あなたの「いちばん」は、なんですか
 〜トリックテイキングを勧めることについて〜




どうも、寒くなりましたねえ。こんばんは。
突然ですけど、トリックテイキングって知ってます? いや推理小説とかじゃなくて、ゲームです、カードゲーム。そういうジャンルがありまして…ああ、ご存じで! さすがですねえ。
面白いのに、なかなか遊んでくれる人いないんですよね。というか知ってる人が少ない。ルールも難しかったりして、やっぱ知らないゲームじゃないですか、だから取っ付きが悪いのかな、よし遊ぼうとはなかなかならなくてねえ。あ、分かってくれます? そうなんですよお。
でもせっかくだし、もっと色んな人に遊んでほしいんですよね、気軽に。トリックテイキング普及! なんて言うと大それてますけどね、もっとこう、昔友達と大富豪を延々遊んだじゃないですか? ああいう感じで定番ゲームみたいに遊べるといいなあ、って。そう思いません?
いや、トリックテイキング愛好家どうし、きっと分かってくれると思ってましたよ。

ということで、「もっとトリックテイキングを遊んでもらうために、トリックテイキング好きの我々としてはどう普及に努めるのか」というテーマで、今回お話をしようと思うんですけども。
かくいう私も、別にそうトリックテイキングを知ってるわけじゃない。もちろん自称ゲーマーですから普通の人よりは遊んでますよ、遊んでますけど、種類でいうと30か40か、そのぐらいかなあ。皆さん倍以上やってたり年季の入ってたりする方も多いでしょうから、全然ぺーぺーだし腕前もないんです。
でも「普通のプレイヤー」っていう視点から、普及のために頑張りたいこととか、もっと多くの人とトリックテイキング遊びたいっていう希望とか、そのための方法、そういうことを喋っていきたいと、こういうわけです。だから若干主語の大きいことを話してしまうかもしれませんが、ひとつの意見として参考になるところだけを拾っていただければ、私としてはこれ幸いと好き勝手に話せるという…。

前置きがずいぶん長くなっちゃって、どうもすみません。少々長い話になってしまうんですけど、でも言いたいことは1つだけです。

「あなたの一押しのトリックテイキングを見つけて、それを広めよう」

ということです。これが主張。
この主張を軸にして3つほどテーマがありまして、まず、種類を沢山こなすよりも1つのゲームを長く遊ぶことで普及したいということ。次に、遊び仲間にゲームを紹介する必要もあるわけで、そのコツというか気をつけたいこと。で最後に、どんなゲームを勧めたらいいか。
大体こんな具合で話を進めてまいります。

1つのゲームを長く遊ぶ、ということ

ということで、最初は遊び方の話から。そこでまず最初に言いたいのが、トリックテイキングという遊びは、結構じっくりやるものじゃないか、ということです。
ゲームにも色々ありますから、一度遊ぶと直ちにその面白さが伝わるものもあれば、ある程度回数をこなしてじわじわと伝わってくるものもある。で、トリックテイキングは、どっちかといえば後のほうじゃないかと思うんですね。

私が最初遊んだのは確か「アゴニイアーント」っていうゲームで、これわりと簡単な、トリックを取るとマイナス点になって、17点失うと負けっていうやつなんですけど。これがもう、最初は何出せばいいのかさっぱり分からない。それで何となくプレイしてたら、最初の1ディールで1人で17点まとめて付けられちゃって、余りに可哀想だってんでもう1ゲームやってもらったんですけどね。
それでもしばらくプレイしてたら、まあ分かってくるわけです、スートがボイドのときに強いカードを捨てればいいとかそういう基本が。で、そうやって1ゲーム通しで遊んで慣れてから、続けてブラックレディを遊んでみると、同じような失点系のゲームなので今度は面白さの勘所がきちんと理解できる。ここまでくると、ああ面白いな、またやってみたいなとなるわけです。
この場合、アゴニイアーントもブラックレディも失点系のゲームですから、実質1つのゲームを3時間ぐらい遊んでるわけです。そのくらいプレイして、ようやく楽しさが分かってくる。少なくとも日本人にとってあまり今まで経験したことのない遊び方ですから、トリックテイキングって。そういうところがある。

アゴニイアーントは近年のゲームですけど、トリックテイキング自体は歴史が長いものですから、国や地方によって様々なゲームが遊ばれてます。ドイツだったらスカート、スイスだったらヤス、そういう具合に。私歴史は詳しくなくて今のも大変ざっくりした例でしたが、だいたいある地方に1つ伝統として遊ばれてるゲームがある。
そうした、スカートやヤスといった伝統ゲームって、人口に膾炙してずっと遊ばれてるわけですから、歴史をくぐり抜けてきた強みがある。ある程度の面白さがちゃんとあって、かつ繰り返しに耐える。スカートなんて1ゲームあたり36ディールやりますから、ちょっと遊んでそれで終わり、というゲームではありません。
他にも、昨年草場さんが雑誌で紹介されてたツーペンのように、酒場でだらだら遊ばれるようなゲームだってあります。お金…は賭けたらまずいのかな、その、一時の娯楽に供するものをですね、まあ賭けて、同じメンツでひたすらやるわけです。

元々がそういう遊ばれ方をしてるものですから、現代みたいに色んなゲームを次から次へと、という遊び方のほうがむしろ特殊だと思います。それはそれで興味深いですけど、どうしても趣味性が高いというかマニア的というのか、やっぱり普通の人が遊ぶようなしかたとはちょっと違いますよね。
だから、私みたいにドイツ/ユーロゲームへの興味からトリックテイキングに入ってきた人なんかは、次々違うゲームをやってという遊び方に慣れちゃってますけど、多分トリックテイキングって、そういうのとはちょっと違うところにいるんですよね。もっと1つのゲームに特化してあげるといいんじゃないかな、と思います。これだけずっと遊ばれて歴史のあるジャンルですから、繰り返し遊んで面白くないわけがないんです。ちょっと遊んで終わりとするには勿体無い。もっと遊び倒してやろうよと、こういうわけです。


ルール説明は平易に、ということ

さて、1つのゲームを繰り返し遊ぶと面白いということを言いました。そうするとですね、普及という点でもメリットがある。
我々はですね、トリックテイキングという言葉を知ってるぐらいですから、当然マストフォローとかビッドとか、そういうメカニクスにも慣れてます。だから違うゲームを次々出されてもあまり抵抗がない。
でもそうじゃない人、便宜上初心者と呼びますけど、初心者には難しいです、いきなりマストフォローとかノートランプとか言うのは。だからあれこれ違うゲームを遊んでもらうと、覚えきれなくて難解な印象が先立ってしまう。ほら、ゲーム会で「次これやりましょう、はい次これ」と違うゲームを次々出して、若干引かれたみたいなね、そういう経験きっとおありじゃないかと…まあこの話あまり触れると古傷えぐられるんで、このへんで…。

その点1つに絞るといいんです、そのゲームだけ覚えてもらえればいいんですから。トリックテイキングというジャンルの存在すら説明する必要がない。私は経験ないですけど、学生時代に麻雀覚えるのとたぶん同じだと思います。しかも大抵のトリックテイキングは麻雀より簡単ですからね、ルール覚える分には。
家族で遊ぶにしても、友達同士でやるにしても、あまりあれやこれやと紹介するよりはですね、1つか2つのゲームを遊ぶほうがやっぱりいいですよ。

折角なので、特に初心者と遊ぶ際にですね、気をつけるといいかなと私が思うことをお話ししておきます。主にルール説明の話です。

原則は、なるべく平易に説明することです。
で、とりあえず最初は、専門用語を使わない。マストフォローとかトランプとか、そういうのを言わない。これ、知らない人相手に使っても説明の役に立たないんです。ここで教えておけば他のゲームでも使えるとか、そういう色気を出すとダメです。さっきも触れましたけど、トリックテイキングという名前さえ出さないほうがいい。
なぜかというと、初心者はまだそのゲームが面白いかどうか知らないから、正直興味もまだそこまでないんです。そこで突然マストフォローとか言っても、難しいという印象にしかつながらない。「前の人が出したマーク(スート)と同じカードを持ってたらそれを必ず出してください。これをマストフォローと言います。」これ、後の文なくても説明として支障ありませんよね。私もトリックテイキングとかマストフォローとかいう用語を出して、初心者の人に「??」という顔をされて失敗した経験があります。
とにかく遊んで、面白いと思ってもらえたら、興味を持ってもらえたら、そのとき初めて「トリックテイキングって言ってね」と紹介すればいい。そしたらいずれその人は自分で調べるんです。それをこっちが先回りして押しつけると、ときに逆効果だったりする。たとえそれがトリックテイキングというジャンルへの興味につながらなくても、こないだ遊んだあのトランプ面白かった、またやろうよ、そう言ってもらえたら十分じゃないですか。トリックテイキングを遊んでもらうのではなく、そのゲームを遊んでもらう、そういう意識が大事だと思います。

あと気をつけてるのは「これは難しいゲームです」という気配を出さないことですね。やってみたら簡単だよとか、見てたらすぐ分かるとか、そういう言い方をしてですね、言葉は悪いんですけど、まあちょっと騙すというか、簡単なゲームだという体で教える。
例えば、こういう感じでルールを説明するとします。

トランプ36枚ね、6から10と絵札とA、あとジョーカーで37枚。こうやって3人で12枚ずつ配って、1枚余るからこれは真ん中に出す。このマークが一番強いの。
配った12枚で勝負するんだけどさ、9枚使って9回勝負するのね。1回の勝負ではカードを順番に1枚出す。最初は適当に出して、次の人は同じマークがあったら絶対それ出して、出さないと反則ね。同じマークで数字が高いと1勝で1点もらえるの。同じマーク出さないと数字が高くても負け。でも真ん中のマークを出したら、そっちの方が強いから勝ち。それを9回やるだけ、簡単でしょ。
で手札3枚余るじゃん? これはその9回勝負をする前に、自分が何回勝てるかを賭けるのね。ダイヤが0でスペードが1で…この紙に書いとこうか、このマークの数字の合計が自分の勝ち数。ピタリ賞だと、全員当てたら全員10点。2人正解なら20点、自分だけ正解ならなんと30点もらえるから。予想した3枚は隠しといて、終わってから見せる。
真ん中の強いマークを見て、最初に予想して、9回勝負して、予想と勝負の合計点が自分の点数で、100点取った人が勝ちね。はいじゃあ最初の予想行こうか。

ご存じですよね、パーレットの「99」です。上の説明だと初心者向けにプレミアムビッドを抜いてるのもあるんですけど、意外とルール量が少ないんです。トリックテイキング用語だって一切使わずに説明できる。まあゲームに慣れたら「トリック」「切札」っていう言葉ぐらいは使うと便利かもしれませんね、そのへんは臨機応変に。
人によって説明のスタイルは色々あるでしょうけど、何回も繰り返し遊ぶことを念頭においたら、最初は簡単にやるのがいいです。厳密さは捨てていい。とりあえずやってみるの心です。とにかく気軽に遊んでもらうべく、色々策を講じるわけです。
99なんて結構難しいゲームにも思えますけど、やってみると段々ビッドの的中もできるようになりますから、このぐらい気軽に出してみると意外と受けるんじゃないかなと思います。
ルール説明は簡単に、という話でした。


では何を選ぶか、ということ

で最後に、その1種類に何を選ぼうか、という話なんですけど…。
これは草場御大に倣ってですね、私もこう言いたいと思います、「自分の愛するゲームを出しましょう」。

トリックテイキングって、ジャンルで語られがちです。「これがやりたい」ではなく「トリックテイキングやりたい」という言い方をされがち、とも言えます。もちろんそれは、「手札を一巡出して勝敗を決める」という基本メカニクス(定義)が固まっているからなんですけど、でもブラックレディとナポレオンだと、かなり遊んだときの印象は異なりますよね。
そういう、ブラックレディがやりたいのかナポレオンがやりたいのか、そこの差異は個々人の中でもっと認識されていいと思うし、その中で好みがあるのが本当だと思うんです。「トリテやりたい」という漠然とした言い方から一歩踏み込む、そこに遊ぶ強い動機が生まれると、私は思います。

それにやっぱり、そのゲームを好きという気持ちは、遊ぶ人にも伝わります。トリックテイキングやりたいけど、色々あるからまあ今回はこれで、というよりも、この(トリックテイキング)面白いよ! と強くプッシュする方がいいです。そういうゲームを1つ持っておくといいです。

どれを具体的に選ぶかというのは、これはもう極論何でもいいです。自分が好きであればいいので、トゥルックだろうがホイストだろうが、ヴァスシュティッヒだろうが、いや本当にただの例ですけど。
でもそれで終わっても私が面白くないので、僭越ながらおすすめを挙げると、やっぱりトランプゲームがいいと思います。

利点はいくつかありまして、まず初心者に受け入れられやすいです。カードの内訳も分かりますし、トランプでこんな面白いゲームがあったのか! という驚きも与えられるので、その点でも良いです。逆にボードゲームの愛好者には受けが悪かったりするんですけど、まあそういう人たちは自分で面白いパッケージゲームを探してきたりするので。
遊べるゲームの種類も段違いです。パッケージはそのゲームに特化してますから。トランプ1デッキで、トランプゲーム大全だけでもトリックテイキングが百数十種類あるんでしたっけ? なかんずく伝統ゲームはほとんどここに入ってきますから、これを遊ばない手はない。
トランプなら簡単なゲームも多いですからね。もちろんパッケージゲームにも面白いゲーム、取っ付きやすいゲームは沢山あるんですけど、やっぱり固有のコンポーネントでないと遊べないゲームをしようとしてるので、若干癖のあるゲームが多いかなという個人的な印象があります。新しいゲームなのでまだ年月に淘汰されてないというのもありますし。だからパッケージゲームは、ある程度慣れた人が新機軸を求めて遊ぶ、そういう印象です。それはそれで魅力的だし私も結構新作好きですが、安牌という点ではやはり伝統ゲームに軍配が上がります。
あと、入手が簡単なのも大きい。パッケージゲームはゲーム専門店に行かないとないけど、トランプならコンビニでも百均でも売ってますでしょ。だから気軽に出して気軽に遊べる。カードを汚しても代わりを買えばいいし、プラスチック製の丈夫なカードもあるから、酒飲みながらでも遊びやすい。飲みながらプレイできるっていうのは強いですよ。
それにほら、飽きても他のトランプゲームが遊べるじゃないですか、オーサーとかベリシネベリシとか。今回はトリックテイキングの話なのでそちらの話はしませんが、定番の強さですよ。

で、トランプで遊ぶシチュエーションも様々ですから、人数別におすすめを持っておくといいかな。
私のおすすめを話しておきますと、まず2人ならシュナプセン、セブンアップ。特にシュナプセンはなんとカード20枚しか使わなくて、プレイしたら山から引くとか、前半と後半でフォロー義務の有無が変わるとか、結構面白い要素が多いです。若干難しめですけど非常に頭を使っていいですよ。
3人ならさきほど挙げた99、それからミゼルカ、スカート。スカートもルール覚えにくいんですけど、分かれば案外簡単で、ビッドがエキサイティング。ドイツでは大会もあるぐらいなので、面白さは折り紙つきです。
4人は色々ありますけど、オーヘル、スペード、ユーカー、ピッチあたり。オーヘルは皆さんやったことあると思うんですよね、ウィザードとかスカルキングで。スカルキングはパーティ寄りに調整しててその荒さが楽しいんですけど、オーヘルのほうが読みという点では緻密にいけますから、長くやるにはむしろ面白いんじゃないかと。スペードやユーカーのペア戦もいいですね。
5人なら日本だとナポレオンが一番有名ですが、ここはファイブハンドレッドを推しておきます。ナポレオンと似たルールですがビッドの幅がより広くて、ミゼールやノートランプのビッドもあるので、手札が悪くても行けるところがいいです。
あとは何人でも面白いということで、22。ノースートのトリックテイキングですけど非常に盛り上がるので「2番目のゲーム」として挙げておきます。


おわりに

ということで、ずいぶん長く喋ってしまいましたけど。
結局言いたかったのは、定番ゲームを遊ぼうよ、どれか自分の好みを1つ選んでそれを仲間と延々遊ぶ、それってきっと楽しいよ、ということに尽きます。 最初に大富豪の話をちらっとしましたけど、ああいう遊び方ができるのが、大げさに言えば文化だと思うんです。いや文化とまではいかなくても、家庭の定番として、あるいは友達どうしの鉄板ゲームとしてトリックテイキングを遊ぶ。そういうゲームがあれば、素敵だと思いませんか。
だから、ちょっと時間あるし何か遊ぼうよ、という機会に、ぜひトリックテイキングのおすすめを持っててほしいんです。それも、あなたが一番好きなゲームを。もうすぐクリスマスがやって来ますし、それが終わったら年末です、ご家族やご友人と会って遊ぶ機会もあるでしょう。そのとき、遊びたいゲームをぜひ持っておいてほしいな、と思っています。
あなたの「いちばん」は、なんですか。

ご清聴、ありがとうございました。




この記事は「Trick-taking games Advent Calendar 2015(トリックテイキングゲーム・アドベントカレンダー2015)」の、2日目の記事として執筆されました。

<2015/12/2>

←No.8 ブルームーン日本選手権に出場してきた(後編) No.10 2016年を振り返るなど→
コラム一覧へ トップページへ