『三津浜』デザイナーズ・ノート(後編)




 昨年執筆した前編に引き続き、『三津浜』のゲームデザインについて話をいくらかしてみたいと思います。今回は主に数値調整の話です。

ゲームの流れ

 最初に考えたのが「サイコロ6個を振って、それを逆順で2個ずつドラフトしては競りを行う」という仕組みだったので、しばらくサイコロは6個にしていましたが、いくらか問題が出てきました。

 ひとつには、逆順ドラフトにすると現在の手番プレイヤーが誰か、ゲームが今どのフェイズにいるかが分かりにくくなってしまいます。オンラインテストでこの指摘があったため、サイコロは単純に手番プレイヤーが全部振ってその中から選んで競りにかけるようにしました。そうすると手番差が生じるのをどう補填するか、という話になります。ドラフトしていたのは手番の有利不利を緩和する狙いもあったからです。
 これについては、リアルタイムの競りにすると競り落とすかどうかのほうが手番自体よりも問題になるから手番差はプレイヤーに認識されにくいと考えて、手番順による補正は入れませんでした。手番プレイヤー=競り主には確実にお金が入る機会がありますから、それが先に来る先手がほんの少し有利に見えますが、値付けによってその有利不利も変動する以上、その差を定量化する価値はないという判断です。平たく言えば、4番手であっても競り落として魚を得れば有利なポジションに立てるからそのように立ち回ればいい、ということです。
 個人的な好みですが、システムからあまり強くプレイヤーに介入して公平性を保護するのは、私はきらいです。細かい調整が行き過ぎるとゲーム中にどれを選択しても同じになってしまい「やっている感」よりも「やらされている感」のほうが強くなってしまうからです。ですから、初手で目標カードを配るとか、出遅れたプレイヤーに対してとってつけたような救済を与えるとか、そういった調整は無くて済むなら無い方がいいと思っています。何よりそういった細則は、面倒な割に面白さに寄与しません。例えば本作でも2番手以降に特定の魚を倉庫に与えるような調整は可能ですが、その妥当性を担保するテスト工数が面白さに引き合いません。だったら、プレイヤー間の相場観でバランスを取らせるほうが単純です。単純ということは、プレイアビリティが上がるということです。

 で、単純に6個ずつ時計回りに振ってもらっていたのですが、女性プレイヤーから「サイコロ6個が持ちにくい」という指摘がありました。多すぎると。これがもうひとつの問題点です。
 こういうのはテストを色々な人にしてもらわないと分からないところで、自分は指が長いのであまり感じなかったのですが、取り回しの悪さはよくないと判断して、各魚種1個ずつの4個にしました。個数が減れば製造原価も下がるので、この修正は一石二鳥です。

 実際に制作をやってみると分かるのですが、最初にゲーム規模をざっと確定させてしまえば、あとの調整ってだいたい削っていくしかないんですよね。追加してゆくタイプの修正よりは、削ったり簡略化したりする修正のほうが概して良い結果をもたらす。私は趣味で合唱をやってるのでアカペラ編曲なんかもするんですが、演奏や編曲のときもこの原則はまったく同じです。余計な技巧を編曲で入れたり、演奏にあたって楽譜にない解釈を無理に入れたりするといいものができません。楽譜に書いてある以上のことはしないほうがいいし、編曲もシンプルに収めるほうが歌いやすいし音の鳴りが良い。
 だから、物を作るって言いますけど何もないところに「作る」んじゃなくて、あるべき姿がどこかにあって、それを「見つける」ために少しずつ削ってゆく、みたいな感覚のほうが実感には近いです。完成に近づくほど自分で作った実感は薄れますし、デザインもデベロップもほとんど論理です。なぜこういうルールや数値にしたかは全部説明できますし、できなければ嘘です。理由のあることしかやってないので、自分で作ったという実感はありませんし、別にそれで構わないと思っています。

 そういうわけで「サイコロ6個を2個ずつドラフトして競る」から「サイコロ4個を手番プレイヤーが選んで競る」に変わったわけですが、では手番プレイヤーはどうやってサイコロを選べばいいのか? という問題が残っています。
 前のルールでは個数にだけ制限がありました。今回も2個ずつ選ばせても良いのですが、なんとなくこれ、高い目2個を無条件に選びそうですよね。それだと選択にジレンマがなくなりますよね。
 合計額を10000円以下にするとかいくつか考えたのですが、最終的に採用したのは「合計が1≦n≦9になるように取る」という条件でした。4D6なので出目合計の期待値は14、その中から9であればそこそこ選べます。ピップが少なければ種類を沢山取れるし、多ければ逆に1~2種類しか選べない。ピップは単純に高くても低くてもダメで、6が沢山出ると逆にどれかを捨てなければならず、選択にちゃんとジレンマが生じる。9にしたのは、1桁に収めるという条件が覚えやすいからです。
 あとこの方式の良いところは、1手番でサイコロによって生じる価値をだいたい同額に揃えられるところです。だいたいプレイヤーの選択するピップは7~9です。そうすると、プレイヤーが1手番に獲得するリソース(お金なり魚なり)の平均的な量もざっと当たりをつけられます。すると、何手番でどれだけリソースが貯まり、何手番あればセット目標を獲得できるか、それが何回発生したらゲームが終了するか、つまり(1手番の所要時間を計算して、それを手番数に掛けることで)ゲームは何分で終了するか、という収束を計算できます。そういう観点からすると実はゲーム側でコントロールをやや強くかけているのですが、ぱっと見そう映らないように、プレイヤー側にコントロールの感覚を与えるようにできているのではないかな、と思っています。
 本作で一番気に入っているシステムはこれで、この「1≦n≦9」という条件式が『三津浜』のコアです。3~4あたりが一番出てほしい目になるのは、ほかのサイコロゲームにはない特色だという自負が少しだけあります。

目標と競り値

 さて、前編でも述べましたが、最初の魚4種類の値段を「5金、10金、20金、30金」とざざっと決めてしまいました。ここから、実際にテストで回した感触をもとに、ゲームとして妥当なセットコレクションの目標を決めていきます。ver0.1では目標カードの価値を問わず、先に3個置いたら勝ちというレースにしていたのですが、セットの価値を得点化したほうが競りらしくなるのでver0.2以降は目標ごとに金額を設定しました。

 と、その前に「お金の単位はどうするか?」という問題があります。それっぽく聞こえたらどんな単位でも構わないのですが、中世か近代か現代か、いつ頃の物価を想定するのか、というのはプレイアビリティに多少の影響があります。
 ver0.1では江戸時代に設定を仮置きして「匁」としていましたが、ある程度近い時代のほうが感覚からはずれないので、ver0.2以降では現代に近い時代を想定して「円」に変更し、金額もメバル1,000円、サヨリ2,000円、タチウオ3,000円、タイ4,000円と1,000円刻みにしました。覚えやすいからです。厳密な年代までは決めずに、昭和の「ひと昔前」くらいの雰囲気をもたせてプレイヤーになんとなく想像してもらう、という方向にしています。物価は時代によって変動が激しいので、決めをゲーム側でつくらないほうが違和感を抱きにくいと判断しました。もうひとつ、1,000円刻みにすると英語でプレイするときの単位もthousand yenとなり、なので値段のコールをone, two, three, ... と、簡略化できることも意図しています。
 本作はお金=勝利点なので、勝利点の名称はいわば無形のゲームコンポーネントとして特別な重さをもちます。扱いやすく、かつ雰囲気が出るように処理しておくことは、重要です。このおかげで後日紙幣のカードをグラフィックデザインする際も、実際の紙幣に準じたデザインを導入でき、直感的に分かりやすくなりました。ちなみにこの紙幣デザインは1代前の夏目漱石版千円札がイメージの元になっています。何でかって? そりゃあ漱石が『坊っちゃん』で松山ゆかりの人物だからですよ。『坊っちゃん』は私の出身高校が舞台なので、この要素は落としたくありませんでした。せっかくゲームを自作するからこそ、思い入れを乗せることは大切です。

 単位を決めたところで、目標カードをデザインしていきます。
 といっても、まず実際に作ってみて、どうすれば違和感のない目標金額になるかという観点から逆算します。最初は直感でセットを作ってみて、そこから数値を変えたり削ぎ落としたり、というプロセスになるのは魚の値段と同様です。
 場の目標カードは5種類くらいが視認できる限度でしょう。それを延々遊ぶだけでは複数回プレイに耐えないので、両面に異なる目標を設定してそれを裏表ランダムにセットアップすればセッションがいくらか多様になる、と考えました。これならカードは5枚で済むので原価も抑えられます。同人制作はとにかくコストダウンが重要です。
 方針としては、裏表にだいたい同じ価値の目標を設定してゲームが大きく壊れないようにする、魚種は均等に配置する、必要な魚種も1種類~4種類/任意の魚種を使える特殊なものも用意して幅をもたせる、1ロールで揃う目標は原則用意しない、といったところです。平均して2~3ロールで届くような目標付けを想定しています。
 もっとも、原則だけでは面白くないので、いくつか外した箇所はあります。目標カードのうち1枚は裏表で価格が大きく異なるものを用意して全体の相場感が変わるようにしていますし、別の1枚にはひとつだけ1ロールで揃う可能性がある目標を用意しました。後者はデザイン上のちょっとした悪戯なのですが実際のゲームでたまに出ることがあり、場が盛り上がる材料になればと思っています。

 ver0.2で魚の価格を1,000円刻みに決めたので、それをもとにセットを適当に組み、各セットの価値は魚の価格合計に魚種数に応じた係数を掛けて算出し、その額を裏表で同じくらいに揃えます。Excelで一覧化しておくと後の調整も楽です(少し下にサンプルを載せます)。
 こう書くと難しそうですが、やっていることは足し算と掛け算だけの算数レベルです。係数をいくらにするかでゲームでの現れかたが微妙に変わるので、Excel上で計算式を少しずつ触りながら直感に合う金額を決め、それをもとにテストを行います。

 そんな感じでテストしてみて金額自体に大きな問題はなさそうだったんですが、テストで「魚の金額が4種類あって覚えにくい」という指摘が入りました。作る側は数値を把握しているのでそう感じないのですが、確かに一理ある、どうしようかなとしばらく悩みました。
 いちばん単純なのは、全部の魚を一律1000円にすることだ。これなら覚えやすい。だけどそうするとセットの価格に根拠がなくなるのでは? ……こう考えたところで、あ、と思いました。魚の値段を、隠しパラメータとしてそのまま残せばいい。
 つまり、最初に決めていた1,000~4,000円の値段はExcel上でそのまま据え置く。その上で額面だけ全魚種を1,000円に揃える。するとプレイヤーには1匹1,000円という《見せ掛けの相場》が提示されるので、それをもとに競りが展開される。1,000~4,000円という《本当の相場》よりも落札価格は概ね安いので、セットを揃えると魚の価値が額面金額から跳ね上がることになり、セットを目指す意味が生まれる。《見せ掛けの相場》が単純明快なので(偽物の)補助線として機能し、競りゲームにつきものの序盤の相場分からない問題も回避できる。魚をお金として扱いやすくもなる。

 これも、可能なかぎり単純なほうが良いという先の原則に沿った調整です。実際に回してみると、最初は額面の1,000円をもとに競りが展開されつつ、なんとなくメバルが安めでタイが高めという相場に落ち着くようになり、しかもそれがプレイヤーに直接は見えないため競りで額面が決まってゆく「かのような」雰囲気をうまいこと演出してくれる、という良い感触を得ました。
 ですから、このゲームで競りの相場は本当は決まっています。メバルからマダイまで1,000~4,000円というのが本当の基準価値で、そこに種類数に応じた係数が掛かっているだけです。値付けは概ねこれを上限として収束してゆきます。これは『センチュリー:スパイスロード』に学んだ手法で、あのゲームでは4種のリソースが1~4勝利点にほぼ対応しており、たまに最高値のリソースを使うカードでそれを上回ることがあります(これは、ボードゲームカフェ「ミープルの森」の店長さんに教えていただきました)。『三津浜』では、種類数に応じた係数を掛けることで余剰価値を実装しました。

 そうした調整のベースに使ったのが、下のようなExcelファイルです。自分だけが使うものなので記述が不親切極まりないですが、なんとなく感じはつかめるかと思います。最後はバランスを丸めるために、メバルの額を1,500円に上げました。

【画像】目的カードの数値調整用Excelファイル

 作っているときは気付かなかったのですが、初回の推奨配置でだいたい似たセッションになるのはそのためで、ゲームが裏からコントロールしている度合いが思いの外強くなってしまいました。システム側からのコントロールを強めるという、自分が好きでない方向に図らずも調整してしまったことは反省点で、もうすこし揺らぎの幅をとるようなシステムにしてもよかったかな、と今は思います。だけどそうするともっと人を選ぶのですよね。ピュアユーロを目指すのかモダンユーロを目指すのか、ということはいつも自分の中に問題意識としてあって、モダンユーロを踏まえてドイツゲーム/ピュアユーロを再実装するというのが本作の(というか自作全体に)裏テーマとしてあるのですが、システムの手綱をとることの難しさを痛感しました。

おわりに

 作っていてずっと思っていたのが、小箱ひとつ作ることがこんなに吐きそうにしんどいのか、ということです。

 カード45枚とサイコロ4個、あとはマーカーだけ。たいして難しいことをしてるわけでもない。なのに数値調整は地獄の一言でした。テストのたびに違うフィードバックが返ってきて、その原因がどこにあるのか見極めが難しい。数値を触ったからといって、乱数(サイコロ)やプレイヤー次第でセッションの雰囲気は変わる。本作は小箱の割に使うパラメータが多く、テスト回数もそれほど多くはとれないため、パラメータを1ヶ所だけ変えてその是非を検討するような厳密なテストがしづらい。ある程度決め打ちで実装や修正を行って効率よくテストをしないと、形にならない。
 開発後半になると、デベロップの仕上げをしつつグラフィックデザインの打合せや材料の仕入れも行いますから、全体スケジュールを見ながら細部の検討もする必要がある。正反対の作業を同時並行しているので精神的な負荷がひとかたならずありました。グラフィックはグラフィックで別府さんに相当な苦労をおかけしてしまい、特に倉庫カードは方向性を決めることが本当に難しかったのですが、そのかいあって箱もカードも説明書もたいへん質の高いグラフィックに仕上げていただきました。これでゲームがつまらなかったら俺は死ぬ。そういうプレッシャーと戦いながら入稿前夜まで目標カードの数値を検証していました。

 採用したメカニクス自体は易しいので、本作はどちらかというとデベロップの勉強になりました。
 小箱だからといって簡単に作れるわけではない。登場する数値すべてに対して根拠をもたせる必要があるし、プレイヤーに対して直感的な導線を引かないといけない。45分のゲームになると、ケアすべき範囲は本当に広い。そういう「開発のスケール感」が分かった一作になりました。
 自作ですからどうしても粗のほうばかり見てしまいますが、苦労した甲斐あって同年のゲームマーケット大賞の一次選考に拾っていただきました。といってもシステム自体の単純さや限界は上記のとおりで、私は数式を2つ3つ決めただけで、あとはそれっぽく細部を整えたらどうとでもなってくれます。ですから、半分以上はグラフィックとインターフェースのおかげで頂けた結果だと思っています。もう少しプレイヤーの裁量が効いて展開が多様になるようにシステムデザインの腕を上げないといけないな、と痛感します。

 そんなちょっとした苦労話でした。小箱を作るあなたにとって、いくらかの参考になれば幸いです。



<2020/02/03>


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