけでもゲーム性は担保されそうです。ただしそのままではユーカーを遊べばいいので(ユーカーは面白いです、個人的にオススメです)、配り残しを点数に使ったり手札と交換できるようにしたり、ひと工夫足したほうがよりゲームらしくなるでしょう。
 バッテンはランクも切札になるのが特徴的で、チロルのブリントバッテンにある切札推理のメカニクスなどを使ってみると、メイフォローでも推理ゲームとして――結果それがトリックテイキングと呼べるゲームになるかどうかはわかりませんが――面白く遊べるのではないでしょうか。

 オンブル(4人戦でビッドが登場する初期のゲーム。スートごとにランク順が異なるのが特徴的)
 プレフェランス(オンブルに近い。ビッドに切札スートの強弱が関与する)
 ホイストと同じ理由で向かないと考えます。ビッドがあるので余計にそうなります。

 ボストン系(パートナーを募集できる)
 パートナーを作れることで、シグナルを送りやすくなります。そうするとプレイする札にトリックの勝敗とは異なる意味を乗せられます。このシグナル自体をルールに組み込むもよし、考え方を応用して「フォローを外れたら○○を行う」「このスートをプレイしたら○○してもよい」といった実際のアクションにしてもよし、何かしらの可能性は感じますね。
 パートナーを作ることはプレーントリックとは関係ないので、ポイントトリックのゲームにも同様のことが言えます。

 オークションホイスト系(チームが固定されているもの。ブリッジ、スペード)
 札でシグナルを送りやすいのは同様ですが、このあたりになると「わざわざメイフォローにする必要ある?」という疑問が出てきます。そのままで十分面白いです。

 イグザクトビッド系(オーヘル、99)
 オーバートリックも許されなくなるため、選択肢が広すぎてゲームの焦点がぼやける問題が余計浮上すると私は思います。リードがスートを縛れる、逆にリードが打ち出さなければどんな高位札でも負けられるからこそビッドの勘定が立つのであって、下家のご機嫌にトリック数が左右されるとプレイヤーの制御が利きません。

 マルチトリック系(複数枚を一度に打ち出せる。アジアに多い。天九など)
 私はこの系統はメイフォローであると理解しており、対象外とします。天九は「フォローしないと勝てず、裏向きに捨てなければならない」ので、「メイフォローは広義のマストフォローである」という意味がこのゲームではよく感得されるのではないでしょうか。

4.ポイントトリック系(Point Trick Games)


 タロットゲーム(マストラフ、ラフのときはマストウィン)
 プレイできる札に強めのスート縛りをかけるのが特徴のジャンルです。単にその縛りをなくすことには、考察の必要を感じません。

 マニーユ系(プレイの縛りが多く、それにより手札を論理的に推察できる。ボティファッラ、マニーレン)
 スートフォロー以外に、ランクの出し方の縛りが「パートナーがまだ勝っておらず、自分が勝てるなら勝つカードを出す」「そうでなければ最弱カードを出す」など、いろいろあります。スート縛りをなくすとゲーム自体の意味が薄れるのはタロットゲームと同様ですが、スートに関係しない縛りに関しては、そのまま流用したり、変形/応用したりできるのではないでしょうか。私はこの系統を考えてみるのは面白いと思いました。

 クヨン(手札が5枚で、切札決めに特徴がある。フォローまたはラフが必要)
 スート縛りがプレイの肝である一方、カードが少ないぶんメイフォローでも十分に成立しそうな気配があります。ボティファーラもそうですが、クヨンもカード点がAKQJ=4321点と単純なので、ルールが覚えやすいんですね。ミットやコントラ等の途中ビッドがあるのも、揺さぶりを効かせる意味で現代ゲームに通じる駆け引きがあり、これはスートフォローがなくなっても活きるでしょう。

 トラッポラ系(最終トリックや、最弱札でのトリック勝ち等に点数がつく。トラッポラ、ストブカーラ)
 トラッポラは私も好きなゲームで、最後に弱い札で勝つと点数が乗るところに駆け引きが出ます。これはむしろメイフォローでやると違う楽しさが見えてくるかもしれません。「第Nトリックはn点」といった特殊な加重をすることで、それまでの札をカウントする妙味も出やすいのではないか、と思います。書いてたらほんとに作りたくなってきた……。

 オールフォー系(52枚デッキで5トリックほどを行う。ピッチ、オールフォー)
 軽いゲームとしては悪くないですが、デッキが分厚いせいで計算が立てられません。そこで何ポイント稼げるかはエスタブリッシュしてこそであり、メイフォローには不向きと考えます。

 Aと10が高得点のもの(シャープコップ、シュナプセン、スカート、ブリスコラほか多数)
 「いつものやつ」です。得点札や切札枚数に偏りがあるのが面白いところで、この楽しさはフォロー義務をなくしても活用の目処があると私は思います。ただAと10の11点、10点はちょっとバランスが悪いかもしれません。シュナイダーやシュヴァルツの点数も使いにくいので、他のスコアリングを考える必要があるでしょう。
 ブリスコラやシュナプセンは元々メイフォローを含みます。手札が3枚や5枚と少ないのは、その枚数とメイフォローが馴染むことの証左です。シュナプセンのマリッジも良いルールですね。マリッジは現代ゲームにあまり見かけないのが不思議で、手札を開示するのと引き換えに点数がもらえるってだけでも可能性を無限に感じますよね!! 無限!!!(おおげさ)
 ちなみにpagatではセドマがここに入ってます。セドマではランクがスートとして扱われ、メイフォローの後勝ちという、この記事に誂えたようなルールです。

 トレセッテ系(イタリアのゲームで、切札がない。トレセッテ、カラブレセッラ)
 簡単なゲームで、ルールも概ね上記のカテゴリに出てきたものと同様です。ただ、この系統のゲームを私があまり理解できておらず、見解を保留します。

 K、10、5が高得点のもの(打百分)
 アジアのゲームらしくジョーカーが入ります! またバッテン同様、ランクも切札になります。Kと10が10点、5が5点です。
 大きな特徴は複数枚リードがあることで、これは天九と同様です。ただ点数の偏りが強めなので、フォロー義務をなくして果たして面白さは担保されるのか……? ちょっと試してみたくなります。

 絵取り(ナポレオン、ゴニンカン)
 絵札1枚が等しく1点ですから、プレーントリックのゲームに近づきます。そのままだとあまりメイフォローには向いていないのかな、と思います。

 アボイダンス系(トリックや特定の札を取ると失点する。ハーツ)
 これは明確に向いてません。上家がトリックを逃げようとしても下家のご機嫌次第で刺されることがメイフォローでは頻発しますから、失点のコントロールがまるで利きません。相当工夫しないと、難しいと思います。

ということで

 図らずも、pagatを基準にしたトリックテイキングのサブジャンルのおさらいになりました。
 このように特定のメカニクス(今回はメイフォロー)について考えるとき、既存の作品やグループ、メカニクスと掛け合わせて相性をチェックするのは、創作において重要だと私は考えています。トリテは枠組みが手堅いせいで何を乗せてもそこそこゲームっぽく回ってしまうので、「このメカニクスの組合せは本当に最適なのか?」という観点が抜け落ちがちです。その考慮を具体的にやってみた、ひとつのサンプルとしてお役に立てれば幸いです。書いてる俺はとても勉強になった。



<2024/12/05>


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